第9話 ダン伯爵家の受難の始まり
「どうしますか、親父。これじゃあ武力を見せつけても無駄そうですよ……」
「……そうだな。だがここで仲介料を取る契約を交わせないのもマズい。ダン伯爵は過激だからな」
村人たちがブラッディ・オーガ相手に無双しているのを眺めながら、ダン伯爵の手下たちはそうコソコソ話し合っていた。あー、やっぱりあいつらレベル上がりすぎだよな、と心の中で謝る。悪役としての手腕を見ようと思っていたのに、俺のせいで難易度が爆上がりしてしまったらしい。悪役仲間として嫌われたりしないだろうか? そう不安に思っていたら、スキンヘッドの男が貼り付けた笑みを浮かべ手を揉みながら近づいてきた。
「ルーク様。少し村の代表と話をしてみたいんで、紹介してくれませんかねぇ」
「代表? まあ、もちろんいいけど」
村長と話してどうするんだろう? もしかして俺が想像もできないようないい搾取案でも思いついたのだろうか。領地の発展を促しつつ搾取も続けられるような作戦を。だったら流石にその作戦の手伝いをしなきゃいけないよな。俺はそう思ってワクワクしながら男たちを村長のところに案内した。
「……って、村長ムキムキになりすぎじゃない?」
前までは腰の曲がった弱々しい老人だったはずだが。レベルが上がったからなのか、ムキムキの快活そうな老人になっていた。二の腕とか十二歳の俺の胴体くらいあるけど。それを見たスキンヘッドの男たちは絶句し口元を引きつらせている。そりゃそうなる。
「がははっ! いやぁ、これも全てルーク様のおかげでなぁ! 流石はルーク様よ! ……って、その方々はどなたです?」
ふとスキンヘッドの男たちに気がついた村長は、そう尋ねてきた。俺はダン伯爵から送ってもらった領地発展の手伝いだと教える。すると村長は顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ……そなたら、鍛えておるか?」
そう聞かれたスキンヘッドの男たちは顔を強ばらせながらも答える。
「あ、ああ。ある程度は鍛えているが」
その言葉を聞いた村長は突然男たちに近づいて、その二の腕を触った。
「むっ……! これはプニプニではないか! まだまだ鍛えが足りないのではないか!?」
いやいや、アンタら基準にしちゃ駄目でしょ。俺から見ればこのスキンヘッドの男たちでも十分鍛えられているが。しかし村長はそれでも満足しなかったのか、男たちにこう続けて言った。
「これは鍛えなければならないな! よしっ! ルーク様直伝のレベル上げをともにやろうではないか!」
そんなわけでなぜかみんなでレベル上げすることになった。俺も男たちも困惑していたが、村長の押しの強さに負けて、結局流される形になるのだった。
+++++
「もうヤダ、帰りたい……」
それから数時間後。スキンヘッドの男たちはモンスターハウスの片隅で震えていた。レベルは多少は上がったみたいだが、流石にゲーム時代ですら苦行と呼ばれた廃人用レベル上げチャートはキツかったみたいだ。――なんか普通で安心した。てか、この反応が当然なんだがな。なんで村人たちはこうも軽々このレベリングができるんだろう。最近では十歳前後の子供もやってるみたいだし。
「……親父、どうしますか? ここに居続けたら俺たち死んじまいますよ」
「そんなこと分かってる。でもこいつらから逃げられると思うか?」
「……いえ」
「だろう? こんな狂った領地だなんて知らなかったぞ。知っていたら絶対に仕事受けなかった」
何か男たちがぼそぼそ言っているが、クリーチャー・ワームの移動する地響きが大きすぎて聞き取れなかった。まあ大したことじゃないだろう。しかしこのレベリング、いつ終わるんだろうな……。もう帰ってゆっくりしたいな。疲れた。
結局、そのレベリングはさらに数時間も続き、俺も男たちもすっかり疲弊してグッタリしまうのだった。
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