商人とドレスと銃声と4

 目が覚めると、マティアスは自分の寝室に寝かされていた。

「あ、目が覚めましたか」

 側の椅子に座っていたガブリエラが声を掛ける。

「もう、何が『眠い』ですか。貧血で気を失ってるじゃないですか。私を守る為にあんなに出血して……」

 ガブリエラは、今にも泣きそうだ。

「……そんな顔をするな。ビアンコはどうした?」

「家に帰しました。マティアス様はあの方を衛兵に引き渡す気がなさそうでしたので」

「……そうか。今度、大口の顧客をあいつに紹介しないとな」

 マティアスは、上半身を起こしながら言った。

「本当に優しいんですから……。マティアス様、私の血を吸って下さい。よく考えたら、契約した後一回しか私の血を飲んでないじゃないですか」

 ガブリエラが、ベッドに腰かけた。


 確かに、約一週間血を飲んでいない。契約の影響か出血のせいかはわからないか、血を欲する気持ちが強くなっている。理性を無くさない内に血を吸った方が良い。

 マティアスは、溜め息を吐くと、ガブリエラの肩に手を置いた。そして、「悪い、血を貰う」と言うと、その首筋に牙を食い込ませた。


 「では、私は部屋に戻りますが、無理しないで休んで下さいね」

 マティアスが血を吸い終わると、ガブリエラはそう言って立ち上がった。

「……ああ、そうする。……ありがとう、ガブリエラ」

 ガブリエラは、驚いたような顔でマティアスを見た後、「そ、それでは」と言って、ひょこひょこと足を引きずりながらも、足早に部屋を後にした。


 ガブリエラは、自分の部屋に戻ると、頬に両手を当てた。顔が熱くなっている気がする。初めて、ガブリエラと名前を呼んでもらった。しかも、あんな優しい笑顔で。反則だ。あんなの、ときめかない方がおかしい。

 ガブリエラは、その日、なかなか寝付けなかった。


 一方、部屋に一人になったマティアスは考えていた。これからも、刺客が襲ってくるかもしれない。一刻も早く、ガブリエラの無実を証明しなくては。

 その為には、権力のある人間の協力が必要となる。マティアスの頭には、ある人物の顔が思い浮かんでいた。あの人に頼むのは嫌だが、本当に嫌だが、仕方がない。

 マティアスは、机に向かうと、便箋と封筒を取り出した。


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