泥だらけの悪役令嬢1

 ガブリエラは、両親の夢をみていた。前世での両親ではなく、本来のガブリエラの両親だ。

 二人は、ガブリエラに優しかった。学園の試験で良い成績を取れば思いっきり褒めてくれたし、風邪を引けば一晩中看病してくれた。まあ、甘やかされた結果、ガブリエラは学園中の女子に嫌われるような事になったのだが。


 目が覚めると、ガブリエラはリビングのテーブルに突っ伏して居眠りをしていた事に気付いた。目には涙が浮かんでいた。ガブリエラの意識を灯里が支配していても、あの両親に会えていない事を寂しいと思う気持ちは残っていたようだ。

 ガブリエラは、まだ外に出られない。口封じで殺される可能性もまだ残っているし、衛兵に捕まったら、聖女様を暗殺しようとした罪で処刑されるかもしれない。


 起き上がろうとして、背中にブランケットが掛けられている事に気付いた。マティアスかリディオが掛けてくれたのだろう。時計を見ると、午後三時。最近は、リディオと交代で食事を作っている。そろそろ料理の仕込みをしようかなと思いながら、ガブリエラは部屋を後にした。


 数日後、夕食を共にしていると、マティアスが口を開いた。

「……ガブリエラ、明日、俺の仕事に付き合ってくれないか?」

「どういう事ですか?」

「明日、孤児院の視察に行かなければいけないんだが、俺は子供と接するのが苦手だ。俺が子供に絡まれそうになったら、俺の代わりに子供の相手をして欲しい」

「でも、私は外には……」

「その点は大丈夫だ。俺に策がある」

 マティアスは、不敵な笑みを浮かべた。


 次の日の朝、バルト邸にやってきたのは、プリシッラだった。

「バルト伯爵、ガブリエラ様、そして執事さん。お久しぶりですー。一か月ぶりくらいでしょうか。その節は、大変ご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでしたー」

 玄関でそう挨拶すると、プリシッラは大きなトランクを持ち、ガブリエラと一緒にガブリエラの部屋に入って行った。


 しばらくして、リビングで待っていたマティアスとリディオの前に、ガブリエラ達が姿を現した。

 ガブリエラは、質素に見える緑色のドレスに身を包み、黒髪のヴィッグをかぶり、ナチュラルながらもガブリエラの顔つきが違って見えるメイクをしていた。

「新聞に絵姿が載っていたとしても、これならガブリエラ様だとは誰も気付かないでしょうー」


 プリシッラが、にこやかに言った。

「じゃあ、出掛けるか。ありがとう、ビアンコ」

「いいえー。バルト伯爵のおかげで姉の病状も良くなっていますし、お役に立てて幸いですー」

 プリシッラは、もう一着ドレスをガブリエラに手渡し、屋敷を後にした。そのドレスは、緑色のドレスと共に、先日のお詫びとしてプリシッラからプレゼントされる形となった。

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