第10話 墜ちたスキンヘッドたち

「ルーク様! 俺たちもルーク様に一生ついて行きます! 卑しい身ですが、なんなりと使ってください!」


 どうしてこうなった……。


 俺は現在、《地下迷宮》のモンスターハウス前に広がる光景に困惑していた。悪人だと思っていたダン伯爵の手下のスキンヘッドの男とその部下たちが、俺の前に跪いて忠誠を誓っているのだ。最初は俺同様、彼らもレベリングに嫌気が差していたように思えたが、十時間ほど経ち彼らのレベルが三桁を超え始めてからおかしくなってきた。徐々に取り憑かれたようにレベリングに精を出し始め、いつしか俺を崇めるようになっていったのだ。


「いや、そんな必要ないから。ついてこなくていいから」


 俺は突き放すように言う。悪人じゃなくなったスキンヘッドの男たちなんて俺には必要ない。何の価値もないからな。悪人だったらともに悪を極めようとか言ったかもしれないが、こうして自らへりくだるような人間は悪として認めない。絶対にだ。そしたら男たちは泣き叫びながら俺に縋ってきた。


「後生ですから! 確かに俺たちは悪人だったかもしれませんが、心を入れ替えてルーク様に仕えます! 何でもします! だからこのレベル上げを教えてくれた恩を返させてください!」


 だからぁ! 心を入れ替えちゃ駄目なんだって! 俺は悪人としての矜持をお前たちに求めてるの! そもそもレベリング教えたの、俺じゃなくて村長だから! 俺、ただ嫌々見てただけだから!


 そんな会話のキャッチボールが続き、疲弊してきた。もう頷いてしまってもいいのではないかと思い始める。頭の片隅で悪としての矜持がとかいろいろ叫んでくるが、疲労感の方が強すぎてその叫びも掠れてくる。……はあ、仕方がないか。


「分かった分かったから。俺についてくるのはいいから、好きにして」

「ああっ! ありがとうございます、ルーク様! こんな卑しい俺たちにも慈悲を頂けるとは!」


 お前たちが強引だったせいだからね? 俺の慈悲のおかげじゃないからね? そこ、勘違いしないでね? 悪役の俺に慈悲とか一番いらないものだからね?


「そういえば、お前たちはダン伯爵はどうするんだ?」

「ああ、あのオッサンですか? もちろん離反ですよ、あんなクズ」


 元部下にオッサン呼ばわりされるダン伯爵、可哀想。しかし思った通りダン伯爵はクズなのか。それはいいことを聞いた。俺は心の中でほくそ笑むと、スキンヘッドの男たちに言った。


「そうか。だがまだ離反の態度は見せなくていい。ダン伯爵にすり寄るんだ」


 そして悪役として仲を深められるように取り計らってくれると助かるよな。俺の言葉に男たちは生真面目な表情で頷くと言った。


「分かりました! そういうことでしたら、俺たちにお任せください! 必ずしも任務を達成してきます!」


 おおっ、ものすごいやる気だ! 男たちともようやく心を通じられたか……。良かった良かった。俺はそう思って、ダン伯爵のことは男たちに任せることにして、しばらく放置するのだった。このとき、酷いすれ違いをしていることに気がつかないまま――。



+++++



「ここがエレクトリア男爵家の領地ですか……。なかなか淋しいところですね……」


 ルークがスキンヘッドの男たちと戯れている頃、エレクトリア男爵家の領地に一人の女性が降り立った。彼女は零式騎士団の騎士団長サーシャだ。ようやく休暇が手に入ったので、はるばる王都からエレクトリア男爵領までやってきたのだ。


「さて、早速ルークさんを探しますか。そして彼が本当に強いのか確かめなければ」


 そうしてサーシャは屋敷に向かって歩き出した。表情は真剣、その手は剣の柄にそっと触れていた。


 もちろんルークはまだそのことを知らない。またもやルークの胃が痛くなるような出来事が近づいていることに、彼はまだ気がついていないのだった。

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