仮面舞踏会4

「あら、誰かと思えば、リディオさんじゃないですか。何故こんな所にいるんですか?」

 アンジェリカが、拳銃を握りしめたまま、笑顔で言った。

「……色々事情がありましてね。お久しぶりです、聖女様」

 リディオも、汗を浮かべながら笑顔で言葉を返した。

「急にいなくなって、心配したんですよ。今まで連絡もなく、何をしてらしたんですか?ガブリエラ様は、見つかっていないのでしょうか。……それとも、見つかっているのに、居場所を秘密にしているのでしょうか?」


 リディオは、何も言わないでおこうと思うのに、口が動くのを止められなかった。

「……ガブリエラ嬢は……生きて……おります……」

「そう、やっぱり……。あなた、私を裏切ったんですね」

 アンジェリカは、笑顔を張り付けたまま言った。まさに聖女と言うべき笑顔のはずなのに、その笑顔はとてつもなく恐ろしく感じた。


 「まあ、私を裏切った事には目を瞑りましょう。あなたがガブリエラ様を殺さなくても、皆は私の味方をしてくれるでしょうから。……でも、リディオさん、何故ここにいるんですか?ここには一人でいらしたんですか?」


 ここでマティアスの名を出すのは非常にまずい。勝手に口が動こうとするのを必死で抑え、リディオは言葉を発した。

 「……あなた、私に何をしたんですか?ヴァレンティ家に仕えていた時、あなたの言う事を妄信してしまった。よく考えれば、あなたがガブリエラ嬢の殺害を私に依頼するのは不自然だ。本当にあなたがガブリエラ嬢に殺されそうになったのなら、やましい事がないのなら……騎士団や衛兵に泣きつけば良かった。そうすれば、ガブリエラ嬢が生きていたとしても、彼女は処刑されたでしょう。……それに今だって、あなたの前で真実を話そうとしている。何か精神に作用するような細工をしているとしか思えない」


 アンジェリカは、表情を崩さずに言った。

「リディオさん、賢いんですね。殺すのがもったいないわ。……でも」

 拳銃を握りなおすと、アンジェリカは急に真顔になり、今までと違う口調で言った。

「麻薬の事を調べられると、困るのよ。あなた、あの二人を尾行していたでしょう?あなたには死んでもらわないとね。……でも、その前に話してもらいましょうか。あなたの他に麻薬の取り引きについて調べている人はいるの?いるのなら、それは誰?」


 リディオは、必死でマティアスの名を出さないようにしながら、答えた。

「……死んでも、教えません」

「……そう」

 アンジェリカは、引き金を引こうとした。


 しかし、次の瞬間、辺りが霧に包まれたように真っ白になった。リディオが開発した煙幕だった。

「リディオ、無事か!」

 マティアスがリディオの元に駆け付けた。煙幕を張ったのはマティアスだが、アンジェリカに彼の顔は見えない。

「逃げるぞ!」

「はい」

 マティアスとリディオは、アンジェリカがいる方とは反対側に逃げて行った。


 視界が開けた時には、もう二人の姿はなかった。アンジェリカは、舌打ちをして呟いた。

「逃げられた……」


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