商人とドレスと銃声と3

「で、どういう経緯でこいつの命を狙う事になったんだ?」

 ガブリエラにケガの手当てをしてもらいながら、マティアスはプリシッラに聞いた。リディオは今、部屋の片づけをしている。プリシッラは今、ロープで拘束されて応接室を動けない状態だ。


「簡単な話です。お金ですよー」

 プリシッラは、素直に話し始めた。

「バルト伯爵はご存じでしょうが、私の姉が、大きな病気に罹ってまして、膨大な治療費が必要なんですー。それで、昨日、以前から懇意にしていたヴァレンティ家に行ったら、聖女様が困っていたんですー」

 話によると、アンジェリカは、「ガブリエラに殺されかけた。反撃したが、また命を狙われるかと思うと怖い。ガブリエラが生きていたら殺して欲しい」と言っていたらしい。

「殺したら、お礼として大金を頂けるとの事だったので、引き受けたんですー。聖女様からガブリエラ様の特徴を聞いて、びっくりしました。先日バルト伯爵が助けていたお嬢さんの特徴と一致していましたからー」

「それで今日こいつの命を奪う事にしたと。……ギリギリまで俺を殺そうとしなかったのが仇になったな。もうお前はこいつを殺せない」

「バルト伯爵には、お世話になりましたから……」


 プリシッラは、目を伏せて言った。後から聞いた話によると、姉の治療費を稼ぐ為、プリシッラは十五歳の時から商人の手伝いをしていたが、なかなか稼げなくて困っていたらしい。そんな時、たまたま知り合ったマティアスが大口の顧客となってくれたらしい。

 それだけではなく、マティアスは盗賊に襲われていたプリシッラを助けた事もあったらしい。


「さて、私はこれからどうなるんでしょうねー」

 プリシッラは、天を仰ぎながら言った。

 マティアスは、プリシッラを衛兵の詰め所に突き出すのだろうか。もし突き出さず解放するとしたら、プリシッラはガブリエラ達の味方になるのだろうか。それとも、またガブリエラの命を狙うのだろうか。


「私と似たような状況ではありますが、プリシッラ嬢がガブリエラ嬢を見つけられなかった事にすれば、今まで通りの生活が出来るでしょう。プリシッラ嬢が命を狙われる可能性は低いと思われます」

「どうしてですか?」

 リディオの言葉に、ガブリエラが首を傾げた。

「プリシッラ嬢は、独立してビアンコ商会を立ち上げたばかりですが、貴族に重宝されています。扱う商品が素晴らしいからだけではなく、彼女が提供する政治や地理に関する情報が貴族に必要とされているからです。彼女を失う事は、ヴァレンティ家にとって大きな損失です。……それに、もう既にガブリエラ嬢は暗殺未遂の犯人として多くの方々に認知されてしまっているので、プリシッラ嬢一人を殺さなくても聖女様への信頼が揺らぐ事はないだろうとも考えているかもしれません」

 リディオが答えた。あくまでも、マティアスがプリシッラを解放するという前提での話になるのだが。


「最悪私はどうなっても良いのですが、私がいなくなった後の姉が心配ですー。バルト伯爵、身勝手なお願いではあるのですが、私があなたへの障害の罪で投獄されたら、姉への経済的な援助をお願いできないでしょうかー」

「俺に押し付けるな。お前も働け。お前を衛兵に引き渡す気はない。……お前、俺がヴァンパイアである事は知ってるな?俺の血をお前の姉に分けてやる。病状の悪化を抑えるくらいはできるかもしれない。それと、手頃な金額で診てくれる腕の良い医者を紹介しよう。……もうお前が、殺人なんてしようとしないようにな」


 プリシッラは、目をぱちくりさせた後、目を細めて笑った。

「ありがとうございます……」

「礼など必要ない。……今日は疲れたな。夜明けまでまだまだ時間があるのに……眠い……」

 そう言って、マティアスは気を失った。


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