第10話 色々謎だけど、推測は出来るよねって話

 深層最奥の扉から出た先は少しばかり高台になった位置にあるので、そこから下の草原の方へと下っていく。


:これが、ダンジョンの深層の先のエリアか……!

:思ったよりのどかな風景で驚いてる

:とりあえず既存のダンジョンエリアとは別物だというのはわかった

:モンスターおらんな


「そう、ここは実を言うと、モンスターが出ない場所になってるみたいでな。だから俺は勝手にここが安全地帯だと思ってる。深淵に挑むためのキャンプ地、ってことだな」


:ダンジョン内にそんな都合の良い場所が?

:でも深層の奥ってことは、行くのに数日かかるんだよな

:ダンジョンの優しさ的な

:そんなのがあればあんなにモンスターは溢れない


 ごもっとも。

 だが真面目な話、他にも同じような層があるのを知っている俺からしてみれば、ここは本当にダンジョン内に拠点を作れるようにするための場所になっているのだろうと感じる。

 

 普通に考えて、ダンジョンの探索、攻略には時間がかかる。

 今の最前線組などは、数日夜営するつもりで人員を連れ込んで、日中の探索要員とは別に、仮説拠点を守る要員だったり他にも運搬係だったりを雇ったりしているらしい。

 つまり、深層を第10地区まで進み、更にその先にそこで戦うには1日という人間の稼働時間が短すぎるのだ。


 これは中層や下層、上層でも同じで、奥のエリア程往復に時間がかかるので必然攻略が出来る時間が短くなってくる。

 それでも下層ぐらいまでは日帰りでなんとかなるが、複雑かつ広い構造をした深層では不可能なやり方だ。

 

 俺はレベルや能力等が噛み合って深層を一時間もかからずに駆け抜けることが出来るがそれは更に下の階層相当の能力が俺にあるからであって。


 普通は、探索を進めるにはダンジョン内での寝泊まりをするしかないのだ。


「まあ、ここまで大勢到達するようになれば、このエリアのありがたさがわかるよ」


:確かに層の奥まで行くの大変だしなあ

:そう考えると拠点化出来そうな場所があるのは良いのか

:深層とか数日かけて探索するらしいしなあ



 およそ3キロメートル四方以上に広がっているエリアの、森と草原の境目辺りの場所で、俺はポーチからテントを取り出してキャンプ地の設営を始める。

 その辺の森にあるものを使って適当な寝床を作ることも出来るが、折角文明の利器があるのだ、頼ったほうが楽だ。


:普通にテントか

:本当にモンスターおらんのか? ソロで夜営大丈夫か?

高森レイラ:安全確認は大丈夫ですか?


「割と本気で大丈夫。いるのは鹿とかの地上の生物くらいでモンスターはいない。1回隈なく探したけど、本当に何もモンスターはいなかった。鹿とか野兎とか自然の生態系みたいなものは出来上がってるけど」


:流石にヌルも調べてるか

:むしろ自分の使う場所なんだから安全確認しないと怖くて使えんよな

:てことは本当に安全地帯なんか

マネージャー:ヌルはもう10回どころじゃないくらいそこでキャンプしてるから、本当に大丈夫なんだと思います


 鳴海がコメント欄で俺の出した情報を補佐してくれる。

 この気遣いも本当にありがたいものだ。


 一旦コメント欄を放置して、キャンプ地の設置を終える。

 明日以降は更に潜っていくことになるので、いつものようにガチガチの設置ではなく簡易的に設置しただけだが。

 

「さてと。確か、あの扉のことについて話すんだったっけ?」


:色々全部わからんから説明して

:あの扉は一体何?

:扉の言ってた意味がわからん。特にチュートリアルとか言ってたの

:聞いても普通にヌルもどういうものか知らんだろ。突破しただけで研究したわけじゃないんだから

:本当に深層突破してるの?


 おっ、鋭いコメントをするやつがいるじゃないか。

 確かにそのとおりだ。

 

「まあ、実を言うと俺もさっき見せたもの以上のことはわからんし、扉のことについてもあの言葉についても何も知らん。言った内容から推測できるだけだ」


 あの扉の台詞をもう1度思い出してみる。


『知的生命体を、確認。識別、分類、人間と判断』

『チュートリアル達成率65、分の、65。挑戦者の資格を確認。新宿ダンジョンへようこそ、挑戦者。これより、進化の泉への道を開きます』


「まず気になるのは、『知的生命体』ってこっちを認識した後に、分類で人間と認識した所だな。じゃあ他の選択肢。例えば竜人とか、エルフとか、まあそういう異種族の可能性があるのか? あの扉はそれを知っているのか? っていう話だ」


:確かにそこは気になった

:妄想なら色々広められるけど、実際に考えるには情報が少なすぎる。

:それより後半が気になるわ

:ダンジョンの秘密に迫ってるみたいでワクワクする


 だろうな。

 俺もワクワクする。

 でもおそらく、ダンジョンの秘密を解き明かすには、もっと深く、深くへと進む探索が必要だ。


「で、次にチュートリアル。俺はこれは、ダンジョンの上層から深層までの話をしてるんじゃないかと思ってる」


:どういうこと?

:え、まじで言ってる?

:いやいやいやいや、まさかそんな

:無いだろ流石に。無いない

:なんでみんなそんな焦ってるんや

:じゃあボスの数は深層は25体いるのか。


「俺は、その後のあの音声の『新宿ダンジョンにようこそ』っていうのと合わさって、ダンジョン側の認識としては上層から深層はあくまで探索に慣れるためのチュートリアルに過ぎないんじゃないかって思ってる」


 チュートリアル。

 つまり迷宮が、時々宝箱やモンスタードロップといった報酬を人間に与えつつ、ダンジョン攻略というものを学ばせていくための場。

 上層から深層は、そういう場として設定されてるんじゃないか、と俺は思ってる。


:いやそれは他の人たち馬鹿にし過ぎだろ

:流石にな。お前等がやってるのはお遊びだぞってのはない

高森レイラ:ボスの数が、もしかしてチュートリアルと一緒なんですか?

:いやー、ええ?? 思いたくないけど言われてみればそう思えてきた……ええ?


「俺がそう判断してる理由がいくつかある」


 荒れるコメント欄を置いておいて、俺はまずは持論を語ることにする。


「1つ目は、この次の層、ダンジョン第5層から先が、深層と比べても結構厳しくなってる事だ。モンスターは強いし、トラップの数も多い。まあ単純に下層より深層が強いのと同じ、と言われればそうだけどな。ただ、この下の階層ではボスモンスターが1体しかいない。上層から深層までみたいな地区に別れたりしてないのも、チュートリアルから本番への変化なんじゃないかと思ってる」


 実際、ここから先の層は上層から深層ほどに広くはなく、コンセプトというか敵の傾向や環境も一致している。

 加えて下の層に降りるための道が二つあり、それぞれが別の層に繋がっている層もある。


:なるほど……

:うーん、チュートリアルはマップ減らすために一マップに一杯詰め込んだエリア、ってこと?

:そりゃ深層の次だから強いだろとしか思わんが、ボスが一体か


「2つ目は、さっきから鋭い人とか高森さんが指摘してくれてるけど、上層から深層までのボスの数だ。上層が10体、中層、下層が15体ずつ。そして深層が25体。これは俺が正確に数えた。実際俺が初めて扉に到達したときは、『65分の53、挑戦者の資格無しと判断』って言われたしな。確かにその当時、俺は上層とか中層の一部ボスをすっ飛ばして攻略していたから、倒していたボスは53体だった。つまり65体分の何かしらの討伐の証が無いと、門を通れないことになってる。これはチュートリアルである仕様の証明っていうよりは、ダンジョンにそういう何かしら仕様的なものがある、ってことだ」


:ああ、やっぱり。65体分のボスで65か

高森レイラ:数で思いつくのはそれぐらいでした

:ええ、なんか機械的というか、何かしらの機構が働いてそうな内容だな

:これもダンジョンの謎の解明に繋がるんかね

:マックスじゃないと駄目なのか、60とか55ぐらいが資格のラインなのか試してみたいな


「3つ目はやはり最後の台詞だ。『新宿ダンジョンへようこそ挑戦者。進化の泉への道を開きます』。このタイミングからがダンジョンの本番、あるいは逆に、此処から先はこれまでとは違う、って宣言してるように聞こえる」


 そして四つ目、と俺は間髪入れずに続ける。


「ここから先の層のモンスターは、上のモンスターと違って生きてる。血がある。肉がある。殺してもすぐに魔力に溶けて消えたりしないし、ドロップアイテムを落としたりすることもない。本当のモンスターという生き物がいる、って感じだな。この差も、上層から深層では便利で、ゲームチックで、デフォルメされたダンジョンを作ってるような気がする」


:うーん、言われてみればっていうレベルか?

:それっぽくは見えるけど、妄想に過ぎない気もする

:チュートリアルというか、普通に深層より上と下で分かれてるってだけでは?

:いやでもチュートリアル達成率って言ってるんだよな

:ああ、そうか最初にチュートリアルっていう単語がつかわれてるわ


 うん、まあいきなり言われても信じがたいだろう。

 俺は一人で考えた結果納得したけど、納得し難いのもわかる。


「まあでも、『チュートリアル達成率』とは言ってるから、上層から深層がチュートリアル的な要素を含んでるのは間違いない。これは合ってるだろ?」


:それは確かに否定できんな

:なんのチュートリアルかって話だな

:ボスと戦うチュートリアルなのかダンジョン探索のチュートリアルか

:そういう要素があるってことは否定は出来んな


「だからまあ、他の人たちも早く抜けて、こっちに来てくれって話」


 俺の本音は結局これだ。

 一人先に進んではいるが、正直だんだん行き詰まりを感じつつある。

 《分身》スキルで死にゲーの如く死にながら敵の特徴を覚えて少しずつ攻略していっているが、敵はどんどん強くなっていくし、それこそ上のゾンビティラノみたいな、適正帯でもフルパ(6人)推奨みたいなモンスターも出てきつつある。

 まあそれでも俺は1人で切り開きたいが、他の人が到達していないというのはなんかこう、寂しいわけではないのだが、『もうちょっと頑張れよ』という気になってしまうのだ。


:それを言われるとなんも言えませんわ

:この急に生えてきた暫定最強がよお

:1人じゃきついんか?


「ぶっちゃけきつい。前回の配信で死に覚えで鍛錬してるの見せたけど、この先の探索も分身使ってるのね。だけど殺される回数が半端じゃないし、モンスターの数が多いから、本当に1人じゃ捌ききれんところとかもある」


 死に覚え、死にゲー攻略法は時間さえかければいけるものはいけるが、ガチで無理なときはガチで無理なことが浮き彫りになるので、それがちょっとしんどいときはある。

 まあその度にあの手この手でこじ開けて来たけども。


「ぶっちゃけこの先フルパ推奨だろうなって感じはしてる」


:そんなきついんか

:パーティーかそれより上の人数か

:人手欲しいなら自分で鍛えたら良いじゃん

:ああほんとやな。自分で育てたら? パーティーメンバー

高森レイラ:せめて2人いないと、きつくないですか?


 視聴者がいい提案をしてくれる。

 確かにそれは非常に良い手だ。

 自分で相棒を育て上げるある種の光源氏計画。


 しかし。


「まー講座動画ぐらいなら出しても良いけど、育てるとかはせんかな」


:何故に?

:育てるのが面倒くさいとかか?

:まあそれならそれでも良いけど……


「ここまで1人でやってきた意地があるからな。それに、行き詰まっていると言っても今の能力での問題だから。レベルをあげて技術も鍛えて。まだ出来ることが色々あるのに、そっちに行くのは勿体ない」


 剣の使い方だって魔法陣魔法だってまだ完璧に使いこなせるか、極めているかというと嘘になるし、死に覚えで攻略している分、俺は本体のレベルが上がりにくい。

 それに魔力操作による身体能力向上も最近ようやくでき始めたばかりだ。


 まだまだ出来ることはある。

 俺はこだわると一生拘るので、これは多分一生変わらないだろう。


:なるほど

:思考が脳筋 良い意味で

:「勝てないならもっと鍛えよう」これをリアル死にゲーしてる人が言い始める恐怖

:ちなみにレベルはおいくつほどで……


「俺は今190ぐらい」


:普通にバリ高くて草

:最前線とか60ぐらいだっけ?

:A国の一番高い人で75だった気がする

:限界突破するな


「でも今攻略してるところは、ソロで本気で行くなら250はいる気がしてる」


 このダンジョンに初めて入った際に、人間はその身体の仕組みなどが組み替えられ、スキルやレベルといったある種ゲームのようなシステムが脳内で閲覧できる様になる。

 この変化を地上では探索者化なんて呼んだりしている。


 このレベルは基本的に敵を倒せば倒すほど、そして敵が強ければ強いほど得られる経験値の量が上がっていくと思えば良い。

 本当にゲームそのままのレベルと思って大丈夫だ。


 これが上昇すると、身体能力全般がそれに合わせて上昇していく。

 これは、魔力に対する親和性が増すことで、身体能力の強化が云々と色々理屈があるらしいが、それらは一旦おいておいて。


 つまり今俺が攻略しようとしている辺りの層は、レベル190の身体能力では少しきついものがあるのだ。

 そして俺は地上でも肉体を鍛え上げているので、そちら側からのアプローチも出来ないため、レベリングが必須となる。


 とはいえレベルを上げるためには本体で戦う必要があり、普段は分身で死亡前提の探索をしている俺はなかなかレベルが上がりにくいのだ。


「まあそんなわけで、皆さんも頑張ってくれ、という話でした。今日はもう飯食って寝るから、また明日ね」


:お、終わりか

高森レイラ:頑張りますけど、一人先に進みすぎです。

:深層勢が深層を突破するのに後何年かかるんだろうか

:深層が第25地区まであると聞いて悲鳴あげてる


「じゃ、おやすみ!」


 びし、と最後に決めて、スマホを操作して配信終了のボタンを押す。

 するとドローンが動いて、自然と俺のポーチの中へと入っていった。

 あらかじめ設定しておいた場所に勝手に収納されに行くシステムは本当に便利だ。


「さて、じゃあ飯かじって寝るか」


 流石にこの時間から狩りをしようとは思わないので、カロリーブロックにしよう。

 ちなみにこの第5層は、ちゃんと昼夜が存在する。

 遥か彼方の天井に張り付いている魔法石らしきものが、太陽や月のように天球を動き回り、昼と夜を演出しているのだ。


 問題を上げるとするならば、何故か地上と昼夜が綺麗に逆転しているところだろうか。

 だから俺は今からテントで寝るが、ダンジョンは日が昇っていって正午へと近づいていく。

 寝にくいこと限りないが、そう考えてテントは遮光性最強のものにしたうえで木の陰に入れる場所にテントを置いたから、テントの中は快適だ。


 カロリーブロックをかじって水分補給をした後は横になって寝に入る。

 さて、明日はどんな戦いをしようか。



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