第11話 零式って一番弱いってこと?

「さあ、ルークさん! 私と勝負です!」


 黒髪ポニーテールの大和撫子風美人が、仰々しい鎧を身にまとい剣先をこちらに向けてきながらそう言った。レベリングに疲れて、他の奴らを置いて屋敷に帰ってきたらこのザマだ。はあ……どうしてこうなった? なんか最近、ことごとく物事が思った通りにいかない。全て期待を裏切るように逆方向へ向かっていく。……って、待てよ? この美人の鎧はなんか白系だし、もしかしたら国を守る系騎士かもしれない。それが俺のところに攻めに来て勝負を仕掛けてくるってことは、もしかすると俺が悪だと認知された……? 国にまで認知されるのは時期が早すぎる気もするが、まあそんなことは些細な問題だ。俺が悪人であるとようやく皆が認め始めたと言うことだからな! くくくっ……ようやくここから俺の悪役道が始まるな……。


「いいだろう。そんなに俺と勝負したいのなら、受けて立とう。コテンパンにしてやる」

「ふっ……詐欺師にしては威勢が良いですね。だけどこの零式騎士団団長の私に勝てますか……?」


 零式騎士団団長だって? なんかよく分からないけど、強そう。ゼロの名を冠する部隊は大体強いって、前世の日本では決まっていたからな。それなら相手に不足はなし。……いや、本当に勝てるのか? ここで負けたら一瞬で牢屋行き、悪役道も途絶えてしまうのでは? 悪役は誰にも捕まらず、自由の元で悪を成すものではないのか? ……流石にレベル800超えとかないよね? まだ俺、800いってないぞ。この世界のレベル帯は知らないが、国のトップだったら流石にカンスト前提とかじゃないのか……?


「あ、ちょっと待て、いったん考える時間をくれ」


 仕方がないから俺は待ったをかけた。これは入念な準備が必要だ。前々から手に入れていたアイテム【ブブブの実】を使った方が良さそうだからな。それを使えば一時的にレベルを上げられる。俺のレベルならカンストまでいけるはずだ。そうすればトントンか……? 分からないし不安は募るが、ここで負けるわけにはいかないのだ。


「なんですか、怖じ気づいたのですか?」

「……む、そんなわけない」

「なら考える必要なんてないでしょう? さっさと始めますよ」

「……いいぜ、やってやる!」


 我ながら単純だと思うが、口車に乗せられて準備なしで戦うことになった。いざ負けたとなっても、まあ捕まる前に隣国に逃げ出そう。そうすれば捕まえに来られないはずだ。


 俺はレベリングで使っていた剣【アーカディア・ソード】を取り出した。これは一見平凡な見た目なのに、単純に攻撃補正力が圧倒的に高いという、非常に使い勝手の良い武器だ。入手方法も簡単だしな。それに対して騎士団長さんの武器は鍛治師のオーダーメイド品らしかった。見たことない見た目だしな。オーダーメイドだとスキルが付与されていたりするから、やっかいなんだよな。


「それでは、コインが落ちたら試合開始としましょう」


 騎士団団長さんはそう言って親指でコインを弾いた。クルクルとコインが回り地面に落ちていく。


 ――カツン。


 音が鳴った瞬間、騎士団団長さんが駆け出した。


 はっ……はや、速くない?

 なんだこれ、めちゃくちゃ遅くないか?

 レベル150前後くらいの速度だぞ。


 俺は近づいてきて剣を振るう騎士団団長さんの攻撃を軽々避ける。


「……なっ!? これを避けますか……っ! なかなかやるみたいですね!」


 いやいや!

 そんな驚くレベルじゃないって!

 避けるだけなら俺の領地の村人たちでもできますが!?


「では、これはどうですか!」


 そう言って発動された剣術スキル【ソード・ダンス】。等級は中級だ。うん、余裕過ぎるな。目で見て回避余裕でした。


「これも避けるんですか……!? なんて反応速度ですか……!?」


 驚愕した声を出して、騎士団長さんはバックステップで下がった。う~ん、あっけなさ過ぎる。本当にこれが国のトップ……? いや待てよ。もしかして零式騎士団ってそのままの意味で、一番弱い騎士団ってことか? まあ日本とこの世界では文化が違うだろうしな。ゲーム時代も騎士団には触れていなかったから、独自の文化が形成されていてもおかしくない。


「ここまでとは思いませんでした……。しかし私にもプライドがあります。ここで引き下がるわけにはいかないのです」

「いや、引き下がってくれると助かるんですけど」

「こうなったら、私のとっておきを見せてあげますよ! ここまでやったのは久しぶりですね!」


 いや、無視かい。俺は思わずげんなりしてしまう。もしかしてこの人、人の話を聞かないで勝手に勘違いして突っ走るタイプか?


 そして騎士団団長さんは大きく剣を振り上げた。……このモーション、もしかして。俺は次に使われるスキルを予想して、そして――。

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