第27話 対巨人戦

今日はお昼投稿!

なので夜はないです。

お昼に本読む人からのアクセスを得られるかなという実験程度です。

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 ダンジョン深淵第13層。

 そこは、巨大な岩山と森林で構成された広大なエリアになっている。


:さっきの話気になるんだけど、なんかヌル的に確信はないの?

:前から思ってたけど深層越えると様子変わるよな

:いっきに自然っぽくなる

:ヌル、さっきの話もう少し詳しく


「さっきの話はもう終わったつもりだったんだけどな……。うーん、なんていうか。探索者って、ダンジョンにだんだん適応していく存在だと俺は思ってるんよ」


 終わらせたつもりの話を続けたいという人がいるので、俺は近くの岩に腰をかけて質問に答えてやる。


「そこでさ、ぬるい環境に適応してしまったら、そこまでだと思わん? 誰かに手伝ってもらって養殖でレベル上げるのと、一からモンスターと渡り合ってレベル上げるのが、本当に一緒だと思う?」


:そう言われると確かに

:養殖だろうなっていうダンチューバー、ろくなのいなかったしな

:苦境への適応か

:人間の進化の逆を行ってるみたい


「まあ、俺の妄想と言えば妄想だから。それでもやってみようって探索者がいたら、いつもより一歩踏み込んで、死に目にあってみると良い。生きて帰れば、自分が変わったことが実感出来ると思うから」


 そう告げつつ、俺は岩から立ち上がってさっと横に飛び退いた。

 直後、俺の座っていた岩に巨大な金棒が命中し、岩が粉砕される。

 こちらに飛んでくる破片を即時展開した魔法陣魔法の障壁で防ぎつつ、俺は襲来した敵へと視線を上げる。


「ハハッ、やっぱでかいなこの層は」


:で、でかい!

:呑気に話してる場合じゃねえ!

:ヌル、お前気づいてて普通に話してたな!

:巨人じゃんほんとに

:巨人てか、鬼?


 俺の目の前に立つ巨大なモンスター。

 全長は15メートル程になるだろうか。

 筋肉は盛り上がり、それを覆うように赤く硬質化した表皮を全身に纏っている。

 頭部はわずかに人のそれとは違い、どちらかと言えば鬼の形相というのが相応しいようなしかめたようないかつい顔と額の左右からは前に向かって2本の角が延びている。

 口元は牙がむき出しになっており、姿勢は直立ではなく、猿などのようにわずかに前傾姿勢。

 体に対して長い腕の一方をぶら下げるように、もう一方は手にした金棒を肩に載せるようにして保持している。


 そんなモンスター、俺命名の【鬼の巨人】は、攻撃を回避した俺を睨みつけると、直後に大きな咆哮を上げた。


『グゥガアァァアァァァァ!!!』


「相変わらずやかましい野郎だ」


 その巨大な咆哮に耳を塞ぎたくなるが、あえて耳を抑えることはせず腰から剣を引き抜く。

 こいつら相手に一瞬でも油断することは、そのまま死に直結する。

 地形特性や厄介さなどを除いた純粋な戦闘力では、俺がこれまで出会ったモンスターの中でも最強クラスに位置するのが、この第13層に居座っている巨人どもなのだ。


 咆哮の直後、再び振り下ろされた金棒を俺は横ステップで躱す。

 魔法陣で砕け散る地面の残骸を防ぎつつ、地面に金棒が接地している間に飛びつき、その上を駆けて腕の方へと上がっていく。


 が、これはブラフだ。

 そんな事をすれば当然、巨人は反対の腕か、あるいは金棒をそのまま振り回すことで俺をはたき落とそうとしてくる。


 今回は後者だった。

 金棒を地面から持ち上げた巨人は、俺を振り落とすためにそのまま金棒を振り回そうとする。

 

 それを察知した俺は、金棒が振り回されるわずか直前に、自分から金棒の下面を蹴って飛び降りる。

 ただ飛び降りるのではなく自分で金棒の下面を蹴って加速したために、矢のような速度で俺は地面に、鬼の巨人の足元に着地した。


 軽く見上げれば、まだそれに気づいていない巨人は金棒を振り回している。

 それを見た俺は、僅かに出来た隙に魔力を高め、それを剣に向けて集中する。


 《魔力操作》。

 先ほど言った深層最後のボスモンスター相手に立ち上がったときに俺が獲得したスキルだ。

 自分の体に宿る魔力を操り、武器に集中したり全身に巡らせたりすることで飛躍的な身体能力や攻撃力、耐久力の向上に使うことが出来る。


 まあまだ訓練段階なので全身に巡らせて常用出来るほどのものではないのだが。

 それでも敵が隙を晒してくれたこの間に剣に魔力を集中する程度のことならばなんとか出来るようになった。


「フンッ!!」


 そして魔力を多量に宿した剣で巨人の足を斬りつける。

 本当は足首を狙いたいが少しばかり位置が高くて狙いづらく、また魔力操作をした斬撃の威力をまだ俺は確信できていない。

 そのため足首ではなく足の甲を上から叩き切る形で試しの一撃を放つ。


 振り下ろした剣は、魔力を宿すことが出来ていなかった以前とは違って、確かな手応えとともにザックリと深く巨人の足を斬り裂いた。


『ガアァァァァ!!』

「んー、良い火力だ」


 その一撃に巨人が苦悶の声を上げる。

 いちいち声がデカいのでうめき声というより叫び声だが。


 直後に巨人が大きく足で蹴り上げ更に踏みつけるのを飛び下がって回避しながら、俺は剣の威力に口角を上げる。

 

 以前までならあそこまで大きな傷は与えられなかった。

 俺の武器は7層の宝箱からドロップした剣だ。

 そのため7層の亡霊騎士や17層で数の暴力を体現するスケルトン相手なら十分に通用したが、実を言えば、ここ13層やそれより下の、防御力が高いモンスター相手には少しばかり斬れ味不足、威力不足なのだ。

 流石にスケルトンの1体1体が持つ剣よりは強いが。


 そのため俺は今現在は、より下の階層の宝箱から使い勝手の良い武器がドロップしないかと期待しているのだが、生憎と魔法の杖が2本出ただけである。

 ちなみにそいつらは性能が良すぎて地上の奴等では扱えそうに無いし問題になりそうなので死蔵したままだ。


 しかし、それを補うための技術を俺は手にした。

 それこそが、魔力操作による自分の魔力での武器の強化である。

 これによって、例えば鬼の巨人の表皮ならば一撃では大きく斬り裂けなかった俺の剣の一撃が、頑丈な表皮だけでなくその内側にある筋肉や骨までを断ち切るほどの斬れ味を獲得することに成功している。


 といってもそういう使い方が出来ると気づいたのは本当につい最近だが。

 多分初めて使ったのは深層最後のボス戦のときだっただろうが、あのときは必死だったので気づかなかったのだ。

 

 しかしぶっちゃけこれ、深淵探索のための必須技術だ。

 これまで気づかずに死にゲー式攻略術でモンスターを倒していた俺がちょっと馬鹿みたいに思えてしまうぐらいには。


 例えば目の前で荒ぶって金棒を振り回している鬼の巨人を倒すのなんて、以前ならば相当な時間がかかった。

 足首の一箇所に攻撃を集中させ、数十回攻撃を叩き込んで破壊。

 それで体勢を崩したら今度は地道に腕やもう一方の足を削っていって、相手がだるまになったところでようやく本命の首を狙ってまた数十回。


 当然その間巨人は暴れるし、俺はその攻撃を受けないようにしつつ丁寧に丁寧に立ち回らなければならなかった。

 一応目なんかが弱点になってはいるが、そこを狙える程に俺はまだ強くはない。

 せいぜい飛び上がっても巨人の腹に届くぐらいだ。


 だが、自分の中で普段は緩やかに垂れ流している魔力を操作し、それを体に纏ったり体を魔力で満たしてみたりすれば、軽々巨人の顔までだって飛び上がれるし、巨人の足だって一撃で切断に近いところまでいける。


「ま、もうお前に苦戦する俺じゃないんでな」


 巨人の攻撃を回避しながら、再び剣へと魔力を集めていく。

 回避しながらなので集中が出来ずにさっきよりも時間はかかるものの、それでも魔力を集められる程度には魔力操作には慣れてきた。


 本当は常に全身や剣に纏わせるとか、一撃一撃を放つ瞬間に魔力を剣に集めるとか出来ないと駄目なんだろうが。

 生憎と魔力操作というのは酷く感覚的なものなので、俺はまだその領域には到達出来ていない。


 まあそれでも、今巨人の足を叩き斬るには十分だ。


 金棒で粉砕された地面を蹴り巨人の攻撃を掻い潜って、さっき攻撃したのとは反対側の足に狙いを定めて飛び込む。


 そして今度は巨人の足元に着地するのではなく、飛び込んだ勢いのままに、その足首を両断するつもりで剣を振るう。

 まあ巨人がデカく足首もぶっといので、流石に両断とはいかず半分以上が切断できた程度にとどまるが。


 しかしその一撃で、両の足の支える力を失った巨人はたまらず地面に倒れ込む。

 そしてその間に、俺は再び魔力のチャージを開始している。


 後は巨人が岩を投げてきたり金棒を投げてきたりする遠距離攻撃だけ警戒していれば、離れたところで魔力を剣に溜めてから首を狙えば勝負はつく。

 あるいは、暴れられないように腕や足を切断したり胴体を狙ったりとゆっくりやっても良い。


 そう考えて魔力を練り上げ剣へと集めることに集中していたのだが。


 直後に俺は、魔力の集中をやめて、大きく後方へと飛び退った。

 その俺がもと居た位置に叩きつけるように、巨大な拳が振り下ろされる。


「っ、かー、まじか!?」


 初手でこいつを引くとはついていない。

 振り下ろされた拳を回避した俺は、更に距離を取るように後方へと大きく飛び退る。 


 そして俺の見る前で、それは姿を現す。

 巻き上げられた粉塵と瓦礫。

 それらを吹き飛ばす大音声の咆哮によって、そいつは姿を現した。


『グゥルゥアァァァァァァ!!』


 巨人、と呼ぶのはいささか躊躇われる見た目をしたモンスター。

 どちらかと言えば、巨大化して牙や角が生えた毛のないゴリラが鉱石を装甲代わりに纏っている、という方が相応しい見た目をした、鬼の巨人以上の体躯を誇る怪物。

 そいつが、鬼の巨人を踏み潰してそこに立っていた。


「来んの早くねえかなこのボス猿!」


 その姿が見える前から魔法陣を複数同時展開していた俺は、そこから魔法をバラマキつつ、一目散に第13層の入口へと向けて撤退を開始する。

 アレと戦うつもりは、流石に無い。

 唯一の例外の乱入を受けて、俺のレベリングは早速頓挫したのだった。

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