第12話 なんか弟子ができました

 騎士団長さんが剣を振り上げて放ったスキルは思った通り【天空の雷剣】だった。これは剣身に雷をまとい振り下ろすことで、雷を相手に向かって解き放つという上級スキルだ。初級、中級、上級、超級、神級の五段階のうちのちょうど中間、まあそこそこ強いかなというスキルだった。それに加え、上級の中でもあんまり強くない部類のスキルだ。大技だから威力は高いが、格上であれば簡単に対処できてしまう正直使いどころのないスキルだった。


「死なないでくださいね――っ!」


 騎士団団長さんはそう言うが、どうあがいたってこの攻撃じゃ俺は死ねない。村の子供たちですら一撃だと厳しいのではないだろうか。だが至極真剣な彼女に舐めプするのは少し忍びないので、ちょっと悪役っぽく演出を加えながら全力で対処するか。俺はそこまで考えると、悪役らしく高笑いを始める。


「ふははっ! この程度の攻撃、俺に効くとでも思っているのか!」

「……ッ!? それは試してみないと分からないでしょう!」


 言い終わると同時に、振り下ろされる雷をまとった剣。バチバチと紫電が龍のごとく俺の方に向かって走ってくる。俺は全神経を集中させる。別に食らっても死なないから無駄なことはする必要ないのだが、やはり悪役らしく圧倒的な力を見せつけてやるつもりだ。引き延ばされていく時間感覚。ゆっくりと迫ってくる紫電を目で追いながら、俺は身体の力をスッと抜いた。



 ――タンッ。



 三度、剣を振るう。振り終わった瞬間、時間感覚が一瞬で戻ってきて、ものすごい勢いで迫ってきていた紫電の筋が不自然に俺を避けるように湾曲し、俺の後方の空へと駆け抜けていった。パリィ。俺は剣で三本の紫電を弾いたのだ。ほぼ同じタイミングで迫ってきている三本の雷を一本の剣で弾くのは、流石に相当な集中力を要する。その雷たちのタイミングの差は、コンマ一秒にも満たないのだから。


「…………なぁっ!?」


 後方に飛んでいく雷を見て、騎士団団長さんは口をあんぐりと開け酷く驚いていた。そりゃそうだろう。渾身の切り札と思っていたスキルを、いとも簡単に剣で弾かれたのだから。まあ……いとも簡単ではなかったが、端から見たらそう見えてもおかしくない。彼女のレベル帯では俺が何をしたのかもよく分からんだろうからな。


 しかし、こんなレベル帯の人が騎士団長になれるとは、本当に大丈夫なのかこの国。まあおそらく、零式騎士団ってのは騎士団未満の見習いとかって意味だろうからな、こんなものか。


「なっ、なっ、なっ、なっ……!」


 ちなみにその騎士団団長さんは現在、壊れたブリキの玩具みたいな声を出して、固まってしまっていた。そこまで衝撃的だったのか、今の。確かに難しい技だが、ゲーム時代ならできる人、たくさん居たんだがな。……とと、危ない危ない、悪役の演技をするのを忘れるところだった。


「ふっ……このくらい造作もないこと。やはりこの程度の攻撃でh――

「なっ、今、何をしたんですかっ!? 何で私の必殺のスキルが悉く弾かれたんですか!?」

「……えっ? ああ、いや、普通にパリィしただけだけど」

「そんな簡単にパリィできるんですか!? すいません、私ルークさんのこと正直なめてましたけど、考えを改めます! お願いしますから私を弟子にしてください! 私はもっと高みを目指したいんです!」

「……は? 弟子?」


 え? いきなり何言ってるの、この人。怖いんだけど。豹変しすぎじゃない? 彼女は血走った目と荒い鼻息でカツカツと俺に近づいてきて、肩をがっしりと掴んできた。俺は思わず自分の頬が引きつるのを感じた。


「そうです! 弟子です! 何でもしますから、私に戦いの極意を教えてほしいのです!」


 何でこんな物事が上手くいかないんだ! ちょっと逮捕フラグを回避しようとしたら、騎士団長が弟子に志願とか、どうやっても俺を悪役の道から遠ざけたいみたいだな! だがそうはいかないぞ! 俺は悪役になるのだ! その不屈の意志の元、俺はこの騎士団長を弟子にすることのメリットを考える。


 零式騎士団という最弱そうな騎士団でも、やはり国の中枢に手駒を持ってるってのはやはりデカいよな。いざというとき、この女を騙して弟子として色々やらせることもできそうだしな。うん、ちょっと適当に訓練させておけばいいだけだし、弟子にとってもいいかもな。


「……分かった。お前は今日から俺の弟子だ」

「ああ、ありがとうございます、ルーク様! これで私はもっと強くなれるッ!」


 感極まったような感じで彼女は俺の手を握り、俺の前に跪いた。……12歳のガキの前でいい年した女性が涙を流しながら跪いているこの状況。少し悪役っぽいか? 少し悪役っぽいのなら、まあ万事オッケーか? ……なんか違う気がするけど、とりあえずそういうことにしておくか。

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