第32話 VS怪鳥
怪鳥との戦闘は、地と空の睨み合いから始まった。
普段から鼬竜やグリフォン、そして時には同種や似た種の怪鳥と争いを続けている怪鳥でも、俺のように小さな人型で攻撃をしてくる相手は初めてだったのだろう。
一応人型のモンスターとしてオークがいるとはいえ、あちらはせいぜい投槍ぐらいでろくな遠距離攻撃はしてこない。
故にこのモンスターにとっては初めてのはずだ。
人型で、自分たち以上に魔法を操って攻撃してくる存在というのは。
剣を最後のとどめまで隠しておくために、俺は魔法を通常の攻撃手段として使用する。
幸いこの【大樹林】では、巨大樹が高い魔力耐性によって魔法を受け止めてくれるため、【戦場跡地】のように下手にぶっ放したら他の集団がアクティブになる、なんて地獄のようなことは基本的に無い。
そのため、一瞬黄色の怪鳥と睨み合った俺は、すぐに多重に魔法陣を展開すると、そこから火球や風の刃、氷の槍など複数の魔法を時間差をかけて怪鳥目掛けて投射する。
ちなみに魔法の対象は眼前の黄色い怪鳥を指定しているが、追尾性の高い魔法には魔法自体の柔軟性や変形機能などいくつか魔法陣の記述を追加する必要があるので、普段使いの魔法は逆に追尾性を一定に抑えて飛翔中に魔法が破綻しないような形にしてある。
魔法陣魔法が万能とはいえ、逆に万能すぎてそういう部分で自分で考えることは多いのだ。
時間差をかけて着弾していく魔法を、怪鳥はその場で回避するのではなく俺を中心に大きく円を描くように飛翔しながら回避していく。
全部避けられているのは癪だが、弾幕の中を飛び抜けていく奴の姿は少しばかりかっこいい。
そして最後の氷の槍まで回避した後は、逆に額から後方に流れている3本の角に魔力を集め、そのまま周回飛行をしながら俺に向かって魔法を放ってきた。
放たれた魔法は風の砲弾。
既に気づいている人もいるかもしれないが、この階層の怪鳥が角に集めるようにして操る魔法は、基本的には色ごとに属性が違う。
青い個体は雷撃を操り、黄色い個体は風を操る。
他にも炎を操る緑色の個体や、水を操る赤い個体なんかも存在している。
色が紛らわしいが、そういうモンスターなのだから仕方ない。
そして今俺が戦っている相手は黄色の怪鳥であり、風属性を角で操る。
故にその放つ風の砲弾はただの砲弾ではなく、俺の風球よりも大きな攻撃範囲を持っていた。
最初に放たれた風の砲弾を俺が回避した直後、砲弾が直撃した地点で破裂して強力な暴風を振りまく。
「チッ」
それにわずかに体勢を崩されながらも、俺は2つ目、3つ目と飛来する砲弾を躱す。
風属性の魔法視認性が悪い場合があるが、それも魔力を感知すれば問題ない。
問題があるとすれば、風の砲弾が直撃する事に不規則に吹きすさぶ風のせいで俺の体勢が崩され、回避が困難になりつつある、という点か。
怪鳥もそれを見て取ったようで、周回飛行をしながら魔法を放ち続けてくる。
が。
「そもそもわざわざ受けてやる必要は無いんだよな」
自分の身体の周囲だけ風の流れを整える魔法陣を展開し、それを一時的に手の甲に刻みつける。
普通は町中で風の強い日とかに使って、風を避けるための魔法だが、風を避けるという意味ならば今この瞬間の、地面に直撃しては暴風を巻き起こしている怪鳥の魔法もこの魔法の効果の対象に入る。
そのため、魔法陣を刻んた直後から、俺の回避行動は非常に安定した。
もともと風の砲弾が破裂した際の暴風によって体勢を崩されていたが、それが無くなったのだ。
そうなれば、後は飛んでくる球を避けてやるだけでやる。
奴の放つ魔法には追尾性能もついていないようだし、避けるのはそう難しいことではない。
だが、それは相手も同じこと。
俺がちょっかい程度に一発辺りの規模と仕様魔力量を抑えて、代わりにまさに弾幕の如く展開した魔法を、やつは悠々と回避しながら飛んでいく。
そらガチで飛んだらレシプロ戦闘機ぐらいなら余裕で空戦で圧倒できるような奴が飛べば魔法程度の弾幕は当たらなくなりますわな。
残念ながら深淵第17層に至りレベルは190を越えて200に迫る俺でも、機関銃のような速度の魔法の弾幕を展開することは出来ない。
その点で言えば、地上の重火器はダンジョンのモンスターに通用しないという点を除けば本当に凄まじいものだと感じる。
さておき、結局のところ、怪鳥と俺の遠距離での魔法の撃ち合いは互いに牽制する程度のものでしか無い。
故に。
「そう来るよなあ、来ないと狩れないもんなあ!」
風を俺の方に砲弾として放ってくるのではなく、鎧の様に自分の身を守るために纏った怪鳥が、周回飛行から一転、俺の魔法の弾幕を鎧で弾きながらこちらに向かって突撃を仕掛けてきた。
その突撃を、弾幕を解除した俺は、仕留めきるための大型魔法陣を展開しながら待ち受ける。
そして。
「展開!」
衝突。
直前で展開した大型魔法陣によって構成された、対魔法解除特化の障壁が怪鳥を待ち構え、風の鎧を剥ぎ取ってその身だけを通過させる。
そして俺は、剣での振り上げるような一撃を。
怪鳥は鉤爪によるひっかきをぶつけようとした結果、俺の剣とモンスターの鉤爪が激しく衝突した。
僅かな拮抗。
その直後には、足を後方に回転するように体ごと振り上げた怪鳥の反対の足が俺の眼前に迫る。
そして俺はそれを、待っていた。
「貰うぞその足……!」
怪鳥の足による蹴りが振り抜かれる前に自分から飛び込み、思い切り剣を振り抜く。
怪鳥にとっては鉤爪や風の鎧を纏っての突進と同じく攻撃のつもりだったのだろう。
だが、風の鎧を剥がすには大型魔法陣を使用するしか無い俺でも、あるいは怪鳥の爪は硬すぎて魔力を集中させる余裕が無ければ斬り裂けない俺でも。
怪鳥の生身の肉が全面に出ている足ならば、魔力を集中する余裕が無くても傷を負わせることが出来る。
振り抜いた剣は勢いよく怪鳥の足に炸裂し、その8割程を大きく斬り裂いた。
あと一步踏み込めていれば切断まではいけたかもしれないが、それでは切断した後の足が俺に当たる可能性があった。
怪鳥が高速で振り回した足だ。
とてもではないが当たりたいものではない。
『ケアァァァァァ!!』
足を大きく切り裂かれた痛みに怪鳥が苦悶の声を上げる。
だが、それを聞く前には俺は既に次の動きに入っていた。
敵が怯む一瞬。
その一瞬に全てをかけて、跳躍。
同時に、わずかに集めることが出来た魔力を剣に纏わせる。
そして俺が振り下ろした剣は、それでも魔法を放って俺を迎撃しようとした怪鳥の首を、硬い手応えとともになんとか8割程切断した。
一撃で落としきりたかったが、こればかりは剣のリーチとモンスターの体躯の良さの問題だ。
魔力操作がこなれてくれば魔力で刃を伸ばすようなことも出来るのかもしれないが、今の俺にそれは出来ない。
故にとどめを刺すために追撃を放とうとして。
直後に俺は飛び退り、全力で障壁を張る魔法陣を展開した。
『ガ、ゲアアァァァ!!』
首を8割程切断されたはずの怪鳥。
その怪鳥が上段から振り抜いた頭部。
そこに生えている角から伸びるようにして構成された風の刃が、周辺の地面ごと俺が居た場所を大きく斬り裂く。
そしてそのリーチの長い魔法は、俺の展開した障壁とぶつかり、一瞬の後に障壁を破壊して振り下ろされた。
「あっ、ぶねえ」
そうぼやく俺が無事なのは、障壁で自分の前に壁を張ると同時に大きく横に飛び退いて怪鳥の最後のあがきの一撃を回避したからだ。
その後もブンブンと幾度か頭を振り回して周囲に斬撃をばらまいた怪鳥だが、首をアレほどに斬られればもはや命はない。
俺もそれがわかっているので無茶をせず、ただ怪鳥が力尽きるのを待つ。
というわけにはいかないのが残念ながらこの深淵なのだ。
怪鳥が暴れる間に、あらためて剣に魔力をしっかりと纏わせる。
ちなみにいちいち剣に魔力を纏わせなおしているのは、俺の魔力操作がおぼつかず、斬撃を放つ際にそのまま魔力を解放して逃がしてしまうからだ。
本当は、一番いいのは剣の周りに留めるか剣に浸透させるように通して留めるかだが、残念ながら俺にはまだそこまでの魔力操作能力はない。
一撃事にチャージを必要とする。
それが今の俺の魔力操作技術の限界だ。
だから、その一撃を叩き込めるだけの隙を作り出す。
「よし」
全力で剣に魔力を纏わせた俺は、暴走したように暴れまわる怪鳥の懐に、あえて自ら踏み込んでいく。
怪鳥の角から伸びる風の刃に触れてしまえばおしまいだ。
特にこいつの刃は斬れ味に秀でており、相当に魔法耐性が高いはずの巨大樹の根を、ダンジョン内部のありえない程に硬い石ごと切断している。
故にその隙間を狙って、触れることが無いように俺は懐へと飛び込んだ。
しかし流石に致命傷を負い暴走しているとはいえ深層第15層のモンスター。
近づいた俺に反応するように刃を振り下ろしてくる。
それを一步横に動いて回避した俺は、今度は先程切断した首の反対側に周り、先程切断した場所と合わせて、残り3割程度しか残っていなかった怪鳥の首を切断する。
それによって怪鳥の首は完全に胴体から切断され、ようやく大暴れしていた体や翼も活動を停止した。
「ふぅ……」
ちなみにあのまま放置していた場合どうなったかというと、普通に足の傷も首の傷もくっついて怪鳥が完全復活する。
この階層のモンスターは、そのレベルで再生能力が高いのだ。
だから奴等の諍いも、本気で殺し合っているように見えて実際は只のじゃれ合いに過ぎないという側面もある。
大抵どちらかが大きな傷を負った時点で撤退し、傷の回復を待つからだ。
もちろんどちらかが相手を完全に仕留めてしまって捕食するという場合もあるが。
故に仕留めれる瞬間に仕留めておかないと、余計な長期戦に陥る羽目になるのだ。
「ここでの戦闘はこんな感じ!」
戦闘開始前に、巻き込まないように一旦遠距離に配置しておいたドローンに叫びつつ操作をして、近くまでやってこさせる。
巨人戦みたいなただただ馬鹿力を振るう相手なら俺が回避するので追従するドローンも破壊される心配はないが、魔法を多用するこの階層での戦いは別だ。
相手も大量に魔法を撃ってくるので、俺の側にドローンをとどめていると壊れる確率が高いのである。
:魔法の撃ち合いすげー
:深層探索者で魔法使いですけどアレは無理です
四葉ミノリ:魔法の撃ち合い、凄かったです
:最後は首落としてとどめ刺したんか
:すぐ仕留めるつもりならやっぱりそこなのか
「こいつら、再生能力が高いからな。仕留めきらないで傷与えて放置してると普通に回復してまた攻撃してくる。だから基本的には短期戦をやった方が楽なんよ。後最初の魔法の撃ち合いは──」
普通にコメント欄の視聴者と会話していた俺は、新しい気配の飛来にはっと視界を上に向ける。
そこには、遥か高空からこちらへ向かって飛び降りてくる鼬竜の姿があった。
「血の匂いに惹かれて来たか……!」
即座にドローンを遠方へと放り投げ、剣を構えて敵が落ちてくる経路を見極め、その射程から逃れるように移動する。
俺が回避したのを見た鼬竜は、尻尾を大きく広げて風を受けることで方向転換しながら俺を追ってきて、俺の眼前に勢いよく飛び降りた。
予期せぬ第2ラウンド、というわけではない。
このエリアは以前言った通りハイリスク・ハイリターン。
怪鳥という巨大なリターンを俺は得たが、代わりに命の危機に飛び込む覚悟を求められ、更に乱入者を相手するというリスクを背負ったのだ。
【巨人の巣】とは違ってこの【大樹林】では、かなりの確率でモンスターとの戦闘中に他のモンスターの乱入を受けるのである。
今回も俺が早期に怪鳥を仕留めたので複数を同時に相手することにはならなかったが、時間をかけて魔法で削ろうとしていれば、暴れる瀕死の怪鳥と同時に鼬竜を相手にする羽目になっていたのだ。
そう考えれば、早期に仕留めることが出来た今現在はハイリスクとは言えない。
1体ずつ獲物が来てくれるのはむしろありがたいことだ。
「お前も俺の糧となれ」
『ウゥルガアァアア!!』
俺の宣告とモンスターの咆哮が合わさり、開戦の合図となった。
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ドラノベコンテスト中編部門用の新作です。
ジャンルは【ハイファン×SF】。
本作とジャンルが全く違うって?
それはそう。
でも出来れば読んで応援して頂けると嬉しいです。
TS転生宇宙人の地球改造計画~ファンタジーの惑星を作ろうと思ったらここ荒廃した地球だったってほんとですか!?~
https://kakuyomu.jp/works/16818093076398670965
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