第33話 VS鼬竜

「ふっ!」


 飛びかかってきた鼬竜に対して、俺は横にステップを踏むことで回避し、代わりに斬撃を返してやろうと着地した鼬竜に接近を試みる。

 しかし、この階層において翼を持たずに頂点の一角に君臨し、木の幹を渡りながら怪鳥やグリフォンといった翼を持つモンスター達とやり合う鼬竜の機動力は生半可なものではない。


 俺が切りつけようと接近する前に、するりとした足運びで近くの木の幹を登り、俺が跳躍しないと届かない位置からこちらを見下ろしかと思うと、その口腔から風の砲弾を吐き出してきた。

 この攻撃は系統としては先程倒した黄色い怪鳥のそれと同じだ。

 このモンスターは、風属性と、そしてまだ見せていないが水属性の魔法を操る。


 その砲弾に対して、以前の戦闘から予測していた俺は1発目を回避し、その回避中に完成させた障壁の魔法陣で幾度か放たれる風の砲弾を弾く。

 そして鼬竜の次の攻撃を察した俺が速報に退避した直後、俺の障壁魔法を大きく振り下ろされた鼬竜の尻尾が粉砕した。


 そしてその叩きつけられた尻尾に、先程手の甲に刻んだ魔法陣のおかげで風の影響を受けないなかった俺は接近し、剣の一撃を叩き込む。

 しかし。


「相変わらず硬いな!」


 魔力の籠もっていない剣では、鼬竜の尻尾の表面を覆う強靭な鱗を斬り裂くことが出来ない。

 剣の理合以前に、単純に斬れ味が足りない。

 この体表を覆う鱗があるからこそ、俺はこのモンスターを他の階層で出現する地竜やベヒモス等と同じく竜に関係のある種と判断して、鼬竜という呼称をしているのである。

 モンスターの分類としてもおそらくそうなるだろう。


「チッ」


 直後に大きく振り回された尻尾の直撃を受けないように、俺は数メートル距離を空けながら攻撃用の魔法陣を複数展開する。

 そんな俺を目掛けて、再びスルリと木に飛びついた鼬竜は飛び降りるようにして跳んで来ると、今度は全身を大きくひねって、一帯の地面を薙ぎ払うように空中で尻尾を振り回す。

 そのモーションを事前から知っていた俺は、展開した魔法陣を放置したまま回避行動を取る。


 結果、中途半端に展開した魔法陣は魔力を伴う鼬竜の攻撃によって全て破壊された。

 

「速いなほんとに……!」


 この鼬竜というモンスターの特徴を上げるならば、それは攻撃にも多用されている尻尾だ。

 他のモンスターと空中戦をする際も、その大きな尻尾を広げてパラシュートやグライダーのようにしつつ空戦をやっている。


 だが、最も恐るべき点を上げるならば、それは巨大樹から巨大樹へと飛び移り、瞬く間に巨大樹の幹に登り、ときに数十メートルもの高度から飛び降りて平気で着地する脚力だと俺は答えるだろう。

 

 それほどには、こいつの動きは速い。

 他の2種の階層の主達と比べて、こいつは地上戦で最も能力を発揮するタイプのモンスターだ。


 しかし。


「地上でお前に負けてられんな!」


 こっちは地上でしか活動できない人間様である。

 空中戦も出来るやつに地上で負けたとあっては最強探索者を名乗れなくなってしまう。


 その素晴らしい脚力で、俺に向かって突進してくる鼬竜。

 むき出しにされたその牙は、鼬なんて可愛らしいものではなく、獅子か狼か、あるいはそれ以上か。

 鋭く伸びており、確実に獲物を仕留めるという殺意の高さを感じさせる。


「いざ参る!」


 それに対して俺は、突進自体は回避しつつも鼬竜の噛みつき攻撃に対してはギリギリの位置から剣を振るって対抗した。

 そして俺の剣と鼬竜の牙が激突。

 僅かな間に集めた魔力のおかげもあって、鋭く伸びた牙のうち数本に切り傷をいれた。

 

 俺が突撃を避けるためにあえて踏み込まなかったので切断まではいかなかったし、おそらく踏み込んでいたところで完全に牙を切断するのは剣の斬れ味と牙の頑丈さ的に不可能でああっただろう。

 あるいは、俺の剣が鼬竜の牙に食い込んだまま突進に引きずられるような事態になっていたかもしれない。


 そう考えると、魔力操作の感覚が掴めてきたからって無闇に突っ込むのは考えものだな。

 反省反省。


 俺がそんな事を考えているうちに、また鼬竜は木の幹に登っている。

 再び魔法を使ってくる様子は無く、俺の方を観察している様子だ。

 そして俺は今度こそ、魔法陣の構成に成功し、木の幹に張り付いた鼬竜に魔法を数発放つ。


 それに対して木の幹の上を素早く駆けた鼬竜は、樹上から爪を振りかざして俺に向かって飛び降りてきた。

 今度はちゃんと余裕を持って回避する。


 とあるゲームでのあるあるで共感してくれる人も多いかもしれないが、人間と大型のモンスターの間には明確な体格差がある。

 そのため互いに敵に突進するように攻撃をしても、攻撃がかち合った場合は今度は勢いと勢いのぶつかり合いになって、確実に人間が負けてふっ飛ばされる。

 まあ俺が深層のボスとか相手にしたら体格差無視して勝てそうだけど。


 さておき、そのため、基本的に相手の突進という移動を伴う攻撃に関しては、余程攻撃を防御することに自信が無い限り回避することが推奨されている。

 そう考えるとさっきのやっぱり悪手だったな。


 じゃあどうやって戦えば良いのかと言えば、1つはすれ違いざまに衝突しない位置から攻撃を加える方法が挙げられる

 そしてもう1つ、簡単な方法がある。


 鼬竜の突進を伴う鉤爪での攻撃を回避した俺は、その直後に目の前を通過する尻尾から生えるゴワゴワとした毛をつかみ、その尻尾に張り付く。

 それを感じた鼬竜が足を止めて尻尾を振り回そうとするが、その瞬間には俺は尻尾から手を離して鼬竜の腹部の下側に潜り込み、比較的守りの弱い腹を剣で斬り裂いた。


 魔力も込められなかったのでつけられた傷は浅いものだが、それでも確実にダメージを与えることに成功した。

 そして俺はそのまま、鼬竜が鬱陶しく思う程度の位置を維持して鼬竜の周りを回ったり、腹の下をくぐったりする。

 それに対して鼬竜も前足を振るったり尻尾で叩き潰そうとしてくるが、俺は意地でも距離を取らないで張り付き続ける。

 そしてその間も少しずつ魔力を貯め続ける。


 突進してくるモンスター相手に立ち回る方法。

 それは相手が突進する幅が無いほどに懐に踏み込んでしまうことだ。

 実際に今、こうやって鼬竜は最も強い点である機動力を殺された状態で俺とやり合いをしている。


 だからこうなる。


「はっ!」


 俺の振り下ろした一撃が、鼬竜の右足を大きく斬り裂く。

 今度は中途半端なものではなく、切断とはいかないまでも右足は再生するまでは使えないレベルで斬り裂いた。


『グルゥアァ!?』


 悲鳴のような声を上げる鼬竜。

 いくら深淵のモンスターとは言え、大きなダメージを受ければ怯みもするし一瞬固まりもする。

 さっきは怪鳥が暴走状態に入ったが、あれはむしろあいつがそういう特性を持っているだけだ。


 普通のモンスターは、少なくとも無機質なスケルトンとか亡霊騎士を除いたモンスターは、大きな怪我に怯み隙を晒す。


 そしてその隙を俺は待っていた。

 俺の絡みつくような攻撃に足を止めた鼬竜。

 そして前肢を切り裂かれ苦悶の声を上げたことで出来た隙。


 相手の、急所を狙うことが出来る隙。


 鼬竜の前肢を斬り裂いた俺は、そのまま踏み込んで前肢の隣を通過し、苦悶の表情らしきものを浮かべながら前肢を見る鼬竜の顔面に飛びつく。

 そしてその急所、最も柔らかいところに当たる眼球を、勢いよく剣によって貫いた。


『ルゥアァァァァァァ!?』


 先程の戸惑うような悲鳴ではなく絶叫が森林に響き渡る。

 早く仕留めて仕舞わなければ、次がやってくる可能性が高い。

 そう考えた俺は、もう1つの目を奪うのを諦めて一度鼬竜から距離を取り、手元の剣を両手で握って全力で魔力を集め続ける。


『ウゥルガアァアア!!』


 そんな俺を、片方だけ残った瞳で睨みつけた鼬竜は、再び周辺の巨大樹を登ると咆哮を上げ、そこからこれまで見せてこなかった水魔法を使い始めた。

 鼬竜の喉奥で細く絞られた水流が、高圧ジェットの如き勢いで俺を襲う。

 あるいは、それを受ければ俺の体に穴の1つも空いていたかもしれない。


 だが、その片目では、いくらお前とて距離感を見失うだろう?


 蛇行するように走って鼬竜がいる木に接近する俺に対して、狙って放たれているはずの水流はどこかおぼつかなく、直撃するコースに飛んでこない。

 それはそうだ。

 一点に当てなければいけないその魔法を、距離感の測れない片目で放ったところで当たるものか。


 そして俺が足元に到着する直前で、鼬竜は魔法を切り上げ、木から飛び降りると同時に空中で大きく後方に一回転。

 その巨大でときに凶器となる尻尾で俺を叩き潰そうとする。

 先ほど障壁魔法を容易く粉砕した一撃だ。


 だが俺は逃げない。

 さっきは防御用に張った障壁魔法を粉砕されたことで撤退したが、今俺の手には万物を斬り裂くと言っては過言だが大体のものが叩き切れる、限界まで俺の魔力がチャージされた剣がある。

 

 ならば恐れるものなど、無い。

 

 振り下ろされる鼬竜の尻尾。

 それと真っ向からぶつかるように、俺は剣で切り上げを放ち、頭上で剣と鼬竜の尻尾がぶつかり合う。

 そこで体勢を鋭く変えた俺は、左手で剣を掴みなおし、鼬竜とは逆の方向へ、大上段から振り下ろすように剣を振るった。


 結果。


 鼬竜の巨大な体の半分以上にも及ぶ巨大な尻尾を、その中ほどまで真っ二つに切断した。


『グゥルアァァァァァァ!?』


 今度こそ正真正銘、致命傷レベルの傷に鼬竜が悲鳴を上げる。

 そしてその隙を逃す俺ではない。

 切断された尻尾を飛び越えるようにして鼬竜の背中に飛び上がると、そのまま背中の上を走って頭部へと移動。

 そして頭部の上から、魔力を込めた剣を勢いよく下に突き刺した。


 狙ったのは脳だ。

 怪鳥より首が太いこの鼬竜の首元を切断するのは手間がかかる。

 ならば頭蓋を貫いて頭を潰した方が早い。


 ビグンッ、と一瞬鼬竜が痙攣した後、その体から力が抜けるようにして地面に倒れ伏した。

 その動きで鼬竜の死亡を確認した俺は、しかし息をつく余裕は無く、モンスターの解体作業に入る。

 まずは怪鳥の方からだ。


:急いで解体初めてどしたの?

:フィルターかかってるけど赤黒いよぉ

:やっぱ深淵探索には倫理フィルターのパワーが足りてないな。もうモザイクじゃなくて完全にカットしてイラストとかに変わって良いんじゃない?


「このエリアは結構乱入が来るからな。乱入が来る前にモンスターの素材は回収しときたい。死体が残るっていってもせいぜい1、2時間ぐらいのことだから、もう1回乱入されたら多分怪鳥の方が消えるかもしれん」


 戦闘が終了した事をドローンが認識し、おそらくは鳴海の操作によって俺の視界にコメント欄が浮かんだのでそれに答えながら作業を続ける。


 まず怪鳥の肉部分は俺が食う分だけ確保して、血は複数のボトルに確保。

 これはグロテスクかもしれないが、怪鳥の血液はなんか魔法具開発の際の触媒として非常に有力らしいので一応回収。


 後は羽根をいくらかと、嘴や鉤爪など武器に使えそうなパーツに、おそらく魔法の制御に関わるであろう内臓や角と魔石を回収する。

 他のパーツは流石に全て持って帰るのは手間なので、この階層のモンスターの餌にしてもらおう。

 皮も持って返ったら使い道があるかもしれないが、鼬竜の方が性能が良いので今回はスルーだ。


 そしてもう1体、鼬竜の方も同様に解体するが、あちらと違ってこっちは全身の皮や鱗が防具に良さそうなので丁寧にはがすのが大変だ。

 部分的に肉もついてしまったが許してもらおう。

 それらを大きな布で覆い、ポーチにしまう。

 ちなみにポーチは基本的に戦闘用のアイテムを入れているので、これは後で荷物用のカバンの方に移す。


 そうこうしていると、また何か気配が近づいてくるのを感じた。

 鼬竜の解体は中途半端だが、敵が来るというならば仕方ない、全力で狩らせて貰うとしよう。

 血まみれの手を布で拭い、剣を引き抜く。

 そして俺は、新しく襲来したモンスターの迎撃へと向かった。



 この後めちゃくちゃモンスター狩った。



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ドラノベコンテスト中編部門用の新作です。

ジャンルは【ハイファン×SF】。

本作とジャンルが全く違うって?

それはそう。


でも出来れば読んで応援して頂けると嬉しいです。


TS転生宇宙人の地球改造計画~ファンタジーの惑星を作ろうと思ったらここ荒廃した地球だったってほんとですか!?~

https://kakuyomu.jp/works/16818093076398670965


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