第2話 一条家のメイド

私の名前は土佐雪(とさゆき)

一条家のメイドだ

そんな私だが、1つだけ忘れられない出来事がある

それは……


数年前


「大虎様!今日も絵の調子はどうですか?」

「ダメダメだよ……なんでこんなに上手くいかないんだか……」


私は好きな人がいる

ご主人様であり、幼馴染の一条大虎様

芸術の名家の一条家の生まれながら芸術の才が全くない異端児

次期当主候補じゃないけど……

でも大虎様は優しくて、かわいくてかっこよくて……何より情熱の赤色の髪!

ファイアーレッド!

と私は呼んでいるけど本人は情熱なんてないと言っているんだ……

そりゃそうだよね……あんなに酷い仕打ちされているんだもの……

変わってあげたいな……



「なんでお前はこう……なんていう……見る人を不快にさせる絵しか描けないんだ!」

「いえ、全くそんなつもりじゃ……」

「あと何描いてるのか全然わかんないし」

「……すみません……」

「すみませんじゃないだろ!私は怒ってなんかない!むしろこちらが謝罪したいくらいだ!」

「なぜですか?先生は悪いことなんて……」

「人の芸術をバカにする……そんなこと……してはいけないことなんだがな……」


大虎様は誰よりも努力をしている……

それはメイドである私が1番身近で知っていた

大虎様は……ショートスリーパーという体質は持っていない……

でも毎日夜遅くまで……絵や歌の練習を……欠かさずやっている

そして私が見つけたらごめんと言ってくれる

私は大虎様の優しさに……惚れたんだ



「えぇと、大虎くん……歌はやめようか?」

「どうしてですか?」

「あの……その……センスが……」

「……わかりました……一条のものなのにすみません……」


大虎様はいつも何か言われるたびに謝っている

大虎様はがんばってるのに……

大虎様が謝っている姿を見るとなぜかこちらの胸もきゅって締め付けられる感じになる

そっか……私、大虎様の努力が報われてほしいんだ……



「大虎?今日の調子はどうかしら?」

「全然……わかってるでしょ?」

「私もよ……はぁ……何よ魂を込めろって……」


この方は大虎様のお姉様のかな様

かな様と大虎様は双子である

姉弟仲は非常にいい

ちなみに2人とも……このままだと危ない……

聞いたところ一条家には追放というシステムがあるらしく……

一条家に相応しくないとみなされたら家から追放されるのだ

私はお二人の未来……嫌な予感が薄々していたのだが……まさかこんなことになるなんて……

そして、受け入れたくない現実

お二人との別れが……



「うぅぅ……うわぁぁぁん!大虎様ぁ!だいすきっ!ごめんなしゃい!」


私はお二人が追放されてからずっと泣いていた

1人になってしまって、悲しくて

大虎様の努力が実らなかったのが、悔しくて

想い人が死んだかもしれないって思うと、胸が苦しくなって

でも、大虎様は、最後にこんなお手紙を残してくれました


雪へ

こんな落ちこぼれご主人様のメイドしてくれてありがとう

これからは一条家のメイドとして頑張って好きな道を歩んでください

あと、心配はいりません

諦めなければ、きっと……

落ちこぼれの大虎より


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かわいい幼馴染と釣り合わないオレep0〜過去編〜 うさみみ宇佐美 @usami-nano

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