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.008『セイレーン』 : Quatrain

声援（せいえん）の聴（き）こえない絶海（ぜっかい）で唯（ただ）一人（ひとり）

晴天（せいてん）を見上（みあ）げて歌（うた）い続（つづ）ける

汀線（ていせん）は遙（はる）か彼方（かなた）　見（み）えないのに

兵燹（へいせん）の煙（けむり）で　天（てん）は今日（きょう）も煤（すす）ける

怪訝（けげん）な目付（めつ）きの渡（わた）り鳥（どり）にも

怪顛（けでん）し海神（わたつみ）へ逃（に）げるお人魚（にんぎょ）さんにも

下天（げてん）や真昼（まひる）の月（つき）にも響（ひび）き渡（わた）る魔性（ましょう）

外連（けれん）味（み）たっぷり効（き）かせて聴（き）かせましょう

清廉（せいれん）な歌姫（うたひめ）なんて柄（がら）じゃないもんで

性格（せいかく）は捻（ひね）くれ見（み）て呉（く）れも化（ば）け物（もん）で

声援（せいえん）とかも欲（ほ）しいもんですが

贅沢（ぜいたく）も何（なん）も言（い）わん　健気（けなげ）なもんですな

え　御歳（おとし）今年（ことし）お幾（いく）つですかとか魚介（ぎょかい）共（ども）が

根（ね）刮（こそ）ぎ卸（おろ）し落（お）とし前（まえ）付（つ）けさせてやるぞこら

ておっとり喋（しゃべ）るもあらこれ駄目（だめ）だ

手（て）も品（しな）も替（か）え歌（うた）え　勝（か）つまでだ

声援（せいえん）の聴（き）こえない絶海（ぜっかい）で唯（ただ）一人（ひとり）

凄然（せいぜん）とした音（ね）で歌（うた）い続（つづ）ける

井泉（せいせん）は遙（はる）か彼方（かなた）　見（み）えないのに

兵船（へいせん）の煙（けむり）で　天（てん）は今日（きょう）も煤（すす）ける

世間（せけん）や摂理（せつり）を赤（あか）い泥（こひじ）を

席捲（せっけん）し徒口（あだぐち）で決（き）めるご神助（しんじょ）さんにも

下賎（げせん）な雷雨（らいう）と雪（ゆき）にも響（ひび）き渡（わた）る魔性（ましょう）

外連（けれん）味（み）たっぷり効（き）かせて聴（き）かせましょう

清艶（せいえん）な歌姫（うたひめ）なんて柄（がら）じゃないもんで

性格（せいかく）は意地悪（いけず）で見（み）て呉（く）れも化（ば）け物（もん）で

永遠（えいえん）とかも欲（ほ）しいもんですが

契約（けいやく）も何（なん）も要（い）らん　手慣（てな）れたもんですな

手（て）遠（どお）し狼煙（のろし）の理屈（りくつ）で歌（うた）も候（さもら）い吃（ども）った

けどもし灯（とも）し常（とこ）しなえ触（ふ）れた音（ね）で百（ひゃく）の仔（こ）ら

手（て）を取（と）り合（あ）えるのならそれだけが

音（ね）も詩歌（しか）も嗄（か）れるまで弾（はず）ませた

て言（い）う平和（へいわ）の歌姫（うたひめ）役（やく）もまあ嵌（は）まらない

て言（い）うか変（か）わらない？　そもそも流行（はや）らない？

睥睨（へいげい）した鯨（くじら）に片目（かため）閉（と）じても帰（かえ）られる

平々（へいへい）洋々（ようよう）　この海原（うなばら）でどうすりゃ変（か）えられる？

清廉（せいれん）な歌姫（うたひめ）なんて柄（がら）じゃないもんで

性格（せいかく）は捻（ひね）くれ見（み）て呉（く）れも化（ば）け物（もん）で

声援（せいえん）とかも欲（ほ）しいもんですが

贅沢（ぜいたく）も何（なん）も言（い）わん　健気（けなげ）なもんですな

え　御歳（おとし）今年（ことし）お幾（いく）つですかとか魚介（ぎょかい）共（ども）が

根（ね）刮（こそ）ぎ卸（おろ）し落（お）とし前（まえ）付（つ）けさせてやるぞこら

てほっこりさせるもあらこれ駄目（だめ）だ

でも舌（した）を出（だ）せ歌（うた）え　勝（か）つだけだ

清廉（せいれん）には程（ほど）遠（とお）い背（せ）を傾（かた）げて嗄（か）らせ

精錬（せいれん）したこの音（おと）に手（て）を合（あ）わせて鳴（な）らせ