第19話 初めまして、お久しぶりです
鳴海に魔法具を渡した翌日。
ダンジョンの下層で適度にモンスターと戦いつつ、他の配信者とコラボすることについて考えてみる。
ちなみに今日はその様子は配信していない。
俺の場合は、鳴海がいる場合ならばともかく、下手に家で1人で考えるよりはモンスターを斬っていた方が幾分か思考も回る。
気がする。
深淵攻略へ向けてのレベリングと特訓についても昨日よりはやる気が出てきてる感じはするし、数日もすればまた本調子に戻るだろう。
「フンッ」
下層の中でも奥の方で出てくるモンスター、キラー・パペットの核となる胸元の宝石を貫く。
が、その一撃でキラー・パペットが倒れることはない。
このモンスターは、道化師のような服に白と黒のフェイスペイントをしているウッド・パペットなのだが、その戦闘方法と特徴的な性質がちょっとやっかいなモンスターだ。
今回は流石に下層なので、中層相当のボディを持ってきているが、それでもただの剣士として1人で戦ってみるとやはり面倒くさい。
この第5地区では基本的にウッド・パペットを何かしらカスタマイズしたモンスターが出てくるのだが、その中でも一番質が悪いのがこのキラー・パペットだ。
まずその攻撃は、遠距離からの魔法攻撃一辺倒。
カタカタカタと、あるいはケタケタと笑い声にも聞こえるように体を鳴らしながら魔法を遠距離からぶっ放してくる。
ちなみにモンスターは魔法を詠唱出来ないので、ほとんどの場合魔法陣を構築することによって魔法を放ってくる。
たまにワイバーンの火球のように、能力として単一の魔法、遠距離攻撃を操るモンスターもいたりするが。
さておき、キラー・パペットの厄介さ。
それは5体で1体のモンスターというその構成にある。
つまりこいつらは、全個体の宝石を砕かない限り他のキラー・パペットから魔力の支援を受けて復帰してしまうのである。
流石に宝石は復活はしないが、最後の一体の宝石を砕ききるまでは絶対に仕留めることが出来ないその厄介さは、ソロの剣士なればこそよくわかるものだ。
なにせ奴等は距離を取る。
魔法を撃つための動きだろうが、全滅させないと数が減らない癖して距離取ってんじゃねえぞという怒りの言葉を吐く探索者も多いだろう。
地球防○軍の引き撃ちかと突っ込みたくなる。
なおこの下層第5地区のボスモンスターは、それよりなおたちが悪く、全てのパペット系モンスターが同様の宝石を身に着けた上で、ボス格の大型のウッドパペットが存在している。
普通に考えて悪夢だろ。
俺も正直言って、今行き詰っている深淵の階層の次に手こずった場所だと思う。
シンプルな数の暴力というのはそれほどまでに強いのだ。
「シャッ!」
とはいえ、下層程度の魔法特化なキラー・パペットをそういつまでも逃がすほどに足は遅くない。
最後の1体の宝石を砕いた瞬間、キラー・パペットがまとめて崩れ落ち、それぞれドロップアイテムだけを残して消えた。
それを見送った俺は、ドロップアイテムを回収して息を吐く。
「ふぅ」
さて、戦闘にかまけてたけど、コラボどうしよう。
どんな人とどんな形でコラボするのが良いのか、そもそもコラボで何をするべきか。
思考がちょっとそんな深みに陥りそうになっていたとき。
ザッ、とこころなしか普通より大きく人の足音が響いた気がしてそちらに視線を向けると。
俺が戦っている広間の入口に、2人組の少女がそこに立っていた。
わずかな間、俺と彼女らの視線が交錯する
「こ、こんにちは」
最初に口を開いたのは、どこかホヤホヤっとした温かな空気をしている少女だった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
互いに挨拶をするものの、その言葉はぎこちない。
俺も流石にぎこちない。
それは、まあ。
あんな初対面をしておいて、こんな再会をすれば多少はぎこちなくもなろう。
ちなみにダンジョン内での探索者同士の声の掛け合いというのは、実を言えば田舎の道へ行く人への挨拶ばりによく行われている。
その理由も単純で、周囲の状況を把握し、少しでもダンジョンで命を落とす人を減らすためだ。
例えば、これから探索に行く探索者と、探索から帰る探索者がすれ違った時。
『こんちはー、奥の様子今日はどんな感じっすかね?』
『こんにちは。第4地区と第3地区の間辺りがちょっと荒れてますね。シビレクラゲが大量発生してるみたいなので、相性悪いなら避けた方が良いですよ』
『おっ、まじかあ。ありがとうございます。うち近接主体なのであいつ苦手なんですよね。今日は浅い所で狩ることにします』
こんな会話があるだけで、1つのパーティーが助かるかどうかが決まってきたりする。
それぐらいダンジョン内での情報共有、声掛けは大事なのだ。
まあそれも最前線だったり特定の狩り場を秘匿している者もいるので絶対とは言えないが。
なんて現実逃避はいい加減にやめにして。
「初めましてというか、お久しぶりですというか。ヌルという名前で配信をしてます。どうぞ、よろしくお願いします」
おそらくというまでもなく3人の中で一番年上の俺が、率先して2人組に声をかける。
「あ、私は四葉ミノリって名前で配信をしてます。よろしくお願いします」
「高森レイラです。同じく配信者です。よろしくお願いします」
互いにペコリと挨拶をして、余計に変な空気が流れる。
そう、俺が出会ったのは、以前俺が晒される原因となったイレギュラーモンスターへの特攻の際にそれをカメラに収めていた2人の少女だ。
歳の頃は知らないが、多分まだ成人していないぐらいなんじゃないだろうか。
「それじゃあ、俺はこれ──」
『これで失礼します』。
そう言って出口に向かおうとした瞬間に天啓が走る。
そうだ、今悩んでいる事を、彼女たちに言ってしまおう、と。
「あの、2人がもし良ければなんですが」
俺のその切り出し方に、2人は怪訝な表情をしながらも、こちらに興味を示す。
「俺とコラボしませんか?」
突然の俺の言葉に、2人が一瞬ぽかんとし。
再起動したのは数秒後だった。
「あ、あの、是非お願いしたいです!」
「……こちらからお願いしたいほどですけど、なぜ急に?」
確かに急も急である。
『良いこと思いついた!』と思わず口にしてしまったが、確かに本来ならSNSとかでやり取りをしてから会ったほうが良かったかもしれない。
ただ、今ぱっと言ったのは完全にこの場の思いつきだが、彼女たちとコラボをしてみたいというのには理由がある。
「いや、すいません、コラボ配信をどうしようかと考えているところに偶然会ってしまったもので、思わず口から出てしまいました」
とは言え、まずは俺の方も思わず言ってしまったことだ、と暴露をすることで、相手のこの会話に対する警戒、緊張を解くことにする。
いきなりコラボとか言われても不審に思ってしまう可能性は高い。
そう思って暴露をした俺だが、2人の戸惑った表情は変わらない。
「あの、どうしました?」
そう問いかけると、2人のうち口数が多そうな四葉さんが答えてくれる。
「いやー、なんかその、敬語が丁寧過ぎて慣れないというか」
「ん、別に探索者に上下はないから、タメ口でも良い。私達もそっちの方が楽」
続けて高森さんが、無理に敬語で話す必要はない、と告げてくる。
まあ、確かに俺自身も出来るには出来るがキャラではないな、と思っていることなので、相手がいらないと言ってくれるならありがたい。
「そういうことなら、いつも通りにいかせて貰うけど」
「そっちの方がヌルさんぽいです。あ、私のこれは誰にでも出ちゃうので……」
「それで、コラボ配信をしたいっていうのはわかったけど、なんで急に?」
そう尋ねる高森さんに、俺はここまでの経緯を雑にだが説明した。
深淵に潜っていたがちょっと用があって地上に戻ってきた事。
そこで気疲れしたので数日は深淵での鍛錬はせずのんびりすると決めたこと。
そこでせっかくだから、この際にでも配信を真面目にやってみようかな、と考えていて、その中でコラボを出来ないかな、と思っていること。
でもどうするのが良いかわからず悩んだ結果、ここでこうやってモンスターと戦っていたこと。
「なるほど、そういうことだったんですね」
「……難しく考えすぎ、じゃない?」
「元々フランクなコミュニケーションがそこまで得意な質じゃないんだよな、俺は。それに考え込んじゃうタイプだから、色々と頭をよぎってサクッと決められなくてな」
初対面とか、初配信のスタートとか。
敬語が出たのは、未知の相手とのコミュニケーションにおいて、適切な程度の言葉をつかえる自信が俺にはないからだ。
そしてそれが相手の気を悪くしないかと気にしてしまう程度には俺が心配性な一面があるからだ。
後は相手との適切な距離感のはかり方とかも得意ではない。
だから全般的に認められるであろう敬語を使うし、時々ポロッと出る。
それでも配信の方は割と雑で良さそうだったから敬語はもう放棄してるし、今2人を相手には許可を貰ったので敬語を投げ捨てている。
それでも、人といちいち関わることに臆病になってしまっている俺は、新しく知り合う人と会話するたびにこんな考えをずっと頭の中ですることになる。
それぐらい、俺にとって人付き合いというのはエネルギーを使うことなのだ。
そんな自己分析をポツポツと語ってみれば、『ハァー』とため息をついた高森さんが
ポーチからなにかを取り出す。
それは小さな黒い装置……俺の記憶が正しければ、配信用のドローンだ。
「ダンジョンを行っているヌルさんは、そんな事考えないで突っ走ってると思うけど」
まあ、それはそうなんだが。
「ダンジョンはやることがわかりやすくて良いしな。人間関係は俺には荷が重てえよ」
俺がそんな事をぼやいている間に、高森さんはドローンを展開して浮遊させ、同時に何かスマホを操作していた。
そしてしばらくすると、ドローンに向けてピースをし始める。
それを見て察したのか、四葉さんがその隣へと入り、同じくピースをした。
「……うん、出来た。ミノリ」
「うん」
俺が何をやっているのかと二人の間で何事か交わすと、2人はドローンに向かって話し始める。
「皆さんこんにちは! 今日もダンジョン下層からお届けしてます、四葉ミノリと!」
「高森レイラだよ。今日はちょっと、ゲリラ配信やっていくよ」
ちょっと待て。
「今日はゲストとして、あの人が来てるよ」
「今一番注目されている探索者言っても全然過言じゃないあの人ですよ!」
2人がそこまで言ったところで、ドローンのカメラがこっちに向く。
まじで言ってんのか。
なんかはよ話せという高森さんのジェスチャーと、四葉さんの期待するような眼差しを受けて、俺も配信者としてここで逃げたら駄目だと自分に言い聞かせて口を開く。
「えー、偶然会った2人にコラボについて相談した所、ゲリラ配信が始まってびっくりしてるヌルです。どうも」
:草
:草
:草
:いつもの勢いがないなあヌル!
:ヌルが逆にびっくりさせられてるの、なんかスカッとするな
:いつも俺達を驚かせてる報いを受けろ!
:誰やこいつと思ったらこの前特攻した奴か
挨拶をすると同時に、いつも配信をするときには視界の端に浮かんでいるコメント欄が見えるようになって視聴者達の好き勝手なコメントが目に入るようになる。
「これでも人間関係は結構気ぃ使ってるんだよ! 言ってみれば軽くコミュ障なわけだよ俺は」
ちなみに医学用語の方ではなくネットでスラングとして使われる方なので悪しからず。
「なんかうじうじ悩んでたから、思い切って配信やってみればいい、って思って、配信した」
「なんか、いつもどんどん突っ込んでいくイメージがあったので、そういうところ悩む人なんだな、って思いました」
:草
:2人からもボコボコに言われてるやんけ
:なるほど、ヌルは実はコミュニケーションが苦手、と
「違うねん、距離感、距離感あるやん? お偉いさんと敬語で話す分には問題なくても、急に距離詰められるとどう対応したものかと悩むやん?」
思わずどこの方言か怪しいような言い回しが出てしまう。
が、実際のところそうだ。
敬語を使った距離を取った意思疎通、コミュニケーションは普通にできても、距離の近いコミュニケーションとなるととたんに考えてしまって結果動けなくなるのが俺なのだ。
「ということで、今回は本番のコラボに向けて、ヌルと雑談しながら探索していくよ」
「本番あるの!?」
「折角捕まえたのに、一回で逃がすわけない」
「ヌルさんは今凄い人気ですから、コラボも出来るなら複数回したいですし……」
そんな話をしながら、高森さんが本当に探索と言わんばかりに歩き始めるので慌ててついていく。
こうして、俺の初めてのコラボ配信は始まった。
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