第24話 狂気の沙汰ほど面白い
週間総合5位ありがとうございます!
これも皆さんのおかげです!
ということでラストストック投下だあ!
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カタカタカタと骨が鳴る音に、時折交じる金属のぶつかる音。
軍が戦闘を行っているにも関わらず何も声が聞こえてこないのは、この場で軍を形成しているモンスターであるスケルトンが声を発さないモンスターだからだ。
代わりにしきりにカチカチと葉を打ち鳴らす音が数百体のスケルトンの中で共鳴しあい、あるいは戦争の現場よりも騒がしいのではないかと言いたくなるような騒音を奏でている。
そんな中を、俺は剣で目の前のスケルトンを切り裂きながら突き進んでいた。
「ッシャア!!」
スケルトンの急所は心臓部か頭。
そこを一撃で貫いた後、そこで動きを止めずに勢いのままに死んだスケルトンを押し倒し、更に前方へと突き進む。
足を止めて剣を引き抜いたりしては駄目だ。
それをしてしまえば、折角突き進むことで作り続けた背後の空白がスケルトンによって埋められてしまう。
そうなってしまえば、背後からの一撃を受けてこの戦いが終わってしまう。
だから俺は、突き進み続ける。
「まだ死んでねぇぞ……! かかってこいや骨どもぉ……!!」
片腕が飛んだ、脇腹も斬られた。
背中も腕も傷だらけ。
無事なのは体の正面ぐらい。
しかし。
戦闘開始から数分以上。
俺は未だに、数百体を残すスケルトンを相手に善戦を続けていた。
******
「いざ参る……!」
心の昂ぶりをその一言に詰め込んで吐き出した俺は、丁度丘の下を通過する途中にあったスケルトンの一団の脇腹を食い破るように、不意打ちに反応出来なかった2体のスケルトンを両断してスケルトンの一団の中へと突入する。
本当はこの流れで10体ぐらいはもっていけるのが理想なのだが、以前言った通りこの階層の適正レベルはおそらく250ほどで、俺の現在のレベル193では全く届いていない。
そのため、反射速度や剣を振る速度など、根本的なスペックの部分で俺にはこのスケルトン共を蹂躙するほどの能力が無いのだ。
加えてここは第17層。
全てのスケルトンがここより10層上の城塞都市跡地にいる亡霊騎士ほどの達人かと言えばそうではない。
だがしかし、大きく劣るかといえばそうとは言えない程度には実力がある。
更に身体能力自体は亡霊騎士より上だ。
この場だけで数百、周囲だけで数千、階層単位では数万いるスケルトンの全てが、である。
しかもそれが最も弱く数が多いスケルトン・ソルジャーの最低値で、他にもスケルトン・ナイトやジェネラル、変則的だが周囲の個体を指揮して連携を取らせるコマンダーなど、上位種が多数いる。
何せ階層が10層も違うのだ。
総合的な難易度は、せいぜい2体を相手にすれば良いあっちよりも、数百の手練れを同時に相手しなければならないこっちの方が遥かに高い。
だがしかし、俺も亡霊騎士を相手に剣の鍛錬を行ってきた身だ。
たかが骨ごとき、斬り伏せてやらねば名がすたるというもの。
というか中層に出てくるボロ剣持ったスケルトンから進化しすぎだろ、こいつら。
そんな事を一瞬頭に過ぎらせつつも、俺の体は淀みなく動いて、前にいるスケルトンを斬り伏せ、更に群れを斜めに横断するように斬り進んでいく。
時折剣を合わせてきたり、盾で攻撃を防御するスケルトンがいるが、なんとかフェイントをかけてそれを回避し、前方に、ひたすら前方へと突き進んでいく。
一撃でも受け止められて足を止められたら終わりだ。
その途端に、隙を伺っていた左右のスケルトンどもの一撃が俺の背中を討つ。
いや、既にそうしたスケルトンどもの一撃は振り下ろされているが、それよりも俺がスケルトンをかき分けながら突き進む速度の方が僅かに速く、身につけているワイバーン革の革鎧のおかげもあって、僅かな出血で済んでいる。
しかし、群れは中央へ行けば行くほど周りにいるスケルトンの囲いが増し、圧力が強くなっていく。
そのため、俺はあえて側面から入り隊列の後方に抜けるように、斜めに斬り込んでいるのだ。
眼前に立つスケルトンの頭蓋を穿つように突き出した
それをガードしようと盾を構えるスケルトンのみぞおちから心臓部へと剣をを突込み、その勢いのまま押し倒しながら乗り越える。
剣を引き抜くのは後だ、後で良い。
それよりも移動し続けることで、敵の攻撃を避けなければ。
更に眼前から剣を持ち迫るスケルトンの一撃を、なんとか引き抜いた剣で受け止める、と同時に鍔迫り合いや押し合いなんて足を止める真似はせず、剣を回すように弾く。
そして返す刀で防御するスケルトンの伸び切った剣腕を斬り飛ばし、体当たりで前方へと押しのける。
スケルトンは一撃は重たいが、本体自体は人間と比べても軽い。
故に、攻撃を相手がしていない状態ならば押しのけることが出来る。
物理法則がどうなってのかは俺も知らん。
「フッ、セァラッ!」
押しのけた敵の奥から突きを繰り出してきたスケルトンの剣を絡め取るように受け、頭部を貫こうとするが盾に弾かれ、次のフェイントをかけた一撃で胴体を両断する。
敵の腕を落とし、押しのけてさあ一段落、というわけにはいかないのだ。
その奥にも敵は俺を待ち構えている。
スケルトンの隊列は、今はもはや俺という敵に対応するために大きく崩れているが、もとは五十人が十列に分かれて並んだような隊列をしていた。
もちろんそこまで精密なものではなかったが。
俺はその脇腹あたり、つまりちょうど中央付近の側面から突入したわけだが、そう考えると最低でも20体以上は斬り伏せないと敵の包囲を抜けることが出来ない。
そして更に、敵は俺を囲うように展開してくるので、突破するならばおおよそ倍は必要になる。
しかし、そんな事を考える余裕が無いほどに、俺は先へ先へとスケルトンを斬り倒しながら進んでいく。
「グッ……!」
それでも時折、背後から、側面から振り下ろされる剣が俺の体を掠め、鎧を切り裂いて浅い傷を増やしていく。
深い傷を負ってない辺りは、今回はうまく行っている。
この突撃力でも、引っ掛けられるときは引っ掛けられて普通に群れの中に捕まり、四方から切り刻まれることだってある。
だが今回はうまく行っている。
目の前のスケルトンを斬り裂き、押しのけ、前へと突き進む。
そして俺は、数十体のスケルトンを斬り伏せ、数多の切り傷を負いながらも、スケルトンどもの隊列を突破することに成功した。
「しゃああ!」
群れを突破したことに雄叫びを上げつつ、駆け抜けた勢いを殺して反転。
再び先ほど俺が切り裂いた線をなぞるように、スケルトンの隊列を斬り裂くように群れに突入する。
このスケルトンの隊列の中で、最も隊列が崩れていて突破しやすいのがそこだからだ。
他のコースでスケルトンの群れに突入してしまえばまた一から切り開く羽目になるが、一度崩れた場所が補修されきってしまう前にもう一度破壊する。
否。
その道を幾度も往復することで破壊を繰り返す。
そうすることで、地道にスケルトンの数を削っていく。
それが俺の今やっている戦い方。
そもそも、俺がスケルトンの群れにわざわざ突入するようにして戦っているのには理由がある。
それは、下手にスケルトンの集団を動かして他の集団を反応させないようにするためだ。
ゲームで言うならば、周囲の軍団までがアクティブになるのを防ぐため、と言うことも出来るだろう。
例えばスケルトンの集団がこの一つならば、わざと接近しなくても後退しつつジリジリ敵の数を削っていけば、まあ500体はいささか多いとは言え、時間さえかければ傷なく削り切ることが出来るだろう。
引き撃ちは大正義。
もちろん、全てがスケルトン・ソルジャーであるという前提の話ではあるが。
だが、この他にも複数のスケルトンの軍団や隊がいる戦場跡地にてそれをやっていると、移動先にちょうど他のスケルトンの集団がやってきていて、俺が近づいたためにそっちの集団もアクティブになって同時に襲いかかってくる、なんてことになりかねない。
更に言えば、俺はこの階層のボスを知っているのだが、そいつが率いる一軍の周囲にはすぐ近くにいくつもの部隊が配備されていて、下手にスケルトンを動かしたり俺が距離を取るようなことがあれば他の軍団が反応してしまうような構造になっているのだ。
そんなボスモンスターとその軍を討伐するためには、周囲に配備されたスケルトンの軍全てを殲滅するほどの実力か、周囲に配置された軍を反応させずボスモンスターとその軍だけを攻撃する戦術が必要となる。
そして前者は今の段階では厳しいと考えている俺は、後者の選択肢として、あえて自分が敵の中へと突入していくことで敵をその場に足止めする、という戦術を実行しようとしているのだ。
そのためにはどう動くかを考えたときに思いついたのが、敵の群れの中でひたすらに移動し続け、敵の攻撃が当たらないようにするというものだった。
理由としては単純で、1箇所に足を留めたら普通に集まられて囲まれて詰むからだ。
ならば動き回ることで、俺に対応しようと動くスケルトン達と、俺が切り倒したスケルトンによってわずかに乱れ出来る隙間の中で生きながら斬り続けようと考えたのだ。
スケルトンの群れといっても、こいつらはみっちり隙間なく集まっているわけではない。
隊列と言ったように、個体同士がある程度の間隔を保って陣形を維持している。
つまり、奴等の集団の中にはかなりの隙間があるのだ。
突入して一所に留まれば、あっという間にスケルトンが隙間なく押し寄せ飲み込まれてしまうが、動き続ければスケルトンに完全に囲まれることはない。
隊列を組んでいるこいつらは、他の場所のモンスターと違ってひたすらに俺を追いかけてきたりせず、多少陣形を、隊列を維持しようとその場に留まるような動きを見せるからだ。
動き続けることで反応したスケルトンとは距離を取り、移動先のスケルトンに俺に反応させてはまた移動して距離を取る。
そうやって、スケルトンの群れの中をなんとか息継ぎしながら泳いでいく。
無双ゲームのように鎧袖一触に出来れば良いのだが、相手がそもそもこちらより格上だ。
無双どころか1対1ならばなんとかなるが、2対1となるだけで厳しくなるような相手の大軍に飛び込み、なんとか1対1を繰り返して突き進み続けることで敵の攻撃をがっつり受けることなく生き残る。
だからそれは逆に言えば、1度足を止められるようなことがあれば一気に状況が苦しくなるということで。
スケルトンを仕留めよう鋭く袈裟懸けに振るった俺の剣が、スケルトンの持つ剣によって受け止められる。
一撃ならばまだリカバー出来る範囲。
「チッ……!」
だが続く二撃目を盾で受けられてしまった。
繰り返すが、この階層のスケルトンは俺にとって容易く倒せる敵ではない。
亡霊騎士のような剣技の冴えは無いが、素のスペックや反射速度については凌駕している。
故に、俺の攻撃が少し甘くなると、こうやって受けられてしまう場合があるのだ。
しかし、二撃防がれたところで止まることは出来ない。
盾で俺の剣を防いだスケルトンに対して、そのま盾越しに体当りするように動く。
前に出なければ、死ぬ。
しかしそれは正面の敵に隙を晒すことと同義だ。
故に。
「片腕くらいはくれてやるよ……!」
俺が背中から引き抜いたナイフでスケルトンの頭部を貫くと同時に、スケルトンの剣が俺の左腕を斬り飛ばした。
「がっ……ぅぅあ!」
死んでいない、まだ死んでいない。
たかが左腕をやられただけだ。
まだ武器を持つ右腕は残っている。
バランスだって、身体能力が物理法則を凌駕して高いこの肉体ならば、左腕を無くしたぐらいの質量の喪失でもバランスは維持できる。
「シッ……!」
頭の中から苦痛を締め出して、また前に立ちふさがるスケルトンの胸部を貫く。
わずかに力が抜けたからか、あるいは体が軽くなったおかげか。
先ほどまでの見せるための大きなフェイントとは違う、ほんのわずかな体重変化だけでスケルトンの動きを誘導出来る。
続けて2体目には、体勢が崩れるように足を軽くもつれさせて隙を晒し、スケルトンの盾が上がったところに下から鋭く一閃。
後数コンマ遅れればスケルトンに狩られていたが、先に命を刈り取ったのだからこちらの勝ちだ。
続く個体には突きの一撃をギリギリで回避され、剣の引戻しから返す一撃を放つ。
その間に他のスケルトンに脇腹を鎧毎切り裂かれたが、左手が無くなり血が垂れ流しとなっている以上それは些事に過ぎない。
幸い脇腹は革鎧と中に巻いた晒しによって保護されているので、斬られたところで中身がはみ出したりはしない。
ちなみにおそらく内臓は逝っている。
普通に脇腹から10センチ以上入れば内臓が壊れもする。
だが、それでも。
「まだ死んでねぇぞ……! かかってこいや骨どもぉ……!!」
満身創痍、されど未だ死せず。
500体いたモンスターの群れも、損失数はすでに3割近く。
俺が群れを往復するたびに50体以上仕留めていることを考えると、既に百体以上は仕留めている。
だが残りはピンピンしたスケルトンどもが死神のごとく待ち構えている。
「ゲハァッ……」
喉元に溢れんばかりの血を吐き出して、俺は再びスケルトンの群れへと突撃していった。
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