第13話 ダン伯爵の終わりの始まり

 元ダン伯爵の手下のスキンヘッドの男ブーデンはルークに言われたことを勘違いしていた。ダン伯爵にすり寄るんだ、と言う言葉を『すり寄って情報や金銭諸々を根こそぎ奪い取る』と解釈した。その勘違いは、ブーデンが元山賊であり、強奪に対する忌避感が薄いせいで起こったものなのだが、ルークもブーデンたちもそのすれ違いにはまだ気がついてない。


 任務を任されたと勘違いしたブーデンは意気揚々とダン伯爵の領地に赴き、伯爵に面会していた。


「ブーデン、どうだ、そっちの様子は?」

「ボチボチですなぁ。ルーク様も村人どもも馬鹿ばかりだから、簡単に騙せそうですぜ」


 互いにあくどい笑みを浮かべてそう会話する。しかしふとブーデンは眉をひそめた。


「……ルーク?」

「あっ、ああ、いえ、向こうでは尊重を示すために様呼びしてるんですわ。そのときの癖が出ちまいましたなぁ」

「そうか、それなら良いが。くれぐれもあんなガキを敬ったりするなよ?」


 その言葉を聞いてブーデンは心の中で『お前みたいなあくどいデブ貴族より、ルーク様の高潔で圧倒的な貴族の方がよっぽど敬うに値するわ』と思ったが、ルークのすり寄るという言葉を思い出して口にするのは思いとどまった。そしてブーデンはさらにあくどい笑みを浮かべ、さも素晴らしい作戦を提案するように両手を広げ、大げさに話し始めた。


「そんなことより、ダン伯爵! 俺たちにいい作戦があるんですわ! お聞きになります?」

「なんだ、それは。もったいぶらずに話せ。ただしくだらない作戦ならすぐに追い出すからな」

「ふへへっ、伯爵ならそう言ってくれると思ってましたわ!」


 そうしてブーデンは、上体を前に倒し、肘を膝の上に置いて、手を組んで、にやりと笑う。


「さて、作戦なんですがね、ルークは何も知らない世間知らずのガキです。だけど一応とはいえ貴族の子。それなりに警戒心があります」

「まあ、そうだろうな」

「そこで! 我々から直接金銭的に支援するんですよ。そうすれば警戒心が一気に解けると思いませんか?」


 それを聞いたダン伯爵は眉をひそめた。


「金銭なんて渡したら、こちらが損ではないか」

「いえいえ、そんなのは後から回収すれば良いんですよ。ほら、家畜だって美味しい餌を与えれば、美味しく育つじゃないですか」


 なるほどとダン伯爵は考え込み始めた。もちろん、ブーデンの考えていることと言っていることは逆だ。ブーデンは肥え太ったダン伯爵からそうやって金銭を根こそぎ奪い取った後、弱ったところを切り捨てれば良いと考えていた。流石は元山賊である。やり方が汚い。


「ふむ……その作戦、やる価値がありそうだな。ある程度、金銭を貸し出すからやってみろ」


 それを聞いたブーデンは心の中でガッツポーズをする。ダン伯爵が馬鹿で良かったと、心から思った。


 こうしてダン伯爵が些細なすれ違いで破滅への道へと進み始めた。少しばかり可哀想だと思うが、まあ悪役だしええか。

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