第28話 妥協しても良いけど面白くないんよな

多くの方からギフトをいただけて嬉しい限りの星屑です。

皆様、本当にありがとうございます。

今後も本作、他作ともに頑張っていきますので、応援よろしくお願いします(現在本作の書き溜めは38話辺りまであります)


また、ぜひともこの話を読み終わったら★の評価を頂けると嬉しいです。

評価は作者の糧になると同時に小説の糧になりますので、是非とも応援お願いします。



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「いやー、参ったねどうも」


 ボス猿の出現後、一気に階層を移動して第11層のキャンプ地まで戻った俺は、テントの前の丸太に腰掛けてそうぼやく。


:急にどうしたん?

:乱入があったから逃げたんか

:ヌルも結構安全志向じゃん

:人に安全で穏やかなとか揶揄しといてチキってるじゃん


「あー、そこは勘違いするなよ? 常に死地に身を置け、とまでは俺は言わんよ。俺だってそれは怖いし、それは流石にいくら命があっても足りんわ。ただ理性的に、意図的にで良いから、たまに無茶をしてみたらどうかって言いたいわけよ。自分でギリギリを見極めて追い込んでも良いし、馬鹿やるのも良い。ずっと安全なまま、ってのは駄目ってこと」


 そこは勘違いしてほしくない。

 俺だって命が大事だし、初見の相手にいきなり武器を持って挑むのは勇気がいる。

 だからこそ分身なんていう残機無制限の索敵方法で索敵をしたり敵の情報を探ったりしているわけだしな。


 ただ、いつまでもそれだけじゃ駄目だ、という話だ。

 俺が階層ボスの討伐は必ず生身で赴くように、レベリングで強力な相手と立ち回るように、どこかで無茶というものを経験しておくべきだ。

 それが探索者にとっての、順調なレベルの成長ではなく1つ殻を破るようなスケールの成長に繋がると、俺は確信している。

 

 そういう話をしたいのだが、どうもうまく伝わっていなかったらしい。 

 まあ、実際に深層の最奥にたどりついて見ればわかる。

 わからないやつは、深淵に挑んだら今まで通りの安全を確保した狩りが出来ずに足が止まることになるだろうさ。


:結局ヌルの主張はどういうことやったんや?

:それよりもなんで撤退したんかが気になるんだけど

:ヌル的には無茶をするってどういうことなの?

:あの巨人斬るとき、なんか溜めてなかった? スキル?

:とりあえず簡潔にまとめてくれ


 あかん、コメント欄がハチャメチャや。

 さっきついつい自分の思っているところをお気持ち表明的な感じで言ったのが余計な後を引いている。

 確かにいつかは言っておきたいことではあったのだが、何もわざわざ今から視聴者に新しいエリアやモンスターを見せるというタイミングで言うべきことではなかったかもしれない。


「わかった。とりあえず、さっき俺が語ったことについては簡潔にまとめて一回説明する。説明するから、その後は寝る前の雑談モードに入ったときとか以外はもう触れるな。良いな?」


:うい

:すまんそん。つい気になってな。

:夜に雑談があるならそれまで待つわ

:で、結局どういう事やのん?


 他の配信者の配信とか見てみたけど、ブイチューバーの人がやってたみたいに何時から何時間では何をして、何分から何分までは何をする、みたいな事を決めるのは、ダンジョンの状況に左右されやすいダンジョン配信では難しい。

 難しいが、しかし、配信の一要素をいつまでも引きずるのが良いこととは思えない。

 その辺りはマネージャーをしてくれている鳴海がダウンしている以上、配信者である俺が引き締めないといけないだろう。


「まあ簡単に言うと、よくヒーローとか主人公とかってさ、追い込まれたら急に覚醒したり限界突破したりするやろ? 俺の経験則で言えば、多分探索者にもそれがある。特にスキルとかレベルとか、ダンジョンにおける人間の変化に関する要素は良くわかってないままだしな」


:なるほどぉ?

:簡単にまとめるとそうなるのか

:そんなことあるかあ?

:流石にそんな都合の良いことは無いだろ

:レベル上限ぶっ壊したって言ってたなそう言えば


 視聴者達の状況は、信じる者が1割、否定する者が1割、後は興味津々といったところか。


「理由付けならいくらでも出来るぞ」


 それから俺は、いくつか理由を挙げてみる。


 例えば、スキルやレベルは人間の身体の一部、仕組みの一部として組み込まれているので、命の危機に瀕することで、生存本能が警鐘を鳴らし、火事場の馬鹿力の如くリミッターが外れた力が発揮されるのではないか、という説。

 これは非常にわかりやすいだろう。

 死にかけてからの覚醒の理屈としては申し分無い。

 人間ならば物理的な力のリミッターが外れるところを、探索者ならスキルやレベルまでリミッターが外れる、というだけの話だ。


 あるいは、このダンジョンという存在そのものが、人間を次の段階へと進化させるための何かしらの装置である、という妄想に近い説。

 だがこの説であった場合、人の進化する方向性をダンジョン探索で決めているのだから、それならば余計な進化は必要ない、と見せてしまうよりも、もっと力が必要なのだ見せつけた方がより強くなれる可能性は高い。

 誰に見せつけるのか、って?

 俺に聞くな、ただの妄想だ。


 または、スキルやレベルは、人間の魂、感情に紐づけられている、なんて説も良いかもしれない。

 だから、強い感情の発露、この場合は別に戦闘だけじゃなくても、悲しみとか喜び、怒りでも良い。

 そんな感情を爆発させることで、それに触発されてスキルが更に成長したりレベルの上限が開放されたりする可能性。


「ま、そんな感じで色々と理屈付けは出来るよ。どれかが合ってるかどうかは知らんけどな。はい、この話はおしまい、雑談タイムにでもまた聞いてくれ。それより先に、あの13層のモンスターについて話そうや」


 そういうのに興味があって俺のチャンネル見てるんでしょ?

 と問いかけてみると、視聴者達からたくさんのコメントが返ってくる。


:とりあえず巨人だけど巨人じゃないの意味はわかった

:あんなのばっかりいるダンジョンとか地獄か?

:待ってました。なんで最後撤退したの?

マネージャー:安全な場所って話じゃなかったの?

:乱入されないって話はどこ行った?


「いや違うんよ。ほら、ダンジョンでは常に例外があるって言うだろ? あの階層にも例外があってですねぇ!」


 鳴海の鋭い突っ込みに思わず言い訳をしてしまう。

 しかし、こればかりははっきりと『危ないことはなにもない』と言ってしまった俺が悪いだろう。

 ちゃんと例外があるということを説明しておくべきだった。

 少なくとも鳴海が俺の分身が死んだ映像で精神的にダメージを受けている間くらいは。

 まさかあそこまでドンピシャのタイミングで乱入が入るとは思っていなかったのである。


 そもそもあの階層での乱入は本当に起こりにくいというのに、なにも初回戦闘中にドンピシャで来なくても良いではないか、と恨み言を言いたいぐらいだ。

 多分鬼の巨人があいつに踏み潰されて絶命したおかげでレベルは上がったが、しかし本当ならもっと複数体殺るつもりだったので、俺の方もちょっと不満があるのである。


「まーぶっちゃけるとアレがあの階層のボスモンスターだな。俺は勝手にボス猿とか呼んでるけど」


:ボスぅ!?

:なんでボスモンスターが急に?

:いや、ボスってどっか特定の場所にいるだろ

:え、徘徊型のボスモンスとかいうクソ要素有り得るんですか

:本当の事を言え


 どうも上層から深層までのボスモンスターが、ちゃんとボス部屋で待ってくれるタイプの優しいボスばかりなので、皆俺の話を信じていないらしい。


「いやこれはほんと。そもそも深淵はボスモンスターが一箇所に留まってるとは限らないからな。普通に徘徊してるボスモンスターとか全然いるよ」


 17層のスケルトンの親玉は普通に本陣にいるし、という台詞は言わないようにしておく。

 今はまだスケルトン関係は地雷だろう。


「13層は基本的にモンスターが全体的に徘徊してる感じだけど、ボス猿だけは索敵範囲広くてこっちに気づいたら突っ込んでくるんよ。他の奴等はすぐとなりを素通りしたりとか全然有り得るんだけどな」


 さて、しかしどうしたものか。

 今日はもう深夜に近づいてきたので寝ても良いが、流石に少しばかり欲求不満というか、激しい戦いがしたい欲が開放しきれていない。

 明日に溜めていても良いが……。


:唯一の例外って感じか

:いきなりそれ引くのは不運だな

:今戻ってもまだ待ってるんかな

:というかアレを一度でも倒したの? ヌル1人で?


 しかし命をかけるような内容は今の視聴者達にとっては少しばかりストレスになるだろうし、鳴海やレイラ、ミノリと言った俺の知っている彼女らの精神状態的にも、例えば7層で剣を身につけるために斬られてくる、なんていうのも今はやりづらい。

 

 まあそこまで配信に拘泥する必要はないのだが、とはいえ折角始めてみたのでしばらくは続けてみたい。


「よし、9層行くか」


:なんて?

:まだやるんか

:寝ろ。俺は眠い

:まだ戦闘すること考えてたんかこいつ


結果、俺は一番安全に経験値が稼げる場所である9層に向かうことにした。



******




 9層は、広大な湖とそれにところどころ浮かぶ島、そして湖を囲む草原で構成されているエリアである。

 そこに存在するモンスターは全てが水棲か半水棲で、純粋に地上でだけ活動しているモンスターはいない。


 そのため、高台にある転移魔法陣の周辺は非常に安全な場所となっている。


「まあ、このエリアでのレベリングは退屈だよ。ほんとに」


:効率がめっちゃ悪いって言ってたっけ

:安全なら良いんでない?

:退屈て、あんた

:戦闘狂みたいな事言ってるな

:巨人と戦ってるのも楽しそうだったし、戦闘好きな部分はあるんだろうな


 このエリアでのレベリングは非常に単純だ。

 この位置から、下方の水中にいるモンスターを魔法でひたすら釣瓶打ちにする。

 以上。


「魔法撃ちっ放しで終わるから、楽ではあるんだけどな」


 そう説明をしながら、早速魔法陣を複数展開して広域に小さな石ころをとばす魔法を使用する。

 魔法陣魔法の便利なところは、他の属性魔法系のスキル程特定の属性には特化しないが、代わりに魔法陣の記述内容を変化させることで魔法の性能を自由にカスタマイズ出来る点だ。

 属性魔法のスキルでも詠唱内容の変更や想像、イメージ次第でいくらでも変化させることが可能だ、と幸神博士の論文には書かれていたが、不安定な想像力に頼るぐらいなら、明確にシステム的に記述されている魔法陣魔法の方が自在なカスタマイズがし易い。


:さっきも思ったけど、魔法陣の展開早くないか

:何あの数と速度

:魔法陣魔法ってそんな簡単に使えるの?

:もっと展開とかに時間のかかるものなのでは?


「そりゃ俺のスキルと深層程度の人のスキルを比べるなよ。レベルが上がるごとに、より使い込むごとにスキルの性能は上がっていくのは当たり前だろ。俺だって昔はこんなに簡単に展開出来なかったが、今は出来る。逆に言えば、この深淵はそれが求められる世界だってことだ」


 それでも、スケルトンや巨人、亡霊騎士との戦闘中には剣での戦闘の速度が早いので呑気に展開しているような暇は無いため、剣1本で戦う羽目になるのだが。

 実際俺のスキル構成というか戦い方は、魔法系のスキルを持ちながら剣で戦うという中途半端なものになってしまっているのは否めない。


 だがソロで攻略すると決めた以上は、全てを自分でする必要がある。

 ミノリが魔法の触媒として魔法の杖ではなくレイピアを持っていた様に、俺も魔法と近接戦の両方を鍛える必要があったのだ。

 後は魔法の道よりも剣の道の方が自分で鍛えた極めた感じがあって俺が好きだという理由もあるが。


:剣士の魔法に負ける魔法使いの魔法……

:レベル190もあればそりゃ本職でもレベル60とかじゃ勝てんわな

:というか将来的にはあそこまでファンタジーな感じになってくるのか

:よく考えたらさっきの巨人戦ヌルは巨人の金棒に飛び乗ったり飛び降りたりしてたしな

:地味なファンタジーじゃなくて派手なファンタジーに変わってく感じがする


 そうこうしているうちに、数発の石ころがヒットしたのか、数体のモンスターが湖のほとりから地上へと姿を現す。

 俺命名の水竜が2体に巨大貝が3体。


「水竜だけは遠距離攻撃があるから回避か防御が必要だけど……まあこの距離じゃあな」


 俺がそう言っている最中にも、湖のほとりから飛来した水の線のようなものが魔法陣の障壁にぶつかり、一瞬の反応を残して消える。

 水竜のブレスは、基本的には水を絞ってのウォーターカッター方式か、多くの水を一度にぶつける砲弾方式かの二択だが、この距離ではどちらも有効なダメージを俺に与えられない。


 それはもちろん俺の方もだが、モンスターとは違って俺には防御のための魔法がある。

 障壁なんかがその1つだが、モンスターはそれを持っていない。

 そのため、俺なら防げる程度の火力の弱い魔法でも、長々と撃ち合いをしていればモンスターにはボディーブローの様に地味に効いていき、やがて倒れる。


「というわけで後は撃ちっ放しだ」


 半水棲なため地面を這ってこちらに接近してこようとする水竜と巨大貝に対して、遠距離からひたすらどかどかと魔法をぶつけ続ける。

 あいつらの地上での機動力は本気でナメクジなので、到達する前に魔法によって倒れる。

 そして俺は魔力のそれなりの消費の代わりに、一切の危険を侵すこと無く経験値を得られる。


:わあ……

:普通に敵が可哀想になってくる

:安全だけど、これは違うな

:ヌルが言う意味がなんとなくわかったわ。両極端を見てだけど

:でも確かに倒すのに時間かかるな効率は悪いか


「ここのは1体1体もそんな強くないからな。数倒しても美味く無いんだよ」


 そんな事を言いつつも、俺は魔法を撃ち込み続けて、最後まで反撃しようとしていた水竜を仕留めて倒しきる。


 さて、ダンジョン省の偉い人ともお話したし、せっかくならモンスターの素材を持って帰りたいところだが。

 流石にカメラの前で肉や血のあるモンスターの解体は俺の死亡シーン並にグロテスクだと思うので、配信の方には一言言っておいてからモンスターを解体することにする。

 亡霊騎士とかスケルトン、後は解体するほどでもないゴブリンとかなら、こんな配慮も必要無いんだけどな。


「第9層はこんな感じだな。じゃあ今日は寝て、明日は1回ハイリスク・ハイリターンの第15層にでも行ってみるかね。じゃ、モンスター解体するから配信切るぞ」


 コメントの反応などは見ずに配信を切る。

 さてさて、水竜達を解体して持ち帰るとしますか。

 ただこの戦法、1つだけ問題として、モンスターがボロボロになるから皮が酷い状態になるんだよなあ。

 全く使えないというわけではないが、それでも剣で首を切り落とした時とかの美品の皮とは別物だ。


 まあ今回からはショップじゃなくてギルドに卸すんだし、少しくらい良いだろう。

 それに目新しいものなら買いたい人はたくさんいるだろうし。


:あっ!?

:あいつ明日は一番やばいとこ行くとか言ってなかった?

:懲りてない……!

:いやー、見てて面白いわ

:明日は見ないわ。流石に配信するには限度が無さすぎる

高森レイラ:もっと頑張らないと


 尚配信ではなくドローンの電源を切っただけだったので、鳴海が対応してくれるまで数分間真っ黒な画面だけが無音で配信されていたそうだ。

 前はパソコンとか良く触ってたのに最近はダンジョンばっかりで機材の進化についていけず、扱いを時々こうやって失敗するのはどうにかしたいものである。

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