第22話 強敵
一番最後にアンケートありますので回答お願いします。
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:実際2人は個人個人は深層相当はある
:深層探索者でもミノリ程の魔法を使える人は少ない
:弾幕の撃ち分けがエグいんじゃあ
:そしてそれに完璧に合わせれるレイラのえぐさよ
:連携の仕上がり方が半端じゃないよな
「コメントでこんな事言ってるけど、2人は深層には行かないのか?」
それはなんとなくかけた問いだった。
以前から鳴海に進められて配信者という道を歩み始めて。
その俺にとっての先達の中でも能力が高い2人。
それが下層を探索出来る彼女らだと聞いていたのだ。
だが、彼女らは本来は深層相当はあるという。
その理由が気になった。
「実は、その、メンバーがうまく集められなくて」
「……2人では、流石に厳しい」
:深層は少人数じゃ危ないからなあ
:モンスターの襲撃頻度とか乱入率が跳ね上がる
:せめてフルパ欲しい。望むならダブルパーティー欲しい
:2人にも、色々と理由があるんや……
なるほど、それは確かに俺も深層探索しているときに思った。
深層なんか、乱入率が高くないか、と。
それはつまり、モンスターと戦闘中に、徘徊していた他のモンスターが戦場に迷い込んでしまって敵が増える可能性が高いということだ。
深層はそういう点においても、下層までとはまた様相が異なってくるのである。
というかそもそも深層では、他の層にはない特徴としてモンスター同士が争っていることもある。
それぐらいに血の気の多いモンスターが揃っている魔境が、ダンジョンの深層というわけだ。
ちなみにこれは新宿ダンジョンに限らず、世界中のダンジョンで共通だ。
だからこそそれがチュートリアルに思えたりするわけだが、さておき。
それならば人を増やせば良いのではないか、とも一瞬思った。
例えば臨時パーティーを組んでも良いし、本格的に組む相手を探しても良い。
別に俺がソロで行き詰まってる階層を突破したいと拘っているように、2人が2人で探索するということに拘っているわけではないだろう。
だが、俺が想像出来る程度の事なら彼女たちも考えているはずだ。
そこで俺は、より深く踏み込んだ質問ではなく、浅く概要を尋ねるための質問をした。
「人増やしたりとかは、出来ない感じなのか?」
俺の言葉に、2人は表情を暗くしてしまった。
何かやらかしたか、と思ったがそんなことはなく、どうも2人にも色々と事情があるようだ。
その後に2人とコメント欄の視聴者からされた説明によれば、こういうことらしい。
まず、2人は探索者であると同時に配信者である。
故に、例えばメンバーを募集している4人組のところに行って、ダンジョンにおける戦闘単位であるフルパーティーを組む、というのは、配信を主としてする者としてはアウトらしい。
なぜなら、他所のフルパーティーに入るということは、すなわち本気で全精力をダンジョン攻略にあてることになるからだ。
配信者としては、配信をする余裕すら無いというのは駄目らしい。
少なくとも2人は、それぐらいの気概を持って配信者をやっているのだそうだ。
では次のアイデアとして2人にメンバーを加えよう、となるが、それもまた難しい。
理由はいくつもあるが、まず一つにここまでペアでやってきた『レイミノ』というグループが崩壊してしまうことが上げられる。
らしい。
つまり、2人の配信が2人の配信で完成しすぎているために、そこに異物を入れる事を望まない視聴者がいる、ということだ。
ただこれは全員ではなく、普通に2人を応援している大勢の者たちは別にそこまでペアというものに拘っていない。
これがアイドルの百合営業とかなら話は別だが、2人は探索者なのだ。
戦力の補充や他者との協力は探索者にとっては常に考えているべきことだ。
それが生存率にも攻略力にも繋がる。
ここで2つ目の理由が邪魔をする。
先ほども見た通り、2人の連携の精度は凄まじい。
それはもう、俺でも即興でついていくのがきついほどには。
おそらく指示すらなく、『ミノリ』『レイラ』と互いに名前を呼ぶだけで、互いの思いが伝わる程度には2人の連携は出来上がっている。
故に、人を増やそうにもそこについていける人材がいないのだ。
そもそもダンジョン探索は儲かる。
わざわざ配信なんてしなくても、普通に探索で食っていける者というのは多い。
故に特に下層、深層に潜れるような人材はそうそう簡単には見つからず。
見つかったとしても女性のグループとして売っている2人である以上、コラボならともかく常習的に男性を混ぜることは出来ない。
というかそもそも下層、深層で探索できる人ならわざわざ配信するよりも本気のパーティーで狩りに専念した方が稼げたりもするので、この枠に入る人材は本当にいない。
そしてそうなると2人よりも実力の劣る者から選ぶしかなくなってくるが、それでは今度はその実力の程が不安になってしまう。
2人の連携についてこれない、というのは、この2人といっしょにパーティーを組む意思はあるものの、実力不足と2人との理解度の差でついていけない者たちを指してのことだ。
そんな信頼の置けない、そして力が足りない者を、命の危険が圧倒的に高い深層探索につれていくことは出来ない。
それは双方にとって良い結果を生まない。
更には、2人の実情を知ってつけこもうという事務所もあるらしい。
2人はそれなりの大きさの事務所に所属しているのだが、より大手の事務所には、自分たちのところに所属すればもっとサポート出来る、なんて言いつつ、2人を利用する気満々な奴等もいるそうだ。
そういう輩を弾く意味でも、下手に人を増やせないというのが二人の実情だった。
結果、2人は今も下層で2人、自分たちを磨き続けている、ということらしい。
なんというか、『不運だなあ』とか、『2人も大変なんだなあ』とか、そういう事を思った方が良いのかもしれない。
だが俺は逆境に立ち向かう2人から熱い何かを感じた。
2人は現段階の深層探索が困難だからといって、諦めるようなつもりは毛頭無いのだ。
今もなお、自分たちを磨き上げて深層に挑めるようになる日を夢見ている。
その証拠に、魔法を操るミノリが持っているのは魔法の杖ではなくレイピア、れっきとした近接戦用の武器である。
2人で、2人しかいないからこそ、互いが対応出来る範囲をできる限りに広げていく。
2人はそう考えているのだ。
「それは、なんというか……挑み甲斐のある難題だな」
彼女らの説明を聞いての俺の言葉に、2人は一瞬キョトンとする。
そして次の瞬間におかしそうに笑い始めた。
「フフッ、れ、レイラ、笑ったら失礼、だよ? フフッ」
「ミノリだって、笑ってる。フフフッ」
そんなに笑われるような事を言っただろうか。
そう思うが、コメント欄でも視聴者達の笑ったという感想が絶えない。
:2人の現状見てそう言えるのはもう強いんよ
:流石死にゲー式攻略で誰よりも先に進んでるだけある
:強者の台詞過ぎて笑った
:多分普段からこういうのをずっとこう思ってるんだろうな
:人の逆境にそれを言えるお前はもう天才だよ
「ごめんなさい、そんな風に言われるのが初めてだったので、思わずおかしくなって笑ってしまいました」
「うん。でも、確かにヌルの言う通り。これは本当に、やりがいのある難題」
どうやら俺の一言で、2人の中でも吹っ切れたものがあるらしい。
深刻そうに話していたさっきまでとは打って変わって、開放されたように明るい笑顔をしている。
レイラはちょっと無表情系の子なのか、ミノリほど笑顔とはわからないのだが。
口角がちょっと上がっているのは、きっと笑顔なのだろう。
そんな2人に俺が言う言葉は、この場では決まっていた。
「まあ、今日はとりあえず俺が探索にお付き合いするよ」
「うん、よろしく」
「よろしくお願いします」
******
結局その後、二人とは数戦ともに戦い、最後には第五地区のボスモンスターである【パペット・マスター】と戦うことになった。
パペット・マスターは大量のパペット系のモンスターを呼び出しては探索者にぶつけ、その間に本体は逃げ回るといういささか厄介なモンスターだ。
だが、3人に増えたことで手数が1.5倍に増えた俺達の実力もまた、下層第5地区程度のものではなかった。
俺がミノリの護衛も含めて多くのパペットを受け持ち、一番機動力がある短剣二刀流のレイラが本体を追いかける。
そしてミノリが魔法の弾幕で俺の後方から2人を援護する。
その戦い方で、本来は下層相当のフルパーティーでも足りずダブル(ダブルパーティー)を必要とするボスながら、3人でボスを討伐することが無事に出来た。
これは結構凄いことらしく、視聴者たちが大きく盛り上がっていた。
そこで今回のコラボ配信は終わり、互いの健闘を称え合って、次のコラボについてはSNSで連絡し合う事を約束して俺と彼女らは別れた。
そして今、俺はパペット・マスターよりも強力な敵を相手にしている。
「鳴海、まだ機嫌は治らないか?」
それは、俺の目の前のソファーで、膝を抱えて拗ねている妹という、鬼も裸足で逃げ出す強敵だった。
もちろん鳴海が怖いとかじゃなく、程度的な意味で。
「だって……。折角お兄に配信勧めたのに、コラボを自分のところで配信しないとか平気でしちゃうし」
「悪かった。その点については、ドローンを持ち歩いていなかった俺が悪かった」
彼女は、俺が折角のコラボを自分のチャンネルで配信しなかったことに怒っているのである。
俺のチャンネルを俺よりも真剣に考え伸ばそうとしてくれている彼女だからこそ、俺がその機会を逃したのがやるせないのだろう。
後は俺の思い上がりでなければ、俺がより世間に知られる機会をのがした、ということも嫌なのかもしれない。
実を言えば、途中でレイラ達からも言われたのだ。
『そっちも今から配信をしたら?』と。
だが丁度家での配信を考えていた俺は、ドローンを出したままにしてしまっていた。
そのため配信を始めることが出来ず、2人の配信に映り込む形になったのだ。
結果、目の前の拗ねる鳴海が生まれてしまった。
「……次から絶対に持ち歩いてよね」
「わかった。気をつける」
鳴海の言葉に俺は強く頷く。
鳴海がこれほどまでに俺のチャンネルのことなど気にかけてくれているのだ。
生半可な事はできない。
「それと!」
と、そこで鳴海が更に追撃してくる。
「お兄は、私のお兄だからね」
「うん? それはそうだけど……」
彼女の言っている意味がわからず、疑問の声を上げてしまう。
そんな俺を睨みながら、鳴海は言葉を続けた。
「ちゃんと構ってくれないと拗ねるからね」
そこでようやく気づく。
俺は今日の配信で、レイラとミノリとかなり仲の良い所、とまでは言わないが、笑顔のある会話ややり取りを見せていた。
加えて彼女らを名前呼びまでしている。
俺を慕ってくれている鳴海にとっては、それは少し寂しいことだったのだろう。
「うん、気をつける」
「……ありがと。コラボ配信はすごく面白かったよ」
ようやく拗ねモードを解除した鳴海は、素直に今日の配信を褒めてくれた。
といっても俺のチャンネルではなく2人のチャンネルの配信を見てのことだろうけど。
「そりゃ、良かった。あの人達急にゲリラ配信始めるからびっくりしたわ」
「お兄はたまにうだうだ考えて余計な方向に思考がいっちゃうからね。2人が無理やり配信始めてくれて良かったんじゃない?」
「まあ、否定は出来ん」
実際そうなので。
俺がうだうだ考えそうになっているところに、彼女たちが巻き込んでくれたおかげでコラボ配信というのを経験することは出来た。
と言っても俺は基本自然体で、彼女らが話を回してくれた感じだったが。
それでも、コラボ配信というのを経験できて良かった。
「じゃあ次、レイラちゃんとミノリちゃんとコラボする?」
だが、その鳴海の言葉には首を横に振る。
俺のしなびていた心に、またゴウゴウと燃え盛る灼熱の炎がついた。
「今日ので一気にやる気出た。明日からちょっと深淵籠もってくる」
「ん、そっか。了解」
「止めないのか?」
意外や意外、いつもは寂しそうな様子を見せる鳴海が今日は素直に俺を見送ってくれるらしい。
思わず尋ねると、笑いながら答えてくれた。
「今はお兄の配信もあるし、それに、お兄昨日より全然いい顔してるから。いつものかっこいいお兄が戻ってきた、って感じ」
思わず自分の顔を自分で触ってみるが、流石に昨日との違いはわからない。
わからないが、鳴海が言うならそうなんだろう。
確かに今俺は、2人で深層に挑めないかと模索し挑み続ける2人の姿を見て、心が大火の如く燃え盛っているのだ。
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感想で、例えば「レベルは190だ」「レベルは一九〇」だ、と書いたときに、漢数字が非常に読みにくい、という意見を頂きました。
一応本作は、数字は全て漢字にしているのが現状です。
これについて、本当になんでも良いので、「普通に読める」「ちょっと引っかかる」「わざわざ読み直す程度には邪魔」「大きい数値だけ普通の数字使ったら?」等感想で教えてください。
それによって、今後そういう場面で漢数字を使うかどうか決めます。
一応人数とかは「1人」じゃなくて「一人」で十分読めると思うのですが、確かに大きな数字を漢数字で「百九十」じゃなくて「一九〇」だと読みにくいなと自分でも思いました。
なので今回は、レベルや身長などについてだけの意見募集です。
読者の皆様の意見がいただきたいです。
【追記】
一旦今日中に大幅に修正して、漢字で1語になってる場所以外は通常の数字に変更しようと思います。
(1人、2人、だけど、一部、一旦、一撃、二人三脚、一言などはそのまま、2手に分かれるけど二手先を読む)
あえて漢数字を使っていたのは、その方が書籍化しやすいかなというつもりでしたが、読者の皆様が読みにくいならば拘る必要は無いと考えます。
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