目撃と契約4

 刺客をロープで縛り上げて、話を聞く事にした。彼の名はリディオ・カッサーノ。元々は暗殺を生業としていたが、足を洗いヴァレンティ家で執事として働いていたらしい。

「今日、いきなり聖女様に言われたのですよ。『ガブリエラ・サヴィーニの死体を探して、もし生きていたら殺して欲しい』と。どうやら、私が暗殺をしていた過去をご存じのようで」


 そう言えば、橋でアンジェリカは言っていた。ガブリエラが「悪役令嬢」だと。もしかしたら、アンジェリカも転生者で、ゲームをやり込んでいた為リディオの過去も知っていたのかもしれない。今思い出したが、ゲームの中では、リディオは攻略対象ではないものの、アンジェリカのヴァンパイア討伐に協力する味方キャラだった。


「ガブリエラ嬢の殺害に失敗した私は、もうヴァレンティ家に戻れないでしょう。それどころか、私の命も狙われるかもしれない。ガブリエラ嬢が見つからなかった事にして戻るという選択肢もありますが、聖女様に見つめられると、何故か真実を話したくなってしまう……。どうせ明るい未来が無いのだから、衛兵に突き出すなりなんなり、私の事は好きにして下さい。……ああ、でも、これだけは言っておきますよ。私がいなくなっても、他の者がガブリエラ嬢の命を狙う。そちらの状況は何も変わらないと」

 ガブリエラは、改めて自分の身の危うさを理解した。


「で、こいつ、どうする?狙われたお前の意思に任せる」

 マティアスが、リディオを親指で指しながら聞いた。

「……あの、図々しい頼みなのは百も承知なんですけど……この方を、この屋敷で雇う事は出来ませんか?」


「はあ?」

 マティアスが変な声を出した。リディオも、目を丸くしている。

「確かにお前の意思に任せると言ったが……お前の命を狙った男をこの屋敷で匿う形になるが、いいのか?」

「はい。まだ死ぬには早い年齢なのに、希望が無いのは可哀そうかなって……」


 マティアスは、溜め息を吐いた。

「……お人好しめ。わかった。こいつを執事として雇う。この屋敷には使用人の類がいなくて、不便だったからな」

「まさかバルト伯爵の屋敷で働く事になるとは……。確かに、ガブリエラ嬢はこの世界で生きるには不器用なようですね」

 リディオは、静かに笑った。


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