第23話 第17層

いよいよストックが尽きる


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 翌日。

 やはり配信の時間帯は夜にするべきか、と考えて、夕方頃には深淵第1層の【キャンプ地】に到着するように移動する。

 

 道中軽くモンスターを狩ったり回避したりしつつ、駆け足で深層最奥のあの扉へ。

 そして今日は配信に映すことなく、扉を開けていつものナレーションを聞き、深淵第1層に降りる。

 今日はキャンプは別の場所に設置するので今は張らないでおいて、そのまま告知していた通りに夜六時ぐらいから配信をスタートする。


「どうも、深淵探索者のヌルでーす。今日はちょっと昨日良いことがあってテンションが上がっているので、結構ガツガツ戦闘に行きます」


:ゲリラコラボ配信とかいう珍しいの、面白かったよ

:お前が女の子なら3人目になれたのにな

:普通に安定感増してたな

:あんな美少女2人と配信しやがって! 羨ましい!

:ガツガツってこの前以上に行く気か?


「ただし」


 今回は、ダンジョン配信はモンスターの殺傷や探索者の負傷等、通常の配信と比べて相当に規制が緩くなっているとは言え、これは言っておかなければいけないだろう。


「今日からしばらく籠もりっきりで探索をするつもりだけど、場合によっては俺が死にまくる可能性が高い。というか特に今日は、今行き詰ってるところに挑戦するからそうなる可能性が高い。分身とはいえ血もでるし内臓も出る。俺は死ぬまであがくからな。だから、そういうのが苦手な人とかトラウマになりそうな人は、申し訳ないけど配信を見ないでくれ」


:……ガチじゃん

:視聴者にまで覚悟を求めていくスタイル

:推しが死んでトラウマだったけどなあ! お前は死んでも死なんからむしろ安心できる

:ヤバそうだったら退出します

:怖いもの見たさはある


 一応先に警告をしておいたが、視聴者の数が大きく減るような様子は無い。

 今の俺のチャンネル登録者数はありがたいことに100万人を越えるところまで増えているが、今の生放送の視聴者数は2万人程。

 これでも十分すごいが、鳴海曰く『もっとお兄が色々やってるの見せたら伸びるはず』だそうだ。


「あ、それとマネさん。マネさんも、もし怖いなら見るなよ。お前の場合は兄妹だから特にトラウマになりかねん」


:やってることは狂気なのに優しいんだよなあ

:気遣いが出来る良い兄ちゃん

:そっか、マネージャーにとってはヌルは兄貴なんか

:マネージャーって誰?

マネージャー:1回見て駄目そうだったら諦める

:普通にやってること狂気だし恐怖だよな


 特に鳴海は俺を慕ってくれているので、他の視聴者達よりもより受ける衝撃は大きいだろうと思って言ったが。

 しかしそれでも鳴海は見届けてくれるらしい。

 なら、俺も全力でやり切るのみだ


「そんじゃ、目的の階層と、今日キャンプする階層まで移動する」


:ここでキャンプしないんか

:どこでキャンプするの?

:安全地帯がまだあるんかな?

:目的の階層って第何層ぐらいや

:こないだの騎士が7層でワイバーンが5層だよな確か


「今日最初に潜るのは深淵第17層の【戦場跡地】って俺は呼んでる階層だ。そんでキャンプ地は11層。こっちはここと同じで安全地帯になってる」


 多分ダンジョンの良心なのだろうが、10層ごとに安全地帯を設置してくれているようだ。

 そこまで他の人達が到達するのはまだ当分先になりそうだが、そのときには探索の拠点としていろんな設備が出来たり村や町のようになるかもしれない。


 そんな事を考えると少しだけワクワクする。


「さて、それじゃあ行こう」


:わーい

:乗り込めー

:ついにヌルの本気戦闘か

:というかワイバーンを作業レベルで狩るヌルが突破できないってどんな地獄?

:戦場跡地、名前からしてヤバそう


 コメント欄でのそんな反応を軽く流し見しつつ、俺は下の階層へ向けてダッシュで移動を開始した。




******




 1時間とかからずに無事11層に到着。

 ちなみにこれは俺が11層までの階層のボスモンスターを全て倒していることと、おおよそのマップを把握し、転移魔法陣への道のりを覚えていること。

 そして俺自身が魔法陣魔法によって機動力を底上げしているからこその移動速度だ。


 普通に探索して攻略するならば、1エリアがよほどうまく行って半日、戦闘などに手こずる事を考えれば一日以上は普通にかかるように出来ている。

 ただ、1度ボスモンスターを倒すと下の階層への転移魔法陣が開放されるので、ボスも一般モンスターも全部無視して下の階層への魔法陣を目指すRTAが行えるのだ。


 逆に言えば、それでも俺の移動速度で1時間かかるほどには、深淵の階層は広かったり複雑な構造をしたりしているということでもある。

 今の俺は飛ばせは3キロ一分とかで普通に走り抜けるからな。


「さて、じゃあここにキャンプを設置して、本体は置いておいて」


:出た、分身スキル

:持ってるけど普通に苦痛に耐えられるヌルが異常なだけ

:でも安全に調査と探索が出来るって良いよな

:いや普通そんな死んだら気が狂うわ

:ヌルの精神状態どうなってるんや


「特にどうもなってないから、元から狂ってたんだと自分では思ってる」


 普通に考えて、死ぬ際の激痛なんてトラウマものだ。

 いくら覚悟が決まっているとはいえそれに平気で何回も耐えている自分はおかしいのではないか、と思ったことは山ほどある。

 

 あるがしかし、果たしてこのダンジョン深淵を攻略するのに正気でいられるのか?

 という疑問が最近はある。

 むしろ正気でいるからこそ攻略が出来ない、どこか狂った奴だけが挑める世界。

 それがダンジョンの深淵なのだと思う。


 そもそもとして俺を除いた探索者も、命をかけることが出来るという意味では一般のサラリーマンや学生なんかと比べると遥かに頭おかしいし。


 キャンプに本体を置いた後は、分身に乗り移って更に下の階層へ。

 ここも基本的には踏破している場所なので、道中のモンスターはなるべく無視して、俺の速度に完全に追いついてくる厄介な奴等だけ剣で切り裂きつつ転移用の魔法陣に直行で向かう。


 そうやって移動して、ようやく到着したのがダンジョン深淵第17層【戦場跡地】。

 ここは、多少起伏が激しくなっていたり森があったりするものの、基本的には広い平原だと思ってくれて良い。

 

 この地形こそが、このダンジョンの探索において俺に牙を剥くのだ。


:結構見晴らし良さそう

:目の前の丘昇ったら先が見えるんかね

:後ろはどうなってるの?

:そういや、他の階層もだけどエリアの限界ってどうなってんの?


「エリアの端っこはこんな感じで透明な壁がある」


 視聴者の疑問に答えてやるために、今出てきたばかりの石造りの転移魔法陣を囲う部屋の側面に周り、その隣を突き進もうとしてみる。

 しかしいくらもいかないところで見えない壁のようなものに突き当たる。

 手を中ててみると、わずかだが触れた所が淡く輝いているのが見て取れる。


 視聴者の疑問に答えた後は、いよいよこの階層を根城とするモンスターとのお目見えだ。

 ゆっくりと転移魔法陣のすぐ目の前にある丘を昇っていき、その先に広がっているものを見る。


 見下ろす平原に数多の白。

 それは、完璧とは言わないまでも整った隊列。

 そこかしこに、数十、数百の単位のモンスターが集まり隊列をなす。


 それぞれが徘徊するように歩いていて、ときに合流し、ときに分裂しながらあてどもなく彷徨い続ける亡者の群れ。

 

:……うわあ

:ヌルが攻略できんって言った意味がわかったわ

:数多すぎるだろ

:これもはや軍隊規模じゃん

:これを相手するの? ソロで?


「ま、こういうわけで行き詰まっててな」


 深淵第17層に跋扈する魔物。

 それは隊列を為し、生前そうであったかのように軍を形成する大量のスケルトンだ。

 基本的には鎧を纏わない、剣か槍、そして盾剣を持ち兜をかぶったスケルトン・ソルジャーが主体だが、ところどころに鎧を纏ったスケルトン・ナイトや、これまた骨だけの馬らしきものにのったスケルトン・ライダーもいて隊を、軍を率いていたりする。


 そしてこの階層入口付近では見えないが、奥にはスケルトン・ジェネラルやコマンダー、アーチャー等数種類のスケルトンがそれぞれに隊を形成して待ち構えているのだ。


「とはいえ、久しぶりだからな。1回ぐらい挑んでみないと今の自分がどこにいるのかがわからなくなる」


 そう配信に述べて、俺は丘を下っていく。

 目標は丁度丘のすぐ下へと移動してくる五百体ぐらいのスケルトンの部隊だ。

 ちなみにこのエリアを徘徊するスケルトン集団は最小で10、最大規模に合流したりすると平気で万を越えてくる。


:は? おいおいおい死んだわあいつ

:ガチでこれに挑むつもりか?

:いや無理なのはわかったから無茶はせんで良い

マネージャー:お兄、無茶はしないで

高森レイラ:流石に無茶です、そんな数に挑むのは

:分身とは言えガチで自殺志願者かよ

四葉ミノリ:やめてください、お願いです


 視聴者の皆々は俺を止めようとしてくるが、俺はこういうのを踏み越えて今この場に立っているのだ。


 次第に丘を下る速度が増していき、速歩から駆け足に。

 そして丘を下り切る頃には全力疾走へと変わる。

 それとともに俺は自分の口角が次第に上がっていくのを自覚した。

 やはり、戦闘は心が踊る……!


「いざ参る……!」


 そのまま1人、スケルトンの500からなる集団へと、俺は突撃した。

 

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