第34話 疲れたのでちょっと雑談でも
「ふっ、はぁぁぁ……疲れた」
:お疲れ
:死屍累々の上に立ってそれ言うと風格あるな
:今日何体狩った?
:多分20体以上狩ったよな。もう大半消えてるけど
あれからも入れ替わり立ち替わり次々とモンスターが襲来し、その度に俺はモンスターと戦って倒していった。
このエリアのモンスターとソロで戦う方法を俺の中で確立していたのでなんとか全部倒せたが、とくにグリフォンの魔法ラッシュなんかは結構きつかった。
あいつに関しては純粋な魔法戦の範囲になると能力差で俺が押されることになってしまうのだ。
結果俺自身も連戦して無傷ではすまず、途中で深淵レベルのポーションを使わされる羽目になった。
その圧倒的な回復力にまたコメント欄が一荒れしたが、次々と襲いかかってくるモンスターに、だんだん視聴者達も俺に同情的というか、俺を心配するようになっていた。
だからもとからハイリスク・ハイリターンだと言っていただろうに。
なおモンスターの解体は最初の数体以外していない。
その暇が無かったというのもあるし、下手に多量に流通させすぎて、後から来る探索者が美味い目を見れなくなってしまうのも良くない。
故に俺の持ち帰るアイテムは、多くの者が求めるけど全く足りず、かと言ってたった1つほどには少量にせずに、というダンジョン省の指示に従った量にした。
まあ要するに、持って帰るアイテムはほどほどにしておけということだ。
そのため1種類のモンスターにつき1体ぐらい解体出来れば十分だった。
今日だけで同じ種類のやつ結構相手した気がするけど。
ちなみに怪鳥とひとくくりに呼んでいるが、この層の怪鳥は色ごとにそれぞれ別の種だったりする。
姿も似通ってはいるものの、色を除いても細かいところに差異がある。
同種なのか違うのか、別色同士で繁殖できるのか出来ないのか、場合によっては合体版みたいなのも出てくるのか、等興味が湧く。
まあ結局は魔力によって発生するモンスターなので繁殖方法とか考えても仕方ないのだが。
「よし、今日のレベリングは終わりにしよ。疲れた」
流石に連戦で疲れたし、いくつかレベルも上がったのでそれで良しとして今日の第15層でのレベリングは切り上げる。
まだ時間的には夜まで少し時間があるが、俺も集中力が流石に尽き始めている。
日中に大怪我を負ったように、このエリアのモンスターは多彩な攻撃を持っているので、死にゲー式攻略術で幾度も死にながら能力を確認した俺でも対応しきれない場合がある。
そんな場所で集中力を切らした状態で探索をするのは明らかに危険な行為だ。
:まあそんだけ倒せばね
:ああ、アイテムが消えていく……
:なんで全部剥ぎ取らなかったの? 売ったら百億とかいくんじゃない?
:普通にハイリスクの意味がよくわかるエリアだったな
:お疲れさま! そのアイテムは市場に卸すんだよな? そうだと言ってくれ!
「アイテムとか素材に関しては、俺が1人で流通量をあげるのはちょっとあれだから。後から人が到達したときに、その物の希少性とか価値が下がる可能性があるから自重してる。後シンプルに1人でその量回収するのはめんどくさい」
:確かに
:せっかく到達したのに目新しいはずのアイテムが普通に流通してたらがっくり来るわな
:少なくともヌルみたいにダンジョン探索のためにダンジョン探索してる人ばっかじゃないしな
:そんな事も自分で考えてるあたりヌル頭良いよな
まあ頭が人より回る自信はあるけど、これ自体はダンジョン省からお願いされたことなんだよな。
ただそういう内々でした話は外にはあまり漏らさないで欲しい、説明する場合は自身の意志でそうしていると説明して欲しい、と頼まれているので、俺の考え方として説目するだけに留める。
ちなみにダンジョン省の意向で俺がアイテムの量を抑えていると説明してしまうと、ヘイトが俺のポリシーという攻撃しづらいものからダンジョン省へと移ってしまう可能性がある。
とくにダンジョン産のアイテムや素材を活用している企業からは、ダンジョン省の制限に対して不満の声が上がるだろう。
何せ彼らからすれば、新しい素材を利用した装備や道具というのは目の前に広がる稼ぎどころだ。
それを妨げるダンジョン省に不満の声を上げるのはわかる。
だがダンジョン省からしてみれば、今のダンジョン産アイテム事情だけでなくより未来の、多くの探索者が深遠に潜るようになってからのことも考えての判断だ。
金銭的に余裕がある俺が大量に持ち帰って素材の価値を暴落させるのではなく、後から到達した探索者達が金脈の如き素材を回収して売り、大きくお金が動いて探索者も関連企業も利益を得る。
数カ月後か、数年後の話になるかもしれないが、将来的に見ればそちらの方が伸び幅は大きいに決まっている。
だからこそ、俺が持ち帰るアイテムはごく少数に。
買い取った者たちが研究したり、鎧や武器を数個作るのがせいぜいなぐらいの量におさめておくのだ。
それにそうしておいた方が、実際にその素材やアイテムの性能が情報として世に出回るので、それを持ち帰る探索者の深淵到達に対する期待も高まり、探索者をよりダンジョン攻略へと駆り立てるという効果も見込める。
「頭が本当に良かったらこんなアホみたいな攻略法やってないんだよなあ」
:ド正論
:自分で自分に正論パンチ放つのやめろ
:頭は良いのにバカという言葉の意味がよく分かる
:ヌルの死ぬ場面は怖かったけど、その頭のおかしさは好きやで
マネージャー:ヌル、頭いいのに時々バカだもんね
:マネージャーにも言われとる笑
「うっせうっせ。俺の中ではこれが一番合理的な判断ってやつだったんだよ。ただ暴走してるんじゃなくてちゃんと理性で頭のおかしいことをやるって選んだの」
俺も何も一番最初からこうしようと考えていたわけではない。
普通に攻略だってやろうとしたし、上層のある程度はそうやって進んだ。
でもソロで倒すのがきついボスモンスター相手に、分身を使った攻略法の開拓を思いついた。
そしてそれ以降、何故かぼっちになってしまう俺にはその攻略法が最適だとわかったから使い続ける事を決めた。
それだけの話だ。
自暴自棄になったのでも、何も考えずに暴走しているわけでもない。
理性で、俺はこの一番狂ってると言っても良いやり方を選んでここまで来たのだ。
「それより、後は9層で魔法垂れ流しながら雑談するから、なんか内容考えといてくれよ。俺そんなに人生経験豊富じゃないから話題とか無いぞ」
以前配信を始める前に勉強的なつもりでブイチューバーなどをちょっと見たが、雑談配信とか出来る人は本当に凄いと思う。
俺はダンジョン深淵というオンリーワンの話題があるから割と話せるけど、そうでもなければそんなに話せるような内容は無い。
:雑談きたー!
:雑談助かる。今唯一の深淵の情報源だからな
:でも攻略情報は話してくれないんでしょう?
:ヌルはあんまり攻略情報のおもらしはしてくれんからな
そんな視聴者達の声を視界の隅に捉えながら、第15層を離脱した俺は、キャンプ地である第11層を通って第9層へと向かった。
******
「さて、と」
第9層についた後、まずは地面に指を使って大きく魔法陣を書いた。
ただ指で土に書きつけるのではなく、指の先に魔力を集中させて、魔力で地面に魔法陣を刻みつける。
これによって、多少踏んだところで壊れず、また空中に展開した魔法陣のようにもろく無い、魔力を通せば何回でも展開が可能な魔法陣が完成した。
魔法陣魔法のルールの1つとして、何かに魔力で刻まれた魔法陣は魔力を通すことで繰り返し使えるが、普通にペンで紙に書いただけの魔法陣や空中に投影した魔法陣は一度の使用で崩壊してしまう、というものがある。
地上で流通している魔法具などに使われているであろう魔法陣は前者で、おそらくは魔石の粉末などで描くことで繰り返し使えるようになっているはずだ。
俺の場合なら、戦闘中に空中に投影して攻撃魔法を放ったりする魔法は後者の1回で消えてしまう魔法陣で、手の甲に一時的に入れ墨のように刻みつけたり、今地面に書いたりしたような魔法陣は前者の繰り返し使える魔法陣に該当する。
「さてと、これで準備はできた」
:魔法陣?
:前来たときはしなかったよな?
:障壁用の魔法陣か。雑談に集中するためかね
:あれ、強度の記述僕の知らない文字あるんですけど
:魔法陣関係の知識ある人らは理解してるみたいやな
地面に刻みつけた魔法陣は障壁を生み出すための魔法陣だ。
これによって、今から釣り出すモンスターからの遠距離攻撃を弾く。
そしてこっちは魔法を撃ちたい放題で撃ち込んでいく。
今回は雑談をするということで、少々セットアップに手間がかかるが設置式の魔法陣を設置することにしたのだ。
「じゃ、準備出来たから何でもどうぞ。質問とか。まあ攻略情報はあんまり答えないかもしれんけど、聞くだけどうぞ」
後は魔法陣を適当に展開しながら撃ち込んでいけば、水中でアクティブになったモンスターのうち陸に上がってこれる奴等が陸に上がってきて、勝手に魔法の射程内に入ってきてくれる。
俺はそこを砲撃すればいいだけなので、地面にあぐらをかいて座りながら話す。
ちなみに位置関係としては、俺が高台の崖の縁に湖の方向に向かって座り、その正面に撮影用のドローン、そしてドローンの後ろ側や上側に魔法陣が展開されて、湖から上がってくるモンスターを討つという状況だ。
:いつからダンジョン探索始めたの?
:なんでパーティー組まなかったん?
:深層攻略の情報出し渋る理由を知りたい
:持ち帰ったアイテムはどこで売ってるの?
:ぶっちゃけ今日の収入いくらぐらいになる?
ズラーっと質問が並んでいく。
この中から選んで回答していくのだが、どういう基準で選べばいいかは未だにわからない。
有名ブイチューバーの配信を見ていたときは、スパチャで質問した人の質問を主に回答するようにしていたが、生憎俺は金に困ってないから収益化するつもりはないし、今現在その申請もしていない。
となると鳴海に選んで貰うか、自分で話すべき順番を考えて選んでいった方が良いだろう。
「えー、じゃあ取り敢えず、深層の情報を出さないようにしてる件について、ちょっと話そうか」
まあまず話しておいた方が良いのはこれだろう。
「まず1つにあるのが、シンプルに面倒くさい、って事」
:面倒臭がるな
:ぶっちゃけたな
:流石にの理由は許されんだろ
:まあ待て、ヌルならなんか面白いこと言う
:それで国のダンジョン攻略に貢献しないのもう売国奴だろ
案の定一言目に対する反応でコメント欄は荒れる。
つかみはバッチリだ。
「まず第一に、深層が広すぎて全部情報まとめて出すのは相当時間がかかる。かと言ってじゃあ1地区分だけ、とか言っても絶対どっかから文句が出て全部やれって話しになる。だから、そういうのを含めて面倒くさい」
一度前例を作ったことで、次もそれをするのが当然と言わんばかりの態度を取る者達というのは多数いる。
俺だって早く深淵に到達してもらいたいが、かと言ってそこまでの労力は割きたく無いし、余計な事を外野から言われるのも嫌だ。
:心当たりしかありませんねえ
:確かに残り15地区分は多いか
:行き詰まったときのヒントぐらいで良いんじゃない?
:実際全部文章とか映像集めるの何ヶ月かかるんだろ
「納得してもらったところで2つ目の理由。トップクランとか有力な探索者には、最前線の情報を商売道具にして金を稼いでる人もいる。それを俺が全部かっさらうのはどうかと思った」
これは結構真面目な話。
俺はダンジョンを攻略するためのダンジョン探索を出来ているが、全ての探索者がそうではない。
お金を稼ぐためのダンジョン探索をしている人だっているだろうし、他にもいろんな目的を持つ人がいるだろう。
そういった人達のモチベーションの1つとなりりうる情報を俺が出してしまうのは、ダンジョン探索という業界において良くないと思う。
:正論オブ正論
:それは確かに
:情報屋みたいなことしてる人もいるしな
:下層ならともかく、深層は未開拓だからこそ情報に価値があるわけだし
:確かにヌルが全部明らかにしてしまったら、そういう人達は失職したようなことになるわけか
「そして3つ目。深層程度自力でクリア出来ないなら、深淵に来たところでどうせやっていけない、と俺は思ってる。から、まあ早く深淵に来て欲しい気持ちはあるが、手助けしたら成長の機会を奪っちゃうんじゃないかと思ってな」
自分たちでダンジョンを探索し、情報を集めて攻略し、一般モンスターとボスモンスターを倒して次の地区へと進む。
その過程がなければ、ただ戦うだけでなく未知の環境を切り拓く探索者としての成長が無くなってしまう。
そういう意味では深層最前線以外の探索者たちは先駆者達の知識を頼りに探索しているので、俺が望むほどの成長を出来ていないことになるが。
まあそういう細かいことについては知らん。
多分何かがどうにかなるか、ならなかったら深淵に挑んで散っていくことになるだけだ。
:わからんでもない
:それこそヌルが言う介護されてレベル上げるのと似たようなもんだしな
:深淵以降のえぐさを見ていると、確かにそう思うな
:ヌルだって今日死にかけてたし
そんな事を考えていると、今日の俺の戦闘中のミスについて話が及んだ。
「あそこは相手が魔法使ってくるからずれると事故ることがあるんだよ。だからハイリスクって言っただろ?」
ちゃんと事前に言っていた、と主張はしてみるが、視聴者達のコメントは厳しい。
:なら行くなよ
:レベリングぐらいは安全にやってほしいなって
:ヌルの言う鍛錬でもないなら安全なところで良いやん
:鍛錬は分身でするんだろ?
普通ならここに鳴海も混ざって何か言ってくるのかもしれないが、あいつは俺のダンジョン探索を阻害するようなことはしたがらない。
危険な事をするな、と文句は言うが、本気で止めようとはしてこない。
多分今回も、本当は無茶して欲しくはないけど俺がそれをしたいなら、と我慢しているのだろう。
俺もそこに関しては譲るつもりはないので言われても問題はないが、俺の事を考えてくれて嬉しい限りだ。
「そこはまあ、生身の俺も追い込んでいかんとだろ? 分身はもう死にまくってるし、生身だからこその成長とかもあるし」
:本当にござるかあ?
:まあ、ヌルの主張通りなら厳しい環境こそ成長する、だもんな
:絶妙に信用ならんのに本人という飛び抜けた存在がその証明になってしまってる
:ちょっと一步踏み込んでみようと思ったけど、やっぱ勇気がいるわ
「お、一步踏み込んでみようと思った人、いいじゃん。その一步で死んだら駄目だけど、厳しい経験は間違いなく糧になるから。一番いいのは、自分が死ぬラインを見極めること。一步は危なくても半歩なら行けるんじゃね? って考え続けることだな」
そんな雑談をしている間に、湖から上がってきたモンスターが魔法によって粉砕されていく。
今回は回収するつもりはないので撃ちっ放しなのだ。
「さて、それじゃあ次は──」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます