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.004『ウィスタリア』 : Quatrain

いつか見（み）た鮮（あざ）やかなウィスタリア

才（みつ）無（な）しの命（いのち）も慈（いつく）しむように

静（しず）かに包（つつ）み込（こ）みそっと抱（だ）いた

雫（しずく）に宿（やど）る色（いろ）　降（ふ）り敷（し）く胸裡（きょうり）

嚚（ひすか）しく領（し）く死苦（しく）と弥（いや）頻（し）く疾苦（しっく）に

見（み）す見（み）す囚（とら）われた今（いま）じゃ見（み）つからない

死水（しすい）の海（うみ）に沈（しず）んで途切（とぎ）れた視界（しかい）

見失（みうしな）ったあの色（いろ）は疾（と）っくに

見（み）澄（す）ました藍（あい）が似（に）せて流（なが）した

水（みず）の色（いろ）は酷（ひど）く醜（みにく）くてさ

偽（いつわ）った自分（じぶん）を許（ゆる）せず喉（のど）嗄（か）らした

似付（につ）かぬ水（みず）ばかり　溢（あふ）れる部屋（へや）

いつからか探（さが）し続（つづ）けた不二（ふじ）の色（いろ）

いつかは諦（あきら）め　震（ふる）えた次（つぎ）の日（ひ）も

静（しず）かに青（あお）む藍（あい）は　雨露（うろ）を搔（か）いた

傷（きず）が痛（いた）もうが抱（いだ）くよ　ウィスタリア

いつか見（み）た鮮（あざ）やかなウィスタリア

偽（いつわ）りの気持（きも）ちも慈（いつく）しむように

気（き）遣（づか）い包（つつ）み込（こ）みそっと抱（だ）いた

傷口（きずぐち）なぞる色（いろ）　降（ふ）り敷（し）く掌裡（しょうり）

椅子（いす）傾（かし）ぐ頻（し）く頻（し）くと俄（にわ）しく疾駆（しっく）し

静々（しずしず）と爛（ただ）れた今際（いまわ）に浸（つ）かった藍（あい）

生粋（きっすい）の罪（つみ）に歪（ひず）んでも消（き）えはしない

見失（みうしな）ったあの色（いろ）は疾（と）っくに

見（み）澄（す）ました灰（はい）が見（み）せて翳（かざ）した

傷（きず）の色（いろ）は酷（ひど）く醜（みにく）くてさ

気（き）遣（づか）った詩文（しぶん）も包（くる）めず喉（のど）嗄（か）らした

丹（に）つらう傷（きず）腫（は）らし　掠（かす）れる部屋（へや）

いつからか流（なが）し続（つづ）けた不二（ふじ）の糸（いと）

鎮（しず）まらない雨（あめ）　含（ふく）めた蕪辞（ぶじ）の詩（し）と

静（しず）かに仰（あお）ぐ藍（あい）が　嘯（うそ）を吐（は）いた

傷（きず）が呵（しか）ろうが慕（した）うよ　ウィスタリア

霖雨（りんう）降（ふ）る限（かぎ）り　飛沫（しぶき）を爪（つま）弾（び）き

吟（ぎん）ずる雲雀（ひばり）映（うつ）し　共（とも）に息吹（いぶ）く

辛苦（しんく）踏（ふ）む度（たび）に　柩（ひつぎ）を裏（うら）切（ぎ）り

印（いん）する光（ひかり）映（うつ）し　遠方（とおち）に焼（く）ぶ

見（み）澄（す）ました藍（あい）が似（に）せて流（なが）した

水（みず）の澪（みお）が広（ひろ）く染（し）み付（つ）く手（て）は

いつかは自分（じぶん）を許（ゆる）せると誤魔化（ごまか）した

偽（いつわ）る水（みず）払（はら）い　明日（あす）へ触（ふ）れた

いつからか探（さが）し続（つづ）けた不二（ふじ）の色（いろ）

見（み）つからない理由（わけ）　銜（くく）めた次（つぎ）の日（ひ）も

静（しず）かに勾（かど）う催花雨（さいかう）ごと抱（だ）いた

傷（きず）が啀（いが）もうが誓（ちか）うよ　ウィスタリア

いくら傷（いた）もうが到（いた）るよ　似（に）す藍（あい）が

いつか見（み）たような四月（しがつ）のウィスタリア