第9話 チュートリアルを続けますか  ▷はい  ▶いいえ

「どうも、イレギュラー特攻ニキのヌルです。告知してた通り、今日も配信を始めていきます」


まずは前回と同じく挨拶をする。

普段の配信では敬語は使っていないが、この始めの挨拶に関してはどうも丁寧語がしっくり来たので今回も始めだけは丁寧語だ。


:待ってたぞ!

:あんな意味深な事を言って消えやがってこの野郎!

:まじでしばらくSNSも告知だけで反応無くなったし

:何事かと思った

:焦らし過ぎだろ。どうせガセなのに


 コメント欄が今日も元気だ。

 そして今日の俺の配信には、最大時でも千人だった前回を大きく上回る5千人ほどの視聴者が来ていた。

 この数は、配信者としてはかなり多い部類に入るらしい。

 まあそれでも、ダンジョン配信や他の配信でも日本人で10万を越える同時接続者数を誇る人もいるらしいので、最近始めたばかりにしては多い、ぐらいの感覚だろう。


 それに、前回最後折角あれだけ意味深にしたのだ。

 前回よりもそれが話題となって人が増えるのは当たり前と言っても良いかもしれない。


「はい、じゃあまず今の俺のいる所、ここが深層の最深部だ。と言っても、見る分にはちょっと広いボス部屋程度のところだが。ああ、ボスに関してはもう討伐しておいたから安心してくれ」


 ドローンで周囲を撮影するようにぐるっと回転させる。

 この辺りの操作は、地上から鳴海が遠隔でやってくれている。

 ドローンには自動追尾モードと、遠隔操作の二つのモードがあるらしい。


:えー? ほんとにござるかあ?

:真偽がわからん

:ヌルの後ろにあるの、扉か?


「お、気づいた人がいるな」


 俺がそう言うと、カメラが俺の目の前から上昇して、俺がちょうど背後にするように立っていた金属製の巨大な扉を映し出す。

 その表面には複雑な魔法陣のようなものが刻み込まれているが、生憎と俺の魔法陣に関する知識では読み解くことが出来ない。

 これでも《魔法陣魔法》のスキルを持っていることで、多少は魔法陣を読むことも出来るはずなんだが。


「これが、ここがダンジョンの深層の最奥であるという証明。そして、深層のその先、ダンジョンの深淵に繋がっている扉だ」


:そんなギミック今まであったか?

:そんなのは無い。というかそんな場所知らんぞ

高森レイラ:一体何処なんですかそこは

:下層で戦えるレイラちゃんも知らんのか。少なくとも深層の可能性は出てきたぞ


「深層の最奥、そして深淵の入口だって言ってるだろ」


 そう言いながら、俺は扉に手を当てる。

 すると、俺の手を当てた場所から光が扉の表面を走るように動き、扉に刻まれた魔法陣を青い光で描き出していく。


 そしてその魔法陣が完成したところで、声が響いた。


『知的生命体を、確認。識別、分類、人間と判断』


 誰もいない空間に扉から発されている、どこか機械的な部分がある声が響く。

 コメント欄がざわついているが、俺にとってはもう幾度も聞き慣れたものだ。


『チュートリアル達成率65、分の、65。挑戦者の資格を確認。新宿、ダンジョンへようこそ、挑戦者。これより、進化の泉への道を開きます』


 声がそう言うと、金属製の扉が大きな音を立てながら奥へと開いていく。

 それが開ききったところで、俺はドローンを伴ってそこを通過した。

 そして俺が通りきったところで、今度は扉が閉まっていく。

 そして完全に閉まり、俺の前には下まで続く階段だけが残された。


「どうよ、これでここが、ダンジョン深層の1番奥だってことが、信じられるようになっただろ?」


 ドローン越しに視聴者達に問いかけるも、どうやら画面の向こうは大混乱になっているらしい。

 それどころか、配信の視聴者数が凄まじい勢いで延びている。

 あっという間に万を越えて、それでも上昇を続けている。


 ちなみにこのスマホとドローンは、結構ガチでダンジョン技術の最先端で作られているので、深層を越えて深淵に入っても配信は地上と繋がったままだ。


:ガチやん

:えええええ!!!!

:なんて言った? 今扉なんて言った?

:マジモンじゃねーか!

:チュートリアル? 何が?


「はははっ、混乱してるみたいだな。ま、それも当然だろうけど。マネさん、どうよ、これが深層の最奥、そして深淵の入口だぞ。凄いだろ」


マネージャー:凄いを通り越して呆然なんだけど。ヌルが言ってたの嘘じゃなかったんだ

:マネージャーに自慢するヌルかわいい

:妹だっけ?

:マネージャーはヌルが深層を越えてること聞かされてたのか

:いや、流石に深層ではないだろ。どっかの大掛かりなセットとかだって


 信じて本当のことだと思う人たちがいる一方で、まだこれが大掛かりなセットとかCGの類だと思い込みたい人たちもいる。

 だが鳴海がコメント欄に顔を出したことで、ある程度信じる人が多数になる方向へと話がいったらしい。


マネージャー:ぶっちゃけヌルの言ってることが本当なら絶対バズるっていうか表に出した方がいろんな意味で良いと思ったから、配信やるように進めました 

:グッジョブ!

:これまじなら日本が世界に一歩どころじゃなく先んじたことになるからな

:で、ヌル、解説というか色々説明して


「何説明する? まーとりあえず深層の1つ下、深淵第1層に降りてから話そうか」


 そう一言告げてから、俺はを、下に向けて降っていく。


:いやー、初配信で狂気を見せてきたと思ったら次はこんな隠し玉か

:ヌルって個人なの、どっかの事務所所属とかではない?

:流石にソロだろ……事務所所属なら事務所が名前売るためにヌルの実績公開するだろうし

:普通にうちのクランに勧誘したいんだが


 確かに、事務所やクランとしては強力な俺が自分のところに欲しくはなるだろう。

 だがそれは向こう側の都合だ。


「あーそういうのは間に合ってる。というかさ、今の最前線って世界で見ても深層なわけだろ」


:そうやね

:深層第10地区だっけ

:そこ行ってた探索者が引退したから第9地区まで最前線下がってる

:海外もA国の第12地区が最大じゃない?

:あっちは州ごとにダンジョンあって対立してるからなあ


「せめて深層ぐらい越えてくれんと、手を組むのは俺の方にメリットが無いだろ。キャリーして欲しいって言うなら1組2組ならしてやるけど、その後連れて帰ってやらんぞ」


:ご尤も過ぎる

:金だって深層攻略突破出来るレベルなら腐る程あるだろうしな

:でも深層の未踏破エリアのドロップアイテムとか、買い取る店気づかんかったんかな

:最低限が深層突破か。しばらく出ないだろうな 

:深層の先に置き去りとかワロタ……ワロタ

:あんまり人と関わらない系の配信か


 一気に俺が人と関わりたくない、的な流れになりそうだったので、そこは一応訂正しておく。

 俺は別に、一概に人に縛られるのが嫌だ、と言ってるわけではない

 ただ事務所やクランで享受できるメリットが俺にとっては無さ過ぎる、というだけの話だ。


「まあこれは事務所とかクランに所属、みたいな長期的な契約になる話だけな。コラボ配信とかはいつかしてみたいと思うし、俺は《分身》スキルで強さ合わせたアバター作れるからコラボもし易いと思うし。別に人と関わるの全部興味ないとかでは無いからな」


:ならうちの事務所の探索者とコラボを!

大木平祐:わたくし、ダンジョンエースの事務所長を務めている大木と申します。

     この度は、私どもの配信でのコラボをしていただけないかとご相談を──


:いきなりの勧誘草

:てかダンジョンエースって最大手やんけ!

:なりすましかと思ったら本物やんけ


:うちのクランは配信もしています。もしよろしければそちらの方でコラボを──

:報酬をお支払いいたしますので、ぜひともうちの事務所に教官として──

:コラボ配信で深層の様子の配信など出来ないでしょうか。良ければ──


:一気にスカウト共が飛びついてて笑う

:あーもうめちゃくちゃだよ

:そりゃあ信じるなら暫定最強だからなあ


 俺の不用意な一言で、一気にコメントせずに見ていた地上の探索者事務所の関係者やクラン関係者が俺に勧誘のメッセージを飛ばしてきた。

 まあ認められている、という意味ではちょっとは自尊心が満たされるかもしれんが、生憎とこちらはダンジョンに人生全て捧げると決めている身。

 多数の称賛よりたった1振りの成長に一喜一憂する類の人間だ。


「その辺りはダンジョンから出たときに考えるんで。配信のコメントではやらないで頂けると助かります。マネさん、この人ら全員コメント出来ないようにとか出来る?」


マネージャー:出来るけど流石に性急な対応過ぎるから、次勧誘を持ち出したらBANという形にします。

     なお雑談の中でそういった話題が出た場合は構いませんが、はっきり勧誘している場合には、BANとなりますのでお気をつけください

:残当

:これは暴走した事務所とかクランのスカウトが悪い

:未だにこれ本物って信じられんのだが。せめて深層最奥のボス倒すところから配信して欲しかった

:本当なら最強の探索者だからな。あっちこっちから引っ張りだこよ


「まっ、そういう面倒くさいことになるのは目に見えてたけど配信始めたわけだからな。少しぐらいは我慢するよ。というか対応するのが面倒くさい」


:せやな

:海外でももう注目されてるだろうな

:されてるぞ。向こうの掲示板で Japanese Samuraiって言われてた

:なんでだよ


 他愛の無い話をするコメントを見つつ、スカウトとか勧誘の流れで一旦止めていた足を再び動かして下の階層へと向かう。


「まあ、今日は攻略をするつもりはないから、下の階層に着いたら少し色々話すよ」


:探索する気が無いのに下るの?

:ああ、俺達に深層の下の世界を見せてくれようってことか

:優しいな

:狂気に溢れてるけど根は良い人なんだよ。根は

:まったく知らない層を見れば、信じなかった人も信じれるだろ


 そんなコメントを横目に見つつ、階段を下りきった先。

 そこには、広い草原と所々に森の広がる、のどかなエリアがあった。


「ここがダンジョン5層、深淵第1層だ。俺はこの土地の特性から『キャンプ地』って勝手に呼称してる」


 それまでの岩肌や土がむき出しのダンジョンから一転、のどかな風景に心が癒やされる。

 まあこの下には地獄が広がっているんだが。


 さておき、その草原の中央部を今日のキャンプ地として、俺は移動を開始した。


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