泥だらけの悪役令嬢3

「……ここで待ってろ」

 そう言って、マティアスは馬車を降りた。ガブリエラが馬車の隙間から覗いていると、玄関から両親が出てくるのが見えた。遠いので顔は良く見えないが、元気そうだ。

 両親がガブリエラの所在を知っていて秘密にしていたら、罪になる。だから会う事は出来ないが、二人の姿を見る事が出来て安心した。


 家に入ってしばらくした後、マティアスは馬車に戻ってきた。馬車は、屋敷を離れていく。

「マティアス様、もしかして、私を連れ出した本当の目的って……」

 マティアスは、ガブリエラと目を合わせないまま言った。

「……悪かったな、勝手な事をして」

「え?」

「中途半端に姿を見せられても、かえってお前が苦しくなるかもしれないと思ったけど……俺だったら、親の無事な姿を見たいと思って……」

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」

 ガブリエラは、両手で口を覆ったまま言葉を絞り出した。

「……早く、親に堂々と会えるようになるといいな」


 マティアスは、そう言って微笑んだ。

 人によっては、かえって迷惑だと思うかもしれない。でも、ガブリエラは、マティアスの気持ちが嬉しかった。

 マティアスの笑顔を見て、ガブリエラは思った。こんな気持ち、もう恋と呼ぶしかないじゃないかと。


 その日の夜、マティアスとリディオは書斎にいた。

「いかがでした?視察は」

「……多分、迷惑とは思われてない……と思う」

 マティアスは、書類に目を通しながら答えた。

「しかし、何故急にガブリエラ嬢をご両親に会わせようと思われたのですか?」

「……この前、あいつがリビングで居眠りをしていた時に、寝言を言ってたんだよ。『パパ、ママ』って……」

「ああ、それで……」

「……サヴィーニ家には、懇意にしている商会について知りたい事があるという口実で行ったけど、暗殺未遂事件についても少し話した。……あの両親は、娘の無実を信じてたよ。少し疲れた様子ではあったけど、娘の帰りを待ってる」

「そうですか。……ガブリエラ嬢は無実の罪を着せられているわけですが、彼女の両親が罰せられる事はないのでしょうか?」

「今のところ、その様子はないな。もしかしたら、聖女様が両親まで罰しないように上に頼んでるのかもしれない。……慈悲深い聖女を演じる為に」

「あの方ならそうするかもしれません。……なかなか厄介ですね」

「……そうだな」

 恐ろしいほど綺麗な星たちを空に抱き、夜は更けていった。


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