再会に涙なんて
唐突に現れた男。
客と名乗るが、開店前に現れる者なんて今までいただろうか。
この世を生きる動物の頂点に立つほどの美貌を持つ彼が、こんな寂れた店に何のようだろう。
調合中だった手を止めれば、無意識のまま彼の方へ足を運んでいた。
『はじめまして…?まだ開店前ですけど、よかったらゆっくりしてってくださいな』
ぺこ、とお辞儀をしては開花したばかりの牡丹のようにふわりと微笑んでみる。
…彼女の匂いだ。と舌なめずりをすれば、作業台に戻ろうと身体を回転させた
ふと、回転の反動で宙に円を描いた髪。ソレに隠されていた項があらわになった。
5本の傷…何かに引っかかれた跡のような、不思議な形の傷跡。
蒲公英の色をした
彼女の匂い、項の傷跡。
「本物ダ…」
無意識のうちにそう口走ると、伸ばした手で
…細い、前世の彼女も細かったが、今は細すぎないか?しっかり食事を取れていないのかもしれない。なんてネガティブな思考が一瞬頭を過ぎ去る。
手首を掴まれては、流石に困惑して後ろを振り返った。そりゃ誰だって不信感を抱くだろう。
『あの、どうしましたか…?』
「この香リ、君が調合してるノ?」
『はい!この香りだけは昔から得意で良く作ってるんです!』
首を傾げ、元気に受け答えするその仕草が、彼女にそっくりでつい声も出なくなってしまう。
ごく、と
「…やっト見つけタ、俺だケの花嫁」
そう呟けば、蒲公英色の瞳を閉じて
自身と29㌢も差がある彼女の身体は、すっぽりと覆いかぶさることができてしまう。そのサイズ感さえも愛おしい。
すん、と
項に走る五本の傷に、そっとキスを降らしてみた。
ちゅ、と小さくリップ音が鳴った。
『…えぁっ…!?』
唐突に抱きしめられて、声が出ない。それも、初めて会った異性に。
匂いをかがれ、項にキスをされ…。顔が良かったから殴らなかったが、流石に驚きすぎて身体が硬直してしまう。
「オレは
ばくんばくんと破裂するかと思うほどの勢いで動く心臓がうるさい。
彼の声も聞き取れず、逃げるにも逃げ出せないこの状況をどうにかしようと頭を動かしてみるが…駄目だ、完全に脳が焼かれてしまっている。
『ぇっと…その…私は…』
なんとか口を開き声を出そうとした瞬間。
聞き馴染みのある声が
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます