【ダンジョン配信×死にゲー】 【悲報】探索者さん、分身スキルで死にゲーをやっているところを晒され世界に狂気を見せつけてしまう~『死んで死んで死んで、その先に勝てば俺の勝ちだ』
第16話 Burnout syndrome
第16話 Burnout syndrome
今書いてる23~24話あたりでついに主人公が視聴者+妹のSAN値を削り始めました。
え、今までも削れてるって?
それはそう。
掲示板は後で書くので待っておくんなまし。
~~~~~~~~~~~
さて、厄介なお役人との話し合いと、ついでにお世話になっていた会社の方との話し合いも済んだ。
しかしさて。
「何しようかなー」
これから何をするべきか、少しばかり悩んでいる。
食事後のリビング。
ソファに座って考え込む俺に、鳴海が気づいて声をかけてくる。
「お兄、何悩んでるの?」
「んー? いや、次はどうしようかと思って」
数日前まではダンジョン攻略のうち、レベリングの作業をやろうと思っていたし、実際一日だけだがダンジョンでのレベリング作業はやった。
作業という言い方はあまり好きではないが、実際にレベルを上げるためには命の危険のなるべく少ない階層で再現性の高い狩りを行うことになるので、実際に作業というのが表現として一番近い。
さておき、そんなレベリングだが、ダンジョン省からの連絡によって急遽切り上げることになってしまった。
これについては別にダンジョン省に恨みがある、なんてことは無くて、普通に仕方ないか、ぐらいの気持ちではいられている。
それは多分、亡霊剣士と1度やり合ったことで俺の中の戦闘狂が大人しくなってくれているからだが。
だがしかし、そのせいか俺の中の探索へ突き進めという気持ちが少々落ち着いている。
落ち着いてしまっている。
いつものように、駆られるようにダンジョンへ突き進む、という精神状態に今の俺はない。
張り詰めに張り詰めていたダンジョンへの意識がプツンと途切れたような感じだ。
折角のダンジョン探索だが、気分が乗り切れないときにやっても意味はない。
そういうときは気もそぞろになってしまう可能性があるので危険だ。
特にこういうときには、例えば先日やったような三十分以上、場合によっては一時間などに及ぶ長時間のボスモンスターとの戦闘などはとてもではないが出来ないだろう。
では何をするべきか。
「数日のんびりするかなあ」
「気分が乗らないの? 結構久しぶりじゃない?」
「うん、どーも、久しぶりに駄目みたい」
いやしかし本当に、この数年間来なかったので本当に久しぶりだ。
今日のダンジョン省の局長さんや社長さんとの話し合いがストレスになったからだろうか。
多分そうだろうな。
あれで随分と、ダンジョンに浸していた思考が地上に引き戻された感じはあった。
昔からこの癖は俺にはあって、同じことを楽しんでいる時でも急に気分が乗らなくなって集中できなくなってしまったりするのだ。
症状的には少し違うが、鬱とかがこんな感じらしい。
この癖があるから、俺はダンジョンという通常の職ではなく自分が楽しめてかつ自由な場所を選ぶことにしたのだ。
もちろんダンジョンに惹かれたというのもあるが、何からダンジョンを知ったかと言えば、『普通の就職は無理だなー』という考えから調べたり考えたりしてみてからだ。
そこから今まで、ひたすらにダンジョン攻略に邁進してきたが、どうも久しぶりに駄目らしい。
これは多分数日経たないと戻らないだろう。
ただそれでも、何かしたいという欲はあるのだ。
「あ、じゃあお兄、しばらく配信だけとか、家で1人で鍛錬してるのの配信とかしたら?」
「配信か。それも良いな」
確かにのんびりと配信は良いかもしれない。
ついでに自分の鍛錬の配信と、しないと言ったが他の探索者向けの講座、のような動画なら良いかもしれない。
深淵に行くのはあれだが、正直な話深層レベルならば俺にとってはお散歩と変わらないので。
それにそうやって浅い所で遊んでいれば、自然とまた探索への意欲も湧いてくるだろう。
多分。
「ちょっとそうしてみるわ」
「うん。あ、そうだお兄」
しばらく深淵には潜らない。
そう宣言すると頷いてくれた妹だが、直後に何か思い出したような表情をして話題を変えてくる。
「何だ?」
「お兄的にはコラボとかはどうなの?」
「コラボ、コラボかあ……」
コラボに対して別に忌避感は無いし、深層程度ならば分身で能力を合わせた上で楽しめる自信もある。
ただ、正直な話俺自身がコラボをするというイメージがわかないのが一番大きい。
「ダンチューバーのコラボって何するんだ?」
「色々と話すこともあるし、普通に協力してダンジョン潜ったりとかするよ」
「普通に潜ったりもするのか」
俺の少し驚いた疑問に、鳴海は大きく頷く。
「結局ダンチューバーだからね。他の配信者とかブイチューバーと違って、ダンジョン攻略してるところを見たいって人が多いから」
「なるほどな……」
確かにそれもそうか。
ゲーム実況者がゲームをコラボでやるように、ダンチューバーはコラボでダンジョンに潜る。
視聴者が求めているのはそれらしい。
言われてみれば、元から俺が戦闘ばかりしている様子を見て楽しんでいるような視聴者達だ。
別に特殊な事をやらなくても、問題は無いのかもしれない。
そう考えると、普通に探索配信の延長としてコラボをするのは有りだろうか。
「ちなみにお兄、コラボの依頼めっちゃ来てるからね? 一旦検討させてください、って返してるけど」
「そうなのか?」
「そうそう。ちょっとまってね」
俺が問いかけると、鳴海はいつものスマホではなくパソコンと併用の出来るタブレットを持ってきて、ソファーの俺の横に座る。
「ほら、こんなにたくさん」
そう言ってタブレットの画面を見せてくれる鳴海。
そこには、いくつもの探索者事務所名や探索者の名前、そしてそのチャンネルへのリンクなどが、1つの表に丁寧にまとめられていた。
ついでに横に鳴海からの評価というか一言メモのようなものがつけられている。
『すごく良い人、おすすめ』という評価から、『どっちかというと迷惑系、多分お兄は相性が良くない』といった否定的なコメントや、『有名配信者を晒して稼いでる質の悪い人。無理』といった辛辣なコメントまで盛りだくさんとなっている。
「これ全部まとめてくれたのか?」
俺がそう尋ねると、鳴海はドヤ顔で笑いながら言う。
「フフン、凄いでしょ」
「本当に凄いな。ありがとう、おかげで見やすいな」
俺が素直にそう言った途端、ドヤ顔をしていた妹がわずかに顔を赤くして背ける。
「ま、まあ、お兄のYのDM欄カオスになっちゃってるからね。こうしないと私も誰から連絡来てるかわからなくなっちゃうから」
相変わらずうまく照れ隠しをする妹である。
しかし、俺は本当に鳴海に任せているので全く見ていないが、俺のSNSは一体どんな状態になっているのだろうか。
「俺も、そのSNS見てもいいか? Yだったよな確か」
「え、うん、そうだけど。お兄、SNSとかあんまり得意じゃなかったよね?」
鳴海の言う通り、俺はSNSがあまり得意ではない。
というか基本的に、何かを能動的に発信するというのが苦手な部分がある。
それは俺が基本的にずっと頭の中を回し続けてしまうタイプの人間であるため、ふと思いついたことなどを投稿しよう、とならないからだ。
なんというか、何かを思いついた次の瞬間にはそれに対する答えを自分で考えたり、別の事を考えていたりするのである。
そのため、一度思考を止めて文を書いたり写真を撮ったりするのは苦手なのだ。
結果、高校を卒業したばかりの頃なんかは一時期高校時代の友人や大学の人達と繋がれるようにとツイッタラーや他のSNSを使ってみたが、思考が頭の中で完結しがちな俺は、結局とくにつぶやくことも無くなってやめてしまった。
しかしとはいえ、それはなんとなくでSNSをやる場合であって。
「普段からするならともかく、ザーッと見るぐらいなら大丈夫だぞ」
「そっか、お兄が苦手なのって自分から発信するのだったっけ」
「そうそう」
じゃあはい、と妹がSNSの画面を開いていからタブレットを渡してくれる。
それを受け取った俺は、とりあえず妹がどんな投稿をしているのか見てみようと、自分の行った発信の欄を見て、固まった。
「鳴海さん?」
「何?」
俺の手元にある画面には、とある画像が映し出されている。
それは、家で鍛錬をしている俺の姿など、まあ配信者としてなら良いか、と思える画像の他に。
飯をかっくらっている俺の姿や、風呂上がりで上裸の俺の姿など、なぜそれを投稿したのかわからないと言いたくなるような画像が多い。
しかもそれにリプがついていても鳴海は反応しないので、コメント欄で好き勝手言われるようなことになっている。
「この写真は一体……?」
「ん、今日のお兄シリーズ。配信するなら姿から印象持ってもらおうかなって思って」
「いやでも上裸の写真とかさ……いる?」
「いる。結構需要あるもん」
「まじかよ」
俺は絶対いらないと思うんだけど。
というかこういうのあったら絶対配信のコメント欄で話題に上がるはずじゃ──
そう思ってスクロールすると、一つのメッセージが。
『写真はお兄に秘密で投稿しているので、配信の方では秘密でお願いします』。
「鳴海、さん」
「……ごめん。でも、お兄の人気出すなら、文章の他にも写真がいるかなって思って」
「さいですか」
まあ確かに、コメント欄を見ると、『このイケメンが狂気に染まった笑顔してたの、ブルッときた』『想像以上に顔整ってて腹立つ』『推しにします』等、好意的なメッセージが多い。
もちろん昔を遡れば初期の頃の画像にはネガティブというかかなり攻撃的な文章も増えるが、それは画像というよりはイレギュラーモンスターに特攻した俺という存在に対する攻撃のようなものだった。
そしてその中にも、『生きていて良かった』『鍛錬めっちゃ強そうだね』のような肯定的なコメントもある。
「まあ、別に良いけどね。普段は認識阻害かけてるから俺の顔なんてバレないし」
「良いの? まだ投稿しても」
驚いたように言う妹。
だが、生憎と俺は、それを気にするほどには世間というものに興味関心を持っていない。
別にどっちでも良いし、鳴海がそれで楽しそうなら良いかな、というぐらいだ。
「どっちにしろ俺自体が見つかることは基本的に無いからな」
「そっか。ありがと、お兄。じゃあコラボの話なんだけど──」
鳴海の話を聞きながら考える。
俺を見つけようと思うならば、それこそダンジョン省がおそらくやったであろう、監視カメラで一人ひとり確認をしたり、手続きの時間帯等で探し出す、ということをしなければ、認識阻害をかけている俺を例えギルド内であっても見つけることは困難だ。
何せ人がいる場所では人に紛れてしまうからだ。
実際、配信をしているが配信者以外の俺の顔をしっているのは、ダンジョン省の役人とアラナムホールディングスの社長さんや衛藤さん、ショップの店長ぐらいなものだ。
後は多分、微妙に記憶にモヤが掛かったように思い出せてはいないはずだ。
流石にダンジョン省も情報漏洩はしないはずだろうし──
「──で、この人はダンジョンエースっていう事務所所属の人なんだけど、ダンジョンエースがあんまり良い評判を聞かないからやめた方が良いかも」
「そうなのか?」
「うん。借金とかで脅して冒険者をこき使ってるとか、ギルドとかダンジョン省の偉い人と癒着してるとか言われてるの。流石に全部が本当じゃないと思うけど、実際に探索で他のパーティーの邪魔をしたり狩り場に横入りしたりするのは動画にも残ってる。他にも一回入った人を引き止めるために脅したりとかもしてるらしいし……」
ダンジョン省の役人と一探索者事務所が癒着とはこれまた大きな……。
癒着?
ダンジョン省と、探索者事務所が?
しかもその事務所はグレーな手段で探索者を従わせている、と。
「あんまお兄には付き合ってほしくはない、人達かな。全員が悪い人じゃないと思うんだけどね」
そう鳴海が言い切る前に、俺はスマホを取り出して、今日貰った名刺から登録しておいた1つの番号へと電話をかけた。
数コールの後、プッという音ともに通信が繋がり、向こうの声が聞こえるようになる。
『はい、葦原です』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます