卒業2
一通り話し終わった後、ジェラルドは急に真顔になった。
「……すまなかったな。今回の件、甥の代わりに謝る。……それで、偽聖女がエドモンドの妻になるのを防いでくれた礼と今回の詫びを兼ねて、何か欲しい物があれば用意するが、何かあるか?」
「……特に欲しい物はありませんが……あえて言うなら、もう俺に大量の仕事を振るのは止めて下さい」
「欲しい物は無いという事だな……」
「後半のセリフを無視するな、腹黒宰相」
ジェラルドは、またヘラヘラした笑顔になって、今度はガブリエラに顔を向けた。
「ガブリエラ嬢はどうだ?何か欲しい物はあるか?」
「……私も、特に欲しい物はございません。……ただ、あの夜会の件で、マティアス様がヴァンパイアだという事が多くの人に知られてしまいました。マティアス様が、今まで通り伯爵として平穏に過ごせるよう取り計らって頂きたいです。……まあ、以前から平穏では無かったかもしれませんが」
「良い子だねえ。……ガブリエラ嬢、俺の愛人にならない?」
マティアスが、今にも殺しそうな目でジェラルドを睨む。
「睨むなよ、冗談だよ。……でも、そうか。わかったよ。なるべくマティアスの力になると約束するよ」
「ありがとうございます、ジェラルド殿下」
ガブリエラは、そう言って頭を下げた。
ちなみに、ジェラルドは他の者にも希望を聞いていた。リディオはブランド物の食器、ヨハンは考古学に関する貴重な資料、ベルナルドは訓練場の拡張、プリシッラは店の改築、ロマーナは薬の研究費用を希望したらしい。
ジェラルドが帰った後、マティアスはぐったりした様子で呟いた。
「……あの腹黒宰相、俺をこき使う気満々じゃないか……俺があの人に従って働いていたのは、偽聖女の家の捜索令状を出してもらう為だったのに……」
「ああ、兄さんの苦労、わかるよ。……僕だって、あれはもう経験したくない」
話によると、夜会に乗り込むと決めた後、マティアスはヨハンに頼んでいたらしい。乗り込む準備で忙しいから、一日だけ自分の代わりにジェラルドの仕事の手伝いをして欲しいと。そしてヨハンが手伝いに行ってみると、まあ大変だったとの事。どう大変だったかは思い出したくないらしく、ヨハンは体を震わせるだけだった。
「そう言えば、聞きましたか?」
リディオが話題を変えた。
「ロマーナ嬢が、牙を隠す薬の改良に成功したようです。まだ試験管での実験の段階ですが、副作用の現れる可能性がぐんと減るそうですよ」
「じゃあ、貧血が起きる頻度も減るかもね」
リディオとヨハンの会話を聞きながら、ガブリエラは複雑な気持ちになっていた。
マティアスが健康でいられるのが一番良い。しかし、貧血を起こす頻度が低くなるという事は、ガブリエラを必要としなくなるという事ではないか。契約もとっくに切れているし、マティアスと会う理由が無くなる。そう考えて、ガブリエラは寂しさを感じた。
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