第20話 コラボ戦闘‐1

 コラボコラボ、と簡単に言うが、鳴海曰く、配信者にとってコラボというのはかなり大きなものらしい。

 お互いに抱えている視聴者を配信者同士で共有し合うために、視聴者の気を引けるような配信を行うのがコラボ配信だからだ。

 それはつまり、配信者が最も必要とする視聴者の増加に繋がる。


 配信で飯を食っている人達にとってはまさしく死活問題なのである。

 

 とはいえ。

 実を言えば探索者の配信においてはそうでも無いというのが実情だそうだ。


 まずダンジョン配信者、いわゆるダンチューバーは、他の一般的な配信者と違って、配信の広告収入などで動画配信サイトから貰うお金とは別に、自分で狩ったモンスターがドロップする魔石をはじめとしたアイテムを売却することで稼いでもいる。


 そして探索者というのは、流石に上層第1地区ほどでは飯を食べていくのは難しいが、上層でも第5地区以降となればそれだけで生活していけるし、中層に潜れれば同年代のサラリーマン並かそれ以上に稼げる。

 下層や深層になんて潜れば、もはやある種の成功者のようなもので、好きなときに働いて年収1千万、なんてことも簡単に出来てしまう。


 まあそれが多くの人にとっては簡単では無いから中層でもソロでいける時点で素晴らしい、なんて言われる現状があるわけだが。


 そんな中での、突然のゲリラコラボ配信。

 俺はもう色々と面倒くさい事を考えるのをやめた。


 そうだ、自分の思ったとおりにやろう、と。

 


 高森さんについて歩き初めてすぐに、四葉さんが俺に声をかけてくる。


「あの、この前は引き止めてすいませんでした」

「……俺がイレギュラーモンスターに突っ込んだ時の話、かな?」

「あ、そうですそうです」


 本当にすいませんでした、と顔に書いているような表情をする四葉さんは、おそらく感情表現が豊かな人なのだろう。

 加えて俺が既に忘れていた事を謝ってくれる辺り、普通に善人というか良い人だ。


「や、まあ俺も分身だって言えばわかりやすかったんで。モンスター前にすると、こう、血が騒いじゃって何も見えなくなるというか」

「配信見てたら、なんとなくそうだったんだろうなって思いました。あのコボルトキングの討伐、すごかったです」

「あれは自分でも頑張ったと思う」

「深淵の第2層かな。ゴブリンのパーティーを倒してるのも凄かった」

「あいつらはなー基礎能力で大分俺が勝ってるから、数の暴力が暴力にならないんだよな。だから蹂躙出来る」


:普通に話せとるやん

:ミノリちゃんとレイラちゃんと話すなんて……うらやまけしからん!

:じゃあ下層に潜れるようになってどうぞ

:普通に自殺行為なんだが


 話してみれば、四葉さんも高森さんもそんな話しづらい類の人では無かった。

 いやまあ俺の人と話しづらくなる原因って大概自分の心の持ちようなので、それさえ何らかの形で吹っ切ってしまえば後は楽なのだが。


 あ、ちなみに2人と話しているうちに名字ではなく名前で呼ぶのが、配信中の彼女たちには相応しいとのことだったので、それぞれミノリとレイラと呼ばせてもらうことにした。


「せっかくだし、ヌルの質問コーナー、する?」


 そんな中で、レイラが言い出した質問コーナー。


:あ、確かに

:ヌルのチャンネルでこれが配信されてないの草

:良いぞもっとやれ(ヌルのチャンネルでするべきでは?)

:普通に聞きたいこといっぱいある

:前回の配信が衝撃的だったからなあ


「とりあえず、ヌルに関する事だけってことで、良い?」


 そう問いかけられるので、まあそれぐらいなら、と俺も頷く。

 コラボ配信をしているとはいえ、衝撃情報はある種俺のチャンネルの目玉みたいなところがある。

 そこを俺のチャンネルで配信していない今はやらない方が良いだろう。


:今は着てないけど、ガチのときに来てる装備は何?

:戦い方。剣士だけど、それだけじゃ深層ソロきついだろ?

:彼女さんはいますか!

:なんでそこまで本気でダンジョンに挑めるの?

:ぶっちゃけ2人についてどう思う?


「多い多い」


 俺が頷いた途端にブワーっと配信のコメント欄が流れる。

 そして先程まではゲリラ配信だったのであまり人が来ていなかったが、流石の2人の知名度があってか、あるいは俺自身の注目度があってか、人が大勢集まってきているようだ。


「じゃあ、私が選んで聞く。まずは、普段の武器はどこで手に入れたもの? それと、戦い方はどんなの?」


 レイラが質問を選んでくれたので、俺はコメント欄を追うことからそれに答えることに集中する。


 尚、話しながらも索敵は欠かしていない。

 まあ下層のこのエリア周辺、要するにパペット系の根城になっているこの辺りでは、よほどのことがないと奇襲を受けたりすることはないが。

 他のエリアだとパペット以外も出るのだが、ここは本当にパペットしか出ない。

 やつらよくも悪くもカタカタと音が目立つので、特に警戒しなくても気づくことが出来るのである。


「武器は、俺の配信見てたらわかると思うけど、深層より深い所に騎士のモンスターばっかりいるエリアがあってそこで宝箱から手に入れた奴」


 今まで出会った中で一番の名剣はこいつである。

 曲がらず折れず、必ず貫き敵を切り裂く。

 片手で扱えるよう両手剣よりも若干小型化したタイプの剣であるバスタードソードであることも相まって、非常に使いやすいのだ。


 ちなみに、『身体能力上がってるなら剣の重さとか関係ないのでは?』なんて思うかもしれないが、基本的に剣にも肉体にも物理法則が働くので、あまりに武器がでかくて重たいと振り回されたりすることは全然ある。


 今のところ亡霊騎士の持つ剣も幾度かドロップさせてはいるが、しかしこれに並ぶ名剣に出会ったことはない。

 

「戦い方は基本剣士だけど、魔法陣魔法の展開速度がかなり上がってきたから今はそれも使ってる」


 探索者なりたての頃なんて、1つの魔法陣を想像し地面なり空中なりに描くのに数分はかかっていたのに、今や手元に魔法陣を描くのは数秒で出来ることになった。


「戦法としては相手次第だけど基本待ち。自分からガツガツ行くよりは相手が攻撃で隙を晒したときに仕留めるのが得意。というかそれしか出来ん」


 これはちょっと自分でもどうにかしないといけない、と今真剣に悩んでいる弱点だ。

 でないとダンジョンの次の階層がいつまで経っても突破できない。


「なるほど……。それじゃあ次は──」


 レイラが次の質問を選ぼうとしたところで、俺達の耳に『カタカタカタ』と特徴的な音が響く。

 

「来ましたね」

「うん」

「おう」


 俺達がそれぞれに武器を用意しながら待っていると、やがて通路の奥からモンスターが姿を現した。

 カタカタという耳に残る音とともに、数多の木人形が姿を現す。

 パペット軍団の襲来だ。


:お、パーティーでの初戦闘か!

:ヌルがどれぐらい噛み合うか見もの

:この人レイミノの戦いについていけるの?

:みんながんばえー!

:数多い、多くない?


「……メタル・パペットが混ざってる、ミノリ」

「うん。私がメタル・パペットと、離れたキラー・パペットを仕留めるよ」

「ヌルは……」


 2人の間でサクサクっと打ち合わせが終わったようで、レイラがこちらを見てくる。

 この2人の指示役はどちらかというとレイラだろうか。


「何でもいいぞ」

「……じゃあウッド・パペットを引き付けて。先にキラーから潰す」

「了解」


 確かに、この敵の編成ならばそれが一番良い。

 キラー・パペットは特に他のモンスターと群れているときが特に厄介で、前衛をする他のモンスターと後衛をするキラー・パペットのように、役割を分担して戦いやがるのだ。


 そのせいで敵前衛が抜けない間、キラー・パペットは魔法を撃ち放題という状況に陥ることはそう珍しくない。

 更に距離を詰めれば詰めた分だけ距離を空けながら魔法を撃ち続けてくる上に五体とも宝石を破壊しないと倒れないため、他のモンスターと戦闘しながら相手をするのは非常に難しい。

 そんなキラー・パペットを、敵が1つに集まっている初期のうちに殲滅できれば相当楽なのだ。



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ご存知の方ばかりかもしれませんが、一応宣伝を。



ダンジョン配信

 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン籠もり10年目にしてダンジョン配信者になることになった男の話

https://kakuyomu.jp/works/16817330663656152905



本作の主人公に妹がおらず世間を切り捨ててダンジョンだけに走ったらこうなる、という感じの小説です。

こっちは他者との関わりではなくダンジョン探索に振り切ってしまっている感じです。


一応世界観設定(いつか出てくる裏設定、ダンジョンの正体等)は全く別ですが、描写として「地上にダンジョンが出来てー、深層には先があってー」という部分は一緒です。


こちらも面白いと思うので是非お願いします。

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