騎士の来訪1
マティアスと契約した翌日、ガブリエラは二階の客室で目を覚ますと、昨日干してあった赤いドレスを着て、一階にある食堂に顔を出した。
「おはようございます、ガブリエラ嬢」
リディオが笑顔で挨拶する。
「おはようございます、リディオさん」
ガブリエラも笑顔で挨拶を返し、ちらりと食堂の奥を見ると、むすっとした顔のマティアスが新聞を読んでいた。無理矢理契約した事への怒りが収まっていないらしい。
かと言って、契約書を破ったり燃やしたりしようとしない辺り、律儀なのかもしれない。
「おはようございます、マティアス様」
「……おはよう」
ガブリエラが空いている椅子に座ってテーブルを見ると、目の前にはパンとチーズとトマトが乗った皿が一枚置かれていた。チーズとトマトは、パンに挟んでサンドイッチにする為にあるのだろう。
見ると、マティアスの目の前にも同じものが置かれている。しかし、マティアスは皿には手を付けず、コーヒーのみ飲んでいるようだ。
「食べないんですか?」
ガブリエラが聞くと、マティアスは目も合わせず言った。
「……食べなければとは思うが、どうしても食欲が出ない」
せっかくリディオが用意してくれたのに。
「じゃあ、マティアス様の目の前にある分は、私の昼食にします」
そう言ってガブリエラは朝食を口に運んだ。
新聞を読み終わると、マティアスは席を立った。
「これからお仕事ですか?」
ガブリエラが聞くと、マティアスは気だるげに言った。
「いや、これから寝る。……今日は仕事を昼からにする。俺は、朝が弱いんだ」
そう言ってマティアスが食堂を出て行こうとすると、玄関の扉が叩かれる音がした。リディオが玄関に向かうと、しばらく話し声がして、静かになったかと思うとリディオが食堂に戻ってきた。
「バルト伯爵に会いたいという方が表にいらしています。王室所属の騎士団の方で、名前はベルナルド・ランディーニとおっしゃるそうです」
「ベルナルド・ランディーニ!?」
ガブリエラは大きな声を出した。
「知り合いか?」
「はい……以前夜会で会って、仲良くなりました。男女の仲ではありませんでしたけど」
ベルナルドは、ゲームの攻略対象キャラで、現在十九歳。明るくて人望もある。脳筋キャラかと思いきや、人の本質を見抜く能力があり、前世を思い出す前のガブリエラが色目を使っても靡かなかった。
「知り合いか……見つかると厄介だな。お前、二階に隠れてろ」
マティアスがガブリエラに言った。
「そうさせてもらいます」
そう言って、ガブリエラは二階に上がった。
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