目撃と契約2

 目が覚めると、ガブリエラは知らない部屋にいた。ベッドから上半身を起こすと、薄暗くて広い部屋に品の良い調度品が置いてあるのが見える。


 部屋を見回していると、軽くドアをノックする音がして、人が入ってきた。

「目が覚めたか」

 そう言葉を発したのは、黒髪をショートカットにした、顔立ちが美しい男性。見覚えがある。この男は、ゲームのラスボスであるヴァンパイア、マティアス・バルト。二十代の青年で、伯爵の位を持っているという設定だった。

 この男、ゲームでは正体を隠しながら、夜な夜な人を襲って生き血を吸い、殺している。そんな男が目の前にいるなんて。何故こんな事になっているのか。


「あの……ここは……?あ、私、ガブリエラ・サヴィーニと申します」

「俺はマティアス・バルト。ここは俺の屋敷だ。お前が川の側で倒れていたから、とりあえず連れてきた。……怪我はどうだ?」

 そう言えば、肩に包帯が巻かれているが、あまり痛くない。

「……肩を動かすのは問題ないみたいです。あなたが手当てして下さったんですか?」

「いや、たまにここに来る商人の女にやってもらった。もう帰ったが。それと、お前を着替えさせたのも、その女だ」

 ガブリエラは、白を基調としたドレスを着せられていた。

「お前が倒れていた時に着ていた赤いドレスは、そこに干してある。怪我が問題ない程度なら、服が乾いたらさっさと帰ってくれ」

「……わかりました」


 ガブリエラはそう言って頷いたが、一つ疑問が浮かんだ。

「あの……私の怪我、治るのが早過ぎるような気がするんですが……」

「ああ、俺の血をお前に飲ませたからな。そうしなかったらお前は死んでいた」

 そう言えば、ヴァンパイアの血には怪我や病気の治癒を助ける働きがあるという設定だったか。

「……それはどうも、ありがとうございます」


 マティアスは、眉根を寄せた。

「おい、血を飲ませなかったら死んでいたとはどういう事かとか、聞かないのか?」

 そう言えば、ヴァンパイアだとは自己紹介されていない。

「……確かに意味がよくわからないですけど……それより衝撃的な事があったので、頭が混乱しているようです」

 ゲームをプレイしたから知っていると言っても信じてもらえないと思ったので、誤魔化した。

「衝撃的な事?」

 ガブリエラは、川に流される事になった経緯を話した。

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