無実の証明2

「何の騒ぎだ!」

 会場に入って来たのは、会場付近の警備を任されているベルナルドだった。

「ああ、ベルナルド。この悪女が、自分は暗殺未遂などしていないと言っているんだ。それどころか、聖女様が麻薬を使っていて、アッカルド子爵を殺したと」

「何だって!」

 ベルナルドは、目を見開いた。

「では、あの情報は本当だったのか……」

「というと?」

「実は、ガブリエラがアッカルド子爵を殺害した証拠を掴もうと、子爵について調査していたんだ。そしたら、子爵が入り浸っていた怪しい店に、栗色の髪をした女性が来ていたとの証言が複数得られた」

「栗色の髪?それは、まさか……!」

「ああ、聖女様の特徴と一致する。人違いか何かだと思ったが……」

 そう言って、ベルナルドはちらりとアンジェリカに目を向けた。

「待て、聖女様がそんな事をするはずが無い。……そうですよね、聖女様!」

 マティアスも、アンジェリカの方に身体を向ける。


 否定しようとした所で、アンジェリカは驚愕した。口が、思うように動かないのだ。勝手に言葉を発する。

「……私が……アッカルド子爵を……殺した。その場面を見られたから……ガブリエラを……撃った……」


 何が起こっているのか。まさか、自白剤?でも、いつの間に……。そして、アンジェリカは思い当たった。金髪のメイドが並べていた赤ワイン。あれを飲んだのは自分だけだ。見ると、会場の隅で、金髪のメイドがヴィッグを取っていた。現れたのは、黒いロングヘア。その女性は、不敵な笑みを浮かべながら眼鏡を掛けた。


「ロマーナ・チェステ……!」

 思わず呟いた。ゲームをやり込んでいたのでロマーナの存在は知っていたが、全く気付かなかった。

 それにしても、何故自白剤が効いているのか。アンジェリカは、自身が麻薬の影響を受けないように、解毒剤を前もって飲んでいたのに。


 ロマーナが自白剤を独自に改良していた事を、アンジェリカは知らない。


 アンジェリカは動揺していたが、まだ幸せな生活を諦める気は無かった。ドレスの中に麻薬の粉を入れた袋を忍ばせている。会場でアンジェリカに近づいた者は匂いを嗅いでいるはずなので、アンジェリカの味方になるだろう。

 しかし、会場の客は困惑した顔でヒソヒソ話をするばかり。誰もアンジェリカを庇おうとしない。


 「実は、ジェラルド殿下に、聖女様の自宅を捜索する許可を貰ったんだ。聖女様が本当に子爵を殺害したのなら、何らかの証拠が出るかもしれない」

「何?王弟殿下の許可も取ってあるのか」

 ベルナルドとマティアスの会話を聞いて、アンジェリカは焦った。隠し部屋に麻薬のストックを保管している。もしそれが見つかったら……。


 そんなアンジェリカの様子を見ながら、ガブリエラは小声でマティアスに囁いた。

「本当にこんな芝居する意味ありました?」

「……ビアンコが、ただ乗り込んでも話を聞いて貰えないとか言うから……。もしかしたら、あいつ、筋書きを考えるのを楽しんでいただけかもしれないな……」


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