第187話 教授賢者ユリウスの後悔

 チルカナジア国立アビリティー学園。訓練課程の人数は秋期の卒業と新規入校の結果、少しだけ減ったがまだ5万人近い。一方、研究院に所属する院生はぐっと数が減る。

 研究院はレベル上げの後援などとは無関係で、ただ高度の学問を若者に与えて学者・研究者の卵を育てる。

 訓練課程を終えて進学する者の半分は役人を養成する「法科学院」に進んでしまうので、研究院生の人数は初級・上級合わせても500名に届いていなかった。


 西の学術的先進国では、高度な学問を身につけたがる若者の割合はもっとずっと高い。

 この有様がチルカナジアを「図体がデカいだけの野蛮な軍事国家」といわしめている所以ゆえんの一つだ。

 そもそもの人口が多いから絶対数としては優れた研究者も多いという意見はあるが、少なくともユリウス個人は、もっと国を挙げて高度教育に力を入れるべきだと思っていた。


 学園の奥地にある史料保存館。その脇にぽつりと立っている歴史学研究棟。

 ユリウスは3階の自身の研究室に入った。研究室と言ってもただの書斎と変わりはない。

 扉に埋め込まれている真鍮製の錠に鍵を差しいれ、再び施錠した。これで扉を壊されない限り他人が入ってくることは無い。

 床のあちこちに積み上げられている本の山を避けながら、縦長の狭い部屋の奥まで進み、窓の覆い布を閉める。

 壁に設置されている防火機能付き燭台に魔道具を使って点火した。

 本以外高価なものなどほとんど無い部屋の中で、唯一高級品と言える革張り椅子に深く腰かけた。


 今日一日で起きた問題を振り返る。気が滅入るが、とりあえず一番妥当な対応をとるしかない。

 横に延びた総白髪の口髭を右手でひと撫でし、ため息を吐きながらユリウスは目を閉じた。


 ≪賢者書庫≫を発動すると、軽い余剰マナの消費と共に意識がその中に吸い込まれる。安全な状況でしか使えない異能だった。


 賢者書庫通信を非公式に使用するのは禁じられているのだが、その利便性が高すぎるためか、様々な抜け道を用いての個人利用がある。賢者議会もある程度はそれを黙認していた。

 書庫の中の、植物学関連領域に意識を飛ばす。


 「トンボオアワ草」という、ムギ類ノムギ科アワクサ属に分類される草。

 高さ4デーメルテに及ぶ細長い茎の先にトンボの尾のような穂が無数に生える、などとその特徴が記載されているが、そんな草は存在しない。

 存在しない植物の備考欄を読むと、生態や利用法とはまるで関係ないことが100件以上も書きこまれている。


 他州の政庁舎に勤める賢者に資料の返還を求める催促だとか、家族を肺熱症で亡くした女性賢者が意気消沈し、役職の後任を探しているといった内容。それらはまだいい。

 ナジアの下町で一番うまい魔物肉の煮込みを出すのはどこかという議論をしている者が数名いた。さすがにそこまでふざけた内容はまずい。早く結論を出して消さないと後々賢者議会から削除命令が出るのではないかと思われた。


 ≪賢者書庫≫の異能はレベル20で「閲覧」が可能となり、40にならなければ「記載」はできない。そしてレベル60に達すると「編集」が可能となるので、達人級賢者であれば書き込みの削除も、書庫自体の根本的な破壊すら可能になる。

 そんな強い権限を、くだらない書き込みの削除などという些事に用いる事もまた適切ではない。

 なので記載内容は基本的に、書いた本人しか削除することは出来ないのだった。


 チルカナジア国内にいる賢者保有者は300人と言われているが、修業中の者も居れば隠居した老人も多い。公職についている者の人数は把握できていて186人だ。

 その4割が王都に住んでいるのだが、残り6割は遠くの州で連絡員をしていることが多い。彼らに伝えるには実世界の郵便などでは時間がかかってしまう。

 トンボオアワ草の項目は主にチルカナジアに暮らす賢者たちが利用する裏通信であり、ここに書き込めばその内容は国内で働く賢者保有者にはだいたい伝わる。

 ユリウスはまた少しマナを異能に注ぎ込み、考えた文面を記載した。



<ナジア本校史学教授ユリウス:


 生徒の一人から報告を受けていた新種アビリティー保有者が失踪したとの連絡があり、実際にナジア内の心あたりを探しても行方は不明。以下に情報を記す。


 ベルザモック州ノバリヤ出身。戦士団『白狼の牙』頭領ギュスターブの子・イリア。778年6月に新種アビリティーを発現させ、誰にも報告しないままで8月からナジア都内に滞在。

 学園本校に秋期入校し研究処に協力するのではないかという予想は外れ、能力検証は在野で独自に続けられた模様。先日までその動向をある程度把握できていたが、12月24日に知人へ別れを告げて姿を消している。


 アビリティーの性質は極めて特殊かつ重要。唯一種の場合でも1級特性で、もし同種が恒久的に発現し続けるなら、1級の水準をさえ軽く逸脱すると考えられる。

 性質の詳細については伏せるが、出来るだけ早く本人を発見することが必要と考える。

 接続情報に発現者イリアの容貌を示すが、これはひと月以上前の私の記憶の再現であり、正確性は保証できない>



 言語情報の書き込みに比べると、視覚情報の複写はより多くのマナを消費する。

 齢80に近くなり、記載ができるようになっておよそ50年経ったが、登録のために自分の顔を写した時以来初めてのことだった。史学研究の重要な成果を掲載したことも過去あったが、それは文章だけの論文形式だった。

 壁外地域の民族共同体の井戸で出会ったイリアの顔かたちを思い出し、脳内から写しかえるようにして記載する。

 何とか成功したようだ。


 この書き込みが時を置かず誰かに伝わるわけではない。

 賢者は日に一度、他にマナを消費する予定の無い就寝前に閲覧したり書き込んだりすることが多い。

 近隣に居る賢者に問題を伝えるなら、直接会いに行った方が早くはある。

 実際、イリアの問題を真っ先に伝えたほうがいい相手がすぐそばに居るのだが、面会を要求するのを躊躇ためらう事情がユリウスにはあった。



 世界唯一にして最大の賢者の組織である賢者議会。【賢者】保有者はすべからく議会に所属すべしというのが大方針である。

 大方針と言っても本拠地賢都ヤズマブルは国家ではないし、国家だったとしても他国で暮らす保有者に何かを強制する権限など、本来は無い。

 それでも西側世界にいる賢者の誰もがその方針に従うのは、賢者議会が実力組織を保有しているからだ。

 戦闘能力を鍛えぬいた高レベルの賢者と、ヤズマブルに忠誠を誓うその他アビリティー保有者、約2千名で構成される特務部隊『青の小剣』は、秘密裏に世界のあちこちに出没しては賢者議会方針に違反する保有者を制裁していく。

 その『青の小剣』に対する指揮権を持っているのが「議長」だ。

 今現在、21代賢者議会議長の座に着いているのは「生粋のヤズマブル人」を自認するヨナハン・ドヴィルヌブだ。


 KJ暦400年代までの城塞都市国家時代においては、魂起たまおこしを実施できるという圧倒的な優越性から【賢者】保有者が権力の座を占めることが多かった。

 だが遺伝することのないアビリティーを根拠とした権力機構は一代限りで正当性を失い、その多くが滅び去ってしまう。時間や資源の損失は人類復興を妨げる要因の一つになった。


 その反省から「賢者は政治権力から距離を置くべし」というのが賢者議会の存在意義の根本だ。

 にもかかわらず、肝心の「議長」の在り方が少なからずその根本に矛盾している。

 直接的な力を行使する権限を持ちながら、いわゆる「議長派」と呼ばれる派閥が賢者議会のすべてを牛耳ることになっていないのは、その矛盾のためともいえる。


 西側世界に千人弱の現役で活躍している賢者は、大雑把に分類すると3つの派閥に分かれている。

 「議長派」は一番数が少なく、主に故郷を捨てヤズマブルに居住する「無国籍賢者」が2百人余り。

 一番数が多いのはユリウスも所属する「学究派」で、各国にあるアビリティー学園に類する機関で研究に勤しむ者、すべてを合わせれば全体の4割近いと言われる。

 賢者議会はレベル20以上の保有者であれば議決権を持つ。多数決で議決するので、この学究派が権力を掌握しそうなものだ。だが自由気ままに自分の世界にのめりこむ者が多い学者たちはよほどの問題に直面しない限り結束しない。

 ある意味で最も「政賢分離」の原則を体現している派閥だと学究派賢者たちは自慢にしている。


 そして「学究派」と「世俗派」は仲が悪い。

 チルカナジアや西部世界の各国において、政治権力者の個人的な顧問として働く者らが世俗派、あるいは顧問派と呼ばれる派閥だ。

 チルカナジアで各州や主要大都市の政庁舎で働く「賢者書庫通信員」もこの世俗派に属するとされていて、統治機構にとって重要な立場である彼らと学究派がなぜ仲が悪いのかと言われれば、それは単に顔を合わせる機会が多いからとしか言えない。

 学究派は世俗派の事を「政治権力にべったりくっついていて議会に所属できていることすらおかしい」と揶揄やゆしている。だが本来、学問肌の彼らはそういう政治的なことにあまりこだわらない気質のはずなのだ。

 議長派がヤズマブルにずっと引っ込んでいて、対立するにも手ごたえがないからそうなっているだけで、根本的な対立要因は別に無いというのがユリウスの見解だった。


 そうであっても、自分だけが世俗派となれ合うのは気まずかった。

 この王都ナジアに住んでいる世俗派賢者は、王室顧問のイザークとその部下一名。そしてそれぞれの弟子が2名。それと州の通信員が3名と、非常勤の老人がもう一人。合わせても8名だけ。

 対して学問派は本校に勤める教授・教師だけで19名。研究院に所属する院生の若者も仲間と言っていい。学園とは別の、軍や守備隊に設置された研究部門に居る賢者たちも、半分は学究派に近い態度だと言っていい。

 あえて世俗派に接近して彼らの不興を買うのもばからしく、ユリウスはイザークらと没交渉を通していた。


 50年にわたる研究者人生。たまに【賢者】を発現した少年少女を弟子にして、護身術にパンデレエモン流体術を教えたりもしてきた。

 家族も持って、父親や祖父としてそれなりの役割を果たしながらの充実した日々。

 だが、最年長の教授賢者として派閥内で影響力を手にしたのだから、もう少し他派閥との関係向上に努めるべきだったと思う。そうしなかったから、こういう場合にまともな対応をとれないでいるのだ。



 書き込みから2刻ほど経って、もう一度≪賢者書庫≫内を確認してみる。

 窓の外はとっくに真っ暗だが、あかあぶら代に困らない身分の者が寝る時間ではない。

 それほど動きがあるとは思っていなかったが、トンボオアワ草の備考欄には反応した書き込みがもう4件もあった。


<オルグラ州通信員ソフィア:

 新種アビリティーって本当ですか。

 それが逃げちゃったって、どうするんです?>


<ナジア本校魔法学講師ボリス:

 王室顧問に言って国を挙げて探してもらうしかないのでは。

 つながりがあるので小生から伝えておくことも可能です。今日はもう遅いので明日になりますが、請け負いましょうか。どうでしょう>


<ベティアバーグ学院教授ペトロ:

 大変なことになりそうでなんだか楽しいわ。ベティアバーグから幸運をお祈りします>



 ユリウスはチルカナジア国内の関係各所になるべく早く伝わってほしいと思い書き込んだので、1つ目と2つ目はうまくいった結果と言える。

 だが3つめは国外からのもので、特に意味のない内容だ。

 そして4つ目の反応。一番期待していない、嫌な相手からの書き込み。


<ヤズマブル総合局参事アマーム:

 ふざけるなジジイ。新種アビリティーを発見しながら我々に報告を怠るとはどういう了見だ。まして超一級特性だと?

 これは賢者議会に対する背信だ。いますぐこの小僧を捕らえてすべてを報告しろ。さもないとどうなっても知らんぞ>


 賢都ヤズマブルの中枢に近い人間に知られてしまった。

 チルカナジアに住む賢者がほとんどの裏通信なのだが、監視対象になっていたのだと思われる。

 しばらく考えてから、ユリウスは再び記載した。



<ナジア本校教授賢者ユリウス:


 宛:ボリス

 私の所在は学園事務局に常時通達しておくので、本件に関する話し合いは実際に面会の上でしたいと思う。いつでも来てもらいたい。


 宛:アマーム殿

 我がチルカナジア王国には、公職にある者の他者へアビリティー情報の開示を禁ずる法がある。そして今日まで、議会からその法の是非に疑問が投げかけられたことは無いと記憶する。

 この書庫内においての書き込みすら本来その法に抵触しているのを、道義的な責任として強行しているのであり、指定有害アビリティーでもない者を本人の意思に反して通報する義務などありはしない。

 私の行為に対するその評価は貴殿個人の感想か、それともヤズマブルを代表する立場の意見か。議会発足から300年の長きにわたって友好関係にあったチルカナジアの一国民の立場で返答を要求する>



 書庫を閉じ、現実に意識を回帰させる。

 強気に出てみたが実際のところ確かにユリウスの失態であった。

 新種アビリティー発現者のイリアを、本人の意思とすり合わせながら確保する機会は何度もあり、遅くともヴァーハン家との軋轢が明らかになったときにはそうすべきだった。

 王都ナジアを襲った肺熱症流行のごたごたに巻き込まれ、そのあたりがおろそかになってしまったのはユリウス自身否定のしようがない。


 KJ暦紀元前のものから最近のものまで、ざまざまな種類の歴史資料や研究所が積み上がるユリウスの机。

 その机に合わせて作られている革張り椅子に背中を預け、天井を見上げた。

 もう30年うぶ毛一本生えていない頭頂をつるりとなでる。

 この失態によって、ユリウスの学園内での立場は地に落ちるだろう。

 だがもともと、そういうものに興味をもって生きてはこなかった。ただ単に自分の興味のまま、あまり役にも立たない歴史の研究を続けてきただけだ。

 いまさら何を失ってもたいして痛くはない。ただ、この件に深くかかわっているエミリアの立場が悪くならないように立ち回らなければならない。


 扉を強く叩く音がしたので鍵を持って立ち上がる。

 魔法学講師のボリスがやって来たのかと思ったら、扉の向こうに居たのは別人だった。


「大変なことをしてくれましたなユリウス教授!」

「フィリップ君かね」


 どこから話が伝わったのか、やって来たのはアビリティー研究処長だった。

 王家の流れをくむジュナフリーノ家出身。落ちぶれかけた名家の血筋に突如目覚めた【賢者】保有者。

 すらりというよりも、にゅるりと細長い体形に独特の顔立ちもあいまって、どことなくイタチを思わせる男だ。

 無能な人物というわけではないが、それほどの実績もないまま50歳を前にして現在の地位を得られたのは、やはり家柄に恵まれたからだと言うべきだろう。


「この国で、まして王都で新種アビリティーが発見されたのなら私に報せるのが当っ然でしょう! あまりにも非常識だ! そして結果がこの始末!」

「すまないね。だが本人の意向だったらしいので、ね」

「バカバカしい! 子供の我儘に付き合うような事じゃないでしょうが!」

「少し落ち着いて話したまえ。14歳はこの国では大人だからね。新種アビリティー発現の場合は秘匿義務を免除するような、ア差禁法の改正を求めるべきかもしれないね」

「いまさら!」


 フィリップ・ジュナフリーノは前歯を剥きだして悔しそうに上半身を上下させた。

 事情が事情であり、実際にイリアの事を公表したからといってユリウスが罰せられていたとは思えない。だがそうしたくなかったのは、このフィリップという男の性格がいまいち好ましくなかったからだ。

 同じ学究派賢者ではあるが、賢者以外を妙に見下し、功に走って手段を顧みないような人柄のが気にくわない。こういう男に無垢な若者の将来を預ける事が、ユリウスの矜持にどうもそぐわなかった。


 イリアの事を公表しなかった理由はまだある。

 世間にはあまり知られていないことだが、新種アビリティーの発現というのは本当はそこまで珍しいものでもないことをユリウスは知っている。


 12年前、大陸の西端ネズバック王国で一人の男に発現した【健髪】が賢者議会決議を通じて公表されたのはその3年後、769年の事だった。

 決議が実現したのは【健髪】が世界中であたりまえに発現しだした新種アビリティーだからだ。

 唯一種アビリティーの場合は必ずしも全てが公表されるわけではない。

 現在155種類公表されているアビリティー種別の中で、唯一種とされるものは【王位継承】【不老不死】含めて11種。現存しないものが8種類。

 61年前、ティクリーボ連合国で高貴な身分の女性に発現した【鎮痛】というアビリティーがあり、公表され現存する唯一種としてはこれが3つ目だ。

 しかし、自身の痛覚を遮断できる【鎮痛】に性質が似ていながら、もっと有用性が高い唯一種アビリティーが存在し、未公表のまま消えていった事例をユリウスは知っている。


 他人の体にマナを流し、その部分の感覚を遮断させる異能を持ったアビリティーが北西の友好国ジェルムナで秘密裏に研究され、賢者議会の正式認定を受ける機会がないまま保有者が亡くなっている。寿命であっておかしな点は無い。

 もしも世界中で保有者が現れる恒久新種であれば、世界の医療に革新的な進歩をもたらし得たアビリティーだろうが、唯一種に終わるのならそれまででしかない。

 賢者議会の中枢が把握しているもの、していないもの。合わせれば、公表されている数の何倍も唯一種アビリティーは存在している、または存在したと思われる。


 結局のところ、異常な成長効率を期待できるイリアのアビリティーも、唯一種に終わるのならば人類社会的な問題ではない。

 学術的な興味や功名心以外に、「研究され公表されなければならない」というような理由は無い。

 イリアと研究処の関係を調整し引き渡すのは、唯一種なのか違うのかが明らかになってからでも遅くないと考えていた。

 そして、ユリウスのその考えは裏目に出てしまった。

 アビリティー研究者として最高の成果を上げる機会を逃しかけている男が、目の前で顔を真っ赤にしている。


「ともかく! イザーク殿に言って全国に手配をかけてもらいますぞ! 今すぐ報告に行きましょう、早く!」

「……まあそれも仕方がないとは思うがね。だが報告すべきは本当に王室顧問なのか? 正式には、やはり王に直接捜索を願うべきではないか?」


 フィリップはジュナフリーノ家の現当主なので王への面会権を持っている。

 正式には何の権限も持たない王室顧問に相談するよりも、そちらのほうが正しい気がした。


「もうっ! 政治をご存じない人はこれだから! 王への面会なんて、ひと月前にご予定をうかがってとか、そんな感じの儀礼的なものなんです! 好き嫌い言ってる場合じゃないでしょう、早く行きますぞ!」


 そういう事なら仕方がない。旧市街に向かうため、ユリウスはフィリップと共に史学研究棟を出た。



 道すがら、イザークに建設的な報告ができるよう頭の中を整理する。

 エミリアと共に王都中を走り回って情報収集した結果、スダータタル人の友人も姿を消している事が分かった。そうであるなら、当然二人は族長国に向かったと考えるのが妥当だろう。ある意味で最悪の事態と言える。


 スダータタル族長国は王国の東、ラハーム教自治領の南にあり、ベルザモック州の南隣バスポビリエ州と部分的に接している。最短距離を行くならば、北東大街道を進んでから途中でビリエ街道に入るのが通常と考えられた。

 ナジアの近くにいる間に確保したほうがいい。それが無理でも、スダータタルに入られる事だけは阻止しなければならないだろう。

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