当主になりたい男1
ある日、朝食を取っていたガブリエラが、マティアスに聞いた。
「あの、ずっと気になっている事があるのですが」
「何だ?」
「この屋敷の庭に、石碑みたいなものがありますが、あれは……」
「ああ……俺の両親の墓だ。うちの一族には、故人を、なるべく教会が提供する墓地ではなく自分が持っている土地の敷地内に埋葬する風習があるんだ」
「そうですか……そうかもしれないと思ってましたが……」
「二人共、五年前に亡くなった」
マティアスは、そう言って朝食を口に運んだ。最近、マティアスは朝食も随分食べてくれるようになった。もしかしたら、ガブリエラの血をあまり飲まなくても済むようにしたいのかもしれない。
「バルト伯爵、手紙が届いております」
朝食を食べ終わった直後、リディオがマティアスに手紙を渡した。差出人の名前を見て、マティアスは少し眉根を寄せた。そして、手紙の中身を読んで、溜め息を吐いた。
「どうかしましたか?」
ガブリエラの質問に、マティアスは難しい顔をしたまま答えた。
「……俺の弟が、来週ここに来る予定らしい」
「え、弟さんが?」
マティアスの弟については、少しだけ聞いていた。マティアスより四歳年下の二十二歳で、名前はヨハン。以前はマティアスの仕事を手伝っていたが、向いてないと思ったのか、今は考古学の研究をしている。現在、異国にある遺跡の発掘をする為に家を離れているらしい。しかし、ゲームの中にヨハンは出てこないので、どんな人物か想像が出来ない。
「弟さんは、私の事情を知っているんですか?」
「いや、知らせていない。あいつは信頼できるが、一応秘密にしておく。……この屋敷に俺だけしか住んでいないという嘘は通用しなさそうだな。リディオもお前も、この家に仕えている事にするか。お前は、ヨハンが来る時ヴィッグをかぶれ」
「……そうさせてもらいます」
ガブリエラは、何だか面倒な事になりそうな予感がした。
一週間後の夜、玄関のドアが叩かれる音がした。リディオが玄関を開けると、ヨハンが笑顔で入ってきた。そして、出迎えたマティアスに声を掛ける。
「やあ、兄さん、久しぶりだね」
マティアスの後ろから、ガブリエラもヨハンの姿を確認した。肩くらいまでの長さの黒髪を、後ろで一つに束ねている。二十二歳との事だが、小柄で、十代後半に見えた。マティアスと似ていて、顔立ちが整っている。
「……久しぶりだな。荷物をリディオに運ばせよう」
ヨハンは、今日この屋敷に泊まる予定だ。荷物をヨハンの部屋に運んだ後、四人はリビングに集まった。メイド姿のガブリエラが、マティアスとヨハンの目の前に淹れ立てのお茶が入ったティーカップを置く。
「……ヨハン。お前、帰って来るのはまだ先じゃなかったのか。どうして急に帰って来た?手紙には何も書いてなかったが」
「急に話したい事が出来てね。……兄さん」
ヨハンは、肘をテーブルに突くと、妖しい笑みでマティアスを見つめた。
「バルト家の当主の座を、僕に譲って欲しいんだ」
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