無実の証明1
夜会当日、王城の広間は沢山の客で賑わっていた。アンジェリカは、辺りを見渡し、笑みを浮かべた。やっと、この日が来た。綺麗なピンク色のドレス、美味しい料理や飲み物、身分も容姿も申し分ない恋人。全てを手に入れた。エドモンドは今、少し離れた場所で客達と挨拶を交わしている。
「ごきげんよう、アンジェリカ様」
学園での同級生である令嬢が笑顔で挨拶してきた。彼女は侯爵家の令嬢なのでアンジェリカより身分が上なのだが、敬語で話しかけてくる。第一王子と婚約するという噂が広まっているのかもしれない。
しばらく話した後、令嬢は挨拶をしてアンジェリカの元を離れていった。すると、金髪のメイドがアンジェリカの近くにあるテーブルに赤ワインの入ったワイングラスを並べていった。話し続けて喉が渇いたので、早速グラスを手に取る。
「アンジェリカ様、ごきげんようー」
今度は、プリシッラが話しかけてきた。
「実は私、今こちらの会場で焚かれているお香をご用意させて頂いたんですー。どうぞ、お楽しみ下さいー」
それだけ言って、プリシッラは去って行った。確かに、会場には植物の良い香りが漂っている。随分と気が利く演出だなとアンジェリカは思った。
アンジェリカがワインを飲んでいると、何やら広間のドア付近が騒がしくなった。何事だろうと目を向けて、驚愕した。
会場に入って来たのは、黒髪で美しい顔立ちの男性。その男性には、見覚えがある。ゲームの世界でのラスボス、マティアス・バルトだった。
確かゲームでは、自身がヴァンパイアである事を隠す為に、こういった集まりにはなるべく参加しないようにしていたはず。どうしてこんな所に。
アンジェリカが改めてマティアスを見ると、彼は一人の女性を肩に担いでいた。その女性は抵抗しようとしているのか、足をばたつかせていて、メイドのような恰好をしている。
「皆さん、聞いて下さい!」
マティアスが、声を張り上げた。
「先程、不審な動きをしていたメイドを捕まえました。初めは、盗みを働こうとしているただのコソ泥かと思いましたが……とんでもない女でした」
マティアスは、メイドの黒髪を引っ張った。すると、黒のヴィッグが床に落ち、ウェーブがかった赤い髪が現れた。
「おわかりでしょうか。この女、聖女様を殺害しようとした希代の悪女、ガブリエラ・サヴィーニなのです!」
アンジェリカは目を見開いた。やはり、ガブリエラは生きていた。
「何か言ったらどうだ、この悪女め!」
マティアスは、ガブリエラの腕を後ろに回して拘束しながら立たせた。ガブリエラは、前を向くと、悲痛な表情で叫んだ。
「違う!私は、あの平民上がりの女を殺そうとなんてしてない。私の方が、あの女に殺されそうになったのよ!」
「嘘を吐くな!」
「嘘じゃない。私が殺した事になっているアッカルド子爵も、あの女が殺したのよ!あの女は麻薬を使っていて、アッカルド子爵はそれに気付いたから殺されたの!」
そこまで気付いているのか。アンジェリカは苦虫を嚙み潰したような表情になったが、すぐに目を潤ませて、可哀そうな聖女を演じた。
「何故私に濡れ衣を着せようとするのですか、ガブリエラ様。本当の事をおっしゃって下さい。罪を認めて償えば、神はきっと許して下さいます」
アンジェリカがそう言った時、会場のドアが勢い良く開けられた。
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