目撃と契約3
「……成程。聖女様がねえ……」
マティアスは、近くのテーブルに頬杖をついて呟いた。
「何故聖女様がそんな事をしたのかわからないが、お前もとんでもない所に居合わせたな」
「……私の話、信じて下さるんですか?」
聖女が殺人を犯したなんて、誰にも信じてもらえないと思っていた。
「まあ、お前がそんな嘘をついても何の得にもならないからな。実際肩を撃たれているわけだし」
ガブリエラは、ぼろぼろ涙を零した。
「おい、泣く事はないだろう」
「……すみません、信じてもらえた事が、嬉しくて……」
マティアスは、溜め息を吐いた。
「泣いてる場合じゃないぞ。お前が生きている事を知ったら、口封じの為にお前の命を奪おうとするかもしれない。聖女は求心力があるようだし、今頃刺客を雇っていてもおかしくな……」
その時、大きな音を立てて窓ガラスが割れた。そして、バルコニーから人が飛び込んでくるのが見えた。ここは二階なのだが。
その人物は、真っ直ぐガブリエラに向かってくる。その手には、短剣が握られているようだ。
「ちっ!」
マティアスは舌打ちをすると、部屋に飾ってあった剣を手に取り、刺客の攻撃を防いだ。金属同士がぶつかる音がする。
刺客は、眼鏡を掛けた三十代くらいの男性で、白い長髪を緩く束ねている。
「まさか、本当に刺客が来るとはな。しかもこんなに早く」
「何故その女を庇うのですか?……ああ、その女の正体を知らないのですね。そこにいる女は、聖女様の暗殺を企てたのですよ」
「俺には、こいつがそんな器用な女には見えないけどな。それと、仮にそうだとしても、裁判を受けさせるべきだろう。いきなり命を奪うのはどうかと思う」
刺客とマティアスが言い合っているのを、ガブリエラは震えながら聞いていた。
どうしよう。このまま逃げれば、自分は助かるかもしれない。そう思ったが、ガブリエラは、刺客と剣を交えているマティアスを見た。
彼は、川の側で倒れていた自分を助けてくれた上に、こうやって刺客から守ってくれている。それを放っておいていいのだろうか。
刺客の剣の切っ先がマティアスの頬を掠める。
「危ない!」
ガブリエラはそう叫ぶと、手近にあった花瓶を刺客に向けて投げた。しかし、その花瓶は刺客ではなくマティアスに当たりそうになる。花瓶が床に落ちて大きな音がした。
「おい、ふざけるなよ!」
「ご、ごめんなさい」
刺客が、その隙を突くようにマティアスに向かって行く。
「まずはこのヴァンパイアを倒した方が良さそうですね」
そう言ってマティアスを切りつけようとしたが、もう刺客の目の前にはマティアスはいなかった。
いつの間にか刺客の後ろに回り込んでいたマティアスは、剣を刺客の首の辺りにぴたりと付けていた。
「全く……体調が万全じゃないのに面倒かけさせやがって」
マティアスは、吐き捨てるように言った。
刺客は、両手を上げて目を瞑ると、言葉を発した。
「降参です」
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