第21話 コラボ戦闘‐2
今回接敵した敵パーティーは、このエリアのモンスターとしては少しばかり多めの9体構成となっている。
5体で1組のキラー・パペットが1組とウッド・パペットが3体、それにメタル・パペットと呼ばれるウッド・パペットの体表から鉱石が飛び出したモンスターが1体。
このうちウッド・パペット3体、そしておそらくはメタル・パペットを俺が一時的に抑え込み、その間に2人がキラー・パペットを殲滅してから合流する。
それが作戦だ。
とはいえ。
倒してしまっても構わんのだろう?
「前に出る」
一言2人に告げて、俺は自ら最前列に立ってパペットの群れへと突っ込む。
そんな俺を見てキラー・パペットどもがいそいそと魔法陣の展開を始めるが、そのうちの1体に俺の後方から飛来した火炎魔法が突き刺さる。
それも1体だけで終わりではなく、連続して更に2体程にも。
その一撃で宝石が砕けることはないが、罅は入っただろう。
「そう簡単に詠唱させるわけないでしょ?」
:やっぱミノリンの多重展開えぐいな
:この技術は深層レベル
:流石
:1発1発はそうでもないけど、まじで弾幕途切れんからな
奴等の魔法程度なら躱すか切断ぐらいしてやるつもりだったが、それを先に止めてくれるというのならばありがたい。
俺はキラー・パペットの攻撃を無視して、ウッドパペットの群れへと接近する。
しかし。
俺の一撃は、いつもより動きがいいウッド・パペットによって受け止められてしまう。
更に他のウッド・パペットが、俺が狙った個体をカバーするように動く。
こいつらの探索者を苦しめる特性は、数が増えると動きが良くなって連携を取り始めるところだ。
ぶっちゃけ以前イレギュラーモンスターに混ざっていたときより、下層の他の地区で他のモンスターと群れで出てくるときより、こいつらはパペット系だけで組んだ時の方が脅威になる。
「フンッ!」
とはいえこっちも前回とは違って中層探索者ボディ。
完璧に剣を受け止められるわけではないが、そらしたり弾いたりすれば余裕で3体相手でも保たせることが出来る。
そしてその後方から迫りつつあったメタル・パペットには、後方から時折魔法が飛来しては直撃し、動きを阻害していく。
キラー・パペットの相手をしながらも、ミノリはこっちまで面倒を見てくれるらしい。
下層相当というが、本当にそうかと疑う程度には能力が高い。
『グガガッ』
そしてもう1人、レイラの方も。
相手が魔法職とは言え、的確な動きで接近して片手剣を振るい、キラー・パペットを無効化していく。
俺も負けてられんな。
「セイッ!」
3体のうち1体の攻撃を、あえて弾くのではなく、他の2体の邪魔になるようにこちら側へと引き込むように崩しつつ、俺は1歩下がって3対1から一瞬1対1の状況を作り出す。
そして体勢が崩れたウッドパペットの頭部を、その防御する剣を交わしてわずかにずらし、つらぬいた。
一瞬の痙攣とともに力尽きたように項垂れるウッドパペットを前蹴りで蹴飛ばして剣を引き抜く。
ちなみに全身木人形のウッド・パペットは、胴体を貫いたり腕を斬ったりしても平気で再び向かってくるが、どうも頭の中に重要な器官でも入っているのか頭部を貫けば無力化が出来る。
そして残るは1対2と、ミノリが押し留めていてくれたメタル・パペット。
だが。
こっちに向かって大剣を振り上げるメタル・パペットの顔面がある位置に、飛び蹴りが突き刺さる。
「……あなたの相手は、私だよ」
:はえー! もうキラー・パペット殲滅しとる!
:あれくっそ厄介じゃなかったっけ?
:集中できれば雑魚いけど、他と一緒だとだるいからなあ。
:これはずっと前線支えたヌルの活躍でかいわ
レイラがキラー・パペットを仕留めてメタル・パペットを抑えに来てくれたらしい。
そしてキラー・パペットにも注がれていたミノリの魔法が、全てメタル・パペットに着弾し多重攻撃となってその身を揺らす。
「ミノリ!」
「うん!」
弾幕の音に負けないように2人が少し声を張って言葉を交わす。
その瞬間に弾幕が止み、代わりにそのままレイラがメタル・パペットを抑えに入る。
「ヌルさんはそのまま2体とも抑えてください!」
「わかった! 仕留めても良いんだろ!」
「もちろんです!」
俺も司令塔の位置に立つミノリと言葉を交わして自分の役目に従事する。
最初はレイラが指揮官役かと思ったが、あれはあくまで2人の打ち合わせの流れで、普段は後方から魔法を放つことに専念しているミノリがレイラに指示を出して、レイラがそれを遂行するように動くのが二人の戦闘らしい。
そして今回はそこに急遽混ざることになっている俺も、ミノリの指示を受ける指揮下にある。
故に俺の役目は2体の足止め、ないしは殲滅。
まあ2体ぐらいなら殲滅一択だ。
一方のウッド・パペットの攻撃を後方へといなすことで俺めがけて体勢を崩させ、その頭部に腰から引き抜いた予備のナイフを左手で突き立てる。
そしてその個体は頭部を穿ったことで討伐確認とし、残り1体も相手の突きとすれ違うように剣を突き出し、その頭部を貫く。
そして俺がそんな事をしていると同時に、後方で魔力を溜めていたミノリの魔法が完成する。
「それは敵穿つ槍にして竜の一撃となる──
おそらくは魔法触媒を仕込んだレイピアを掲げたミノリの眼前に構築された炎の槍が、勢いよくレイラに足止めを受けているメタル・パペットに向かって飛翔する。
そしてその飛翔している最中に、槍を構成する火から、槍の柄に巻き付くような竜が姿を現し、メタルパペットに向かって槍の先端部分で大きく顎を開いて。
レイラが離脱した直後に、動き始めようとしたメタル・パペットに命中し、爆炎を巻き上げた。
そしてその爆炎が途切れる瞬間を待っていたように、一時離れていたレイラが飛び込み、体表の鉱石が一掃されたメタル・パペット、もはやウッド・パペットのようなそれの頭部を的確に切り捨て、戦闘を終了させた。
戦闘後には、メタルパペットの近くに立つ俺とレイラの元に、後方にいたミノリが駆け寄ってくる。
「ヌルさん、お疲れ様です!」
「お疲れ様」
「2人もお疲れ様。連携の息の合い方凄かったな。レイラにはミノリの魔法がわかってたのか?」
それはミノリの魔法が直撃する直前。
本当に1秒も無い、魔法が直撃するコンマ数秒前にレイラはミノリの魔法に巻き込まれないように退避した。
あの瞬間、例えばレイラの離脱が早ければメタル・パペットに行動を起こす隙を与えて、討伐にはもう一手間かかっていただろうし、遅れれば魔法がレイラを巻き込んでいた。
それをこの2人は、息を合わせるような言葉もなくなんなくやってのけた
その連携の精度には凄まじいものがあると思う。
「ん、いつも一緒に戦ってるから」
「いつもレイラが前線を抑えてくれるから、私が魔法を使えるんです。だからそのパターンは、たくさんやってきて身についてます」
若干言葉足らずなレイラの言葉をミノリが補足してくれる。
いや、それにしても素晴らしい連携だった。
1人強くなろうともがいている俺だが、その連携の美しさと洗練のされ方にゾクリと震えが走るのを感じた。
あるいは、俺もああなれたなら、と。
そういう武者震いかもしれない。
と、俺がそんな事を考えていると、視界の端のコメント欄が目に入る。
:実際2人は個人個人は深層相当はある
:深層探索者でもミノリ程の魔法を使える人は少ない
:弾幕の撃ち分けがエグいんじゃあ
:そしてそれに完璧に合わせれるレイラのえぐさよ
:連携の仕上がり方が半端じゃないよな
2人が深層でも戦える、という内容に違和感を覚えた俺は、せっかくのコラボなので俺ばかり答えるのではなく、彼女らにも聞いてみようと質問を投げてみることにした。
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