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.009『allgreen』 : Quatrain

其（そ）の昔（むかし）　竜（りゅう）が訪（と）うたと　云（い）う村（むら）に

思（おも）わず知（し）らず　竦（すく）んだ手足（てあし）

四方（よも）の山々（やまやま）　真中（まなか）の河（かわ）は清（さや）かに囁（ささや）き

己（おの）が画紙（がし）　相応（ふさわ）しきかな　竹林（たけばやし）

音程（おんてい）の　ずれた小唄（こうた）に　釣（つ）られたか

飛（と）んで来（き）た　雀（すずめ）が一二三（ひふみ）で　おっとっと

門前（もんぜん）雀羅（じゃくら）を　張（は）るとはこのこと

渾然（こんぜん）一体（いったい）ではあるが　許（ゆる）せと払（はら）う　我（わ）が手（て）かな

躍（おど）る鼓動（こどう）の　臨（のぞ）み愛（は）し愛（は）し　竹林（たけばやし）

此（こ）の命（いのち）　此（こ）の地（ち）で燃（も）やし尽（つ）くそうぞ

そと二儀（にぎ）に　向（む）か離（さ）く聴（ゆる）しの色（いろ）へ斜視（しゃし）

覗（のぞ）く死魔（しま）の眼（め）　映（は）ゆ河（かわ）楮（こうぞ）

斑（もどろ）く手（て）　透（とお）る遠（とお）くの　座（とど）す湫（くで）

頬（ほほ）濡（ぬ）らす　程（ほど）に由々（ゆゆ）しき　自画（じが）につと

灯（とも）す嘯（うそ）　竜（りゅう）の御形（みかた）に　音（おと）踏（ふ）むと

そと躙（にじ）る　旭日（きょくじつ）を背（せ）に　振（ふ）るう腕（うで）

懐（ほほ）揺（ゆ）らし　風雅（ふうが）と歌（うた）を　息吹（いぶ）く間（ま）に

そこらく切（き）らす　偸（ぬす）んだ音差（ねざ）し

音（おと）も高々（たかだか）　真中（まなか）の河（かわ）は灼（あら）たに赫（かがや）き

世（よ）を囃（はや）し　素晴（すば）らしきかな　竹林（たけばやし）

奔命（ほんめい）と　狂（ふ）れた鶯梭（おうさ）に　振（ふ）られたか

飛（と）んで来（き）た　古枝（ふるえ）が一二三（ひふみ）で　とっとっと

門前（もんぜん）立（た）つ顔（かお）　泣（な）くのは子供（こども）と

金仙（こんせん）悉皆（しっかい）願（ねが）わくば　救（すく）えと逸（はや）る　我（わ）が手（て）かな

驕（おご）る女王（じょおう）の　如（ごと）し愛（は）し愛（は）し　竹林（たけばやし）

此（こ）の祈（いの）り　永久（とこしえ）隣（とな）り潤（うる）もうと

此（こ）の一義（いちぎ）　向（む）か離（さ）く聴（ゆる）しの色（いろ）へ差（さ）し

誇（ほこ）る自画（じが）とて　僅（はつ）かな鴻図（こうと）

嘶（ころろ）く音（ね）　徹（とお）す遠（とお）くを　臨（のぞ）む畝（うね）

仄（ほの）暗（ぐら）く　襲（おそ）い来（く）る紫気（しき）　死魔（しま）に虚（うろ）

泳（およ）ぐ雲（くも）　竜（りゅう）と見紛（みまが）い　恐（おそ）るるも

注（そそ）ぎ沃（い）る　旭日（きょくじつ）を背（せ）に　振（ふ）るう筆（ふで）

音（おと）が鳴（な）り　畏（おそ）れ敬（うやま）い　頬（ほほ）化粧（けわ）う

濡（そぼ）つ洩（も）る　肺（はい）さえ最早（もはや）　間（あい）掩（おお）う

恐（おそ）れ断（た）ち　眦（まなじり）開（ひら）き　そと笑（え）まう

遠（とお）くより　聴（き）こえし音（ね）の主（ぬし）　位牌（いはい）堂（どう）

撓（おお）る挙動（きょどう）の　そそり愛（は）し愛（は）し　竹林（たけばやし）

此（こ）の緑（みどり）　其（そ）の見目（みめ）も愛（は）し築（つ）く宝庫（ほうこ）

そと握（にぎ）り　揺（ゆ）らかすぬるりと支路（しろ）照（て）らし

零（こぼ）る意馬（いば）の音（ね）　零（あ）ゆ河（かわ）の烏鷺（うろ）

漫（そそ）ろく手（て）　恐（おそ）る恐（おそ）ると　唆（そそ）る末（すえ）

頬（ほお）歪（ゆが）む　程（ほど）に苦（くる）しき　死火（しか）につと

恐（おそ）るるも　竜（りゅう）を戴（いただ）き　言伝（ことづ）つ面（も）

登（のぼ）り切（き）る　旭日（きょくじつ）を背（せ）に　揮（ふる）う吭（ふえ）

遠（とお）つ杜（もり）　眼下（がんか）埋（う）め今（いま）　馳（は）せた賀詞（がし）

撓（おお）る折（おり）　煥発（かんぱつ）せしは　竹林（たけばやし）