騎士の来訪2

「いやあ、貴重な時間を頂き、ありがとうございます。バルト伯爵」

 応接室に通されると、ベルナルドは笑顔でハキハキと言った。金色の短髪が似合っている。

「とんでもない。ランディーニ殿こそ、お忙しいでしょう」

 マティアスは、笑顔でそう言ったが、内心では早く帰れと願っていた。ちなみに、マティアスは今、牙を目立たないようにする薬を飲んでいる。


「ところで、今日はどういったご用で?」

 マティアスが切り出すと、ベルナルドはスッと目を細めて、テーブルに肘を付いた。

「……実は、行方不明になっている者がおりましてね」

「行方不明?」

「はい。ダリオ・アッカルドという貴族で、昨日から姿が見えないそうです。……何かご存じありませんか?」

「いえ、心当たりはありませんね。……何故私に聞くんですか?」

「……昨日、この屋敷からものすごい音がしたと言う話を聞いたのですが」

 通りすがりの者に聞かれていたか。ガラス窓をすぐ直しておいて良かった。

「気のせいではないですか?この屋敷では、特に変わった事は無かったですよ」

「……そうですか」


 ベルナルドは、マティアスをじっと見ながら、話を続けた。

「そうそう、もう一人、私の友人も行方不明になっているのですが……ガブリエラ・サヴィーニ、ご存じありませんか?」

「……いえ、知りませんね」

 マティアスは、笑顔を保ったまま答えた。


 しばらくして、ガブリエラのいる部屋のドアがノックされた。

「ガブリエラ嬢、もう出てきて大丈夫ですよ」

 リディオに言われ、ガブリエラは応接室に移動した。応接室では、マティアスが疲れた表情をしていた。

「あの……大丈夫ですか……?」

「大丈夫じゃない。俺はもう寝る。……お前、屋敷の外に出るなよ。まだ新聞で報道されていないが、お前が聖女様を暗殺しようとしたっていう話、もう貴族の間で広まりつつあるらしいぞ」

「そうなんですか?今日の夕食は、リディオさんではなく私が作ろうと思っていたのですが……食料の買い出しには行けそうにないですね」

「おや、そうでしたか。では、今日の夕食はガブリエラ嬢にお願いしましょう。買い出しは私が行きますよ」

 リディオが笑顔で言った。

「呑気だな、お前ら……」


 マティアスはそう言うと、ハッとなって窓の外を見た。カーテンをしているのではっきり見えないが、人の気配がする。話を聞かれた。

「誰だ!!」

 そう言って即座に窓を開けると、そこにいたのは―先程帰ったはずのベルナルドだった。


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