第18話 魔法具だって作れるもんだ
まずは、使う予定の魔法陣を想像する。
そう、俺は《魔法陣魔法》のスキルを持っているので、これを活用することが出来る。
ちなみにネット調べによれば、このスキルの真髄は、魔法陣においてどの記号がどんな意味を持ち、どうやって魔法陣を構成すればいいかわかることと、空中や地面になにもないところから魔法陣を書けるところだ。
逆に言えば、その知識としての内容は他の人でも簡単ではないが再現は出来るらしい。
おそらく魔石や魔法具魔道具関連の研究はそこから進められて、様々な魔法陣を書いたりより効率の良いものを作ったりとしているのだろう。
まず今回作りたい魔法具は、鳴海を守るための魔法具。
まあ単純な話で、鳴海が害される状況で一番懸念されるのは、彼女をさらって俺に対する人質にして、俺を従わせるというやり方だ。
というか、それ以外で鳴海にちょっかいをかける理由がない。
だから俺は、極端な話、俺がいない場でも鳴海の身を守れる魔法具を作れば良い。
出来ないか、と言われれば、多分出来る。
さっきはぱっと思いついて焦って葦原さんに連絡をしてしまったが、魔法具を作る、つまりダンジョン探索の成果を発揮するなら、俺を越えるやつはいないはずだ。
おそらく今この地球に、俺が築いた魔法障壁を個人で越えられるやつは存在しない。
対物ライフルとかになると流石にわからないが。
さておき、そういうわけで俺の魔法陣魔法で鳴海を守るのが一番効果的だ。
相手が探索者を投入してくる可能性がある場合は特に。
故に俺が自分で対応する。
葦原さんには後で解決済みの連絡を送っておこう。
だから、まず必要な魔法陣の1つ目は、鳴海が攻撃、誘拐のために接近されたときに守るための魔法陣。
基本的には障壁の魔法陣で良いだろう。
だが、守るといっても鳴海を害する意思がある人を弾くだけで、友人達まで弾いてはいけない。
障壁の魔法陣は、常時展開型ではなく一時的に展開する形にしておいた方が良い。
そしてそうするためには、その一時的に展開するための判断をするための、敵意を検知するための魔法陣を使う。
これは本来はモンスター相手の索敵に使ったりする魔法陣なのだが、敵という意味の記号を使うのでおそらく地上での害意にも反応する。
そして後は、それらを連結するための魔法陣が必要だ。
正確に言うなら、検知の魔法陣の検知反応を参照して、それを障壁の魔法陣のスイッチに伝えるための魔法だ。
検知用の魔法と障壁の魔法陣を直結出来ないのか、と思うかもしれないが、魔法陣のルール的には、検知した反応をそのまま他の魔法陣に伝えるための、あるいは他の魔法で検知反応があったかを読み取るための式、記述を盛り込むと、魔法陣のサイズがかなり大きくなってしまう。
もちろん、大きめの魔石を削って板のようにして両面に魔法陣を描く、というのでも良いが、それよりも俺が考えている正4面体に削った魔石の方が大きさは小さくなり、持ち運びが楽になる。
さて、これで正4面体の魔石を用いた魔法具の3面に描く魔法式が決まった。
後1面は何にするかだが、ここには周囲の魔力を吸収し、発動の際に使用する魔法陣を描くことにする。
これによって、探索者化しておらず魔力を持っていない鳴海でも、家に置いている間に俺や他のアイテムから漏れる魔力を魔法具の魔石部分が溜め込み、魔法を放つ際には使ってくれる。
本来魔石とは魔力を多分に含んだものであり何もしなくても魔法陣数回分の効果なら発揮することは出来るが、それでは魔力というエネルギーを消費する一方で補充することが出来ない。
故に補充するための魔法陣が必要だ。
これで4面分の魔法陣の想像がついた。
「鳴海、ちょっと離れてろ」
「わかった」
俺は持ってきた本気の探索時に使っているナイフで、魔石の余計な部分を切り落として正4面体を作る。
「それを魔法具にするの?」
「ああ。1面ずつ魔法陣を描いて4面で4つの魔法陣。それで大丈夫だと思う」
後はここに魔法陣を刻んでいく作業だ。
鳴海に携帯してもらう以上できる限り小さくしたいので、少しばかり本気を出すことにする。
手の先から魔力を溢れ出させ、それをただ溢れさせるのではなく手の周りに留める。
そしてその魔力のうち、人差し指の先端部分に来る魔力にのみ集中して、針のように鋭く尖らせる。
なお俺の魔力操作技術はまだまだなので、人差し指に集中してしまうと、他のところは揺らいで魔力がこぼれだしたり、逆に引っ込んだりしてしまう。
しかし、今必要なのは先端の針だけだ。
普通にスキルを使って描いた魔法陣というのは、まあある程度の線の太さと大きさをしている。
シンプルな障壁の魔法陣でも直径1メートルは堅い。
もちろん探索中や戦闘中であれば、そこには特に拘る必要もないのでそれで問題はない。
だが魔法具にするときは別で、魔法具自体の大きさを考える必要がある。
そのため今回の俺も、スキルで描くのではなく、細い魔力の針で最低限の大きさの魔法陣を書こうとしているのだ。
「邪魔にならないように部屋に行ってるね」
「ん、おう、ごめんな」
「ううん、ありがと」
俺が集中しているのを見て、鳴海がそう言ってリビングから出ていく。
良く考えれば俺が自室で作業していれば良かっただけなのだが。
さておき、そっと細い魔力の針で魔石に魔法陣を彫り始める。
スキルによってある程度補助があるとはいえ、相当に細かく魔法陣を彫るのや、魔力を針のように保ち続けるには集中力を必要とした。
1つの面を書いているだけで、額から汗が出てくる。
しかし集中して、魔法陣を書き上げていく。
まず障壁の魔法陣には、中心を鳴海に。
検知用の魔法陣も、中心を鳴海に。
流石に学校で襲われるようなことはないだろうが、移動教室や体育などでカバンに入れておいたこれから離れる事を考えると、それぐらいの補助は必要だ。
その分魔法陣も大きくなるが、針の先より細く魔法陣を描くので問題ない。
そしてそれらを繋ぐように連結の魔法陣と、それとはまったく別に魔力貯蔵用の魔法陣を描く。
ついでに正4面体ということは全ての面が隣り合っているので、魔法陣同士が余計な干渉をしないように、連結用の魔法陣の、それぞれ検知と障壁の魔法陣との間にある辺を除く全ての辺に、干渉を否定するための式を刻んでいく。
それでようやく、魔法具の完成だ。
出来上がったところで汗を拭ったら、額が凄いことになっていた。
やはりまだ魔力操作に慣れきっていない俺には、相当に集中力を必要とする作業だったのだ。
汗を拭って服を着替えた後、さっそく出来たものを持って鳴海の部屋に向かう。
「おーい、出来たぞ」
そう言いながら軽くノックすると、中から少しだけドアを開けて鳴海が出てきた。
その手には、何かの紐のようなものだ。
「わ、すっごい綺麗だね! これお兄が作ったの?」
俺の持っている魔石を見た鳴海は、感動したように声を上げる。
「大分上質な魔石を使ってるからな。俺は形整えて魔法陣を書いただけだ。素材が良いんだよ素材が」
「いや、でもその魔法陣も綺麗だよ。よし、ちょっと借りるね」
そう言って鳴海が、俺の手のひらから魔法具を受け取る。
「というかお前のものだ。毎日持ち歩いてくれ」
「ああ、そっか、私の護身用だね、これは」
そう言いながら鳴海は、持っていた紐のようなものを魔石に通していく。
それは網のような構造をしていて、正4面体の魔石で出来た魔法具を覆い一部だけ紐が飛び出してなにかに結んでぶら下げやすいようになっている。
「ジャジャーン、良いでしょ、私が作った魔法具カバー。カバーって言うほどには覆ってないけど」
「ピッタリだな。良くそんな簡単に作れるな」
「簡単って言ってももう3時間だよ? お兄が作業始めてから」
そう言われてスマホを見れば、確かに時間はいつのまにか深夜。
思った以上に集中していたらしい。
「とにかく、それを持ってれば安全なはずだ。多分」
「うん、ありがとうお兄。大事に使うから」
言葉の通り、鳴海は俺の作った魔法具を大切そうに見ている。
この様子なら、言葉どおりに大事に使ってくれるだろう。
「じゃ、私そろそろ寝るからね。おやすみ」
「ああ、お休み」
鳴海におやすみと告げて、俺もリビングに戻って片付けをした後は、自室でベッドに入る。
「後は父さんと母さんの分と……後はコラボだな。」
そんな事を考えながら、俺は予想以上の魔法具作成の疲労もあって、すぐに眠りにつくのだった。
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