第8話 強くなりすぎた村人たち
それからさらに一ヶ月が経過した。村人たちはレベリングを教えてからほぼ毎日レベルを上げ続けているみたいだった。おかげで続々とレベル三桁超えが出始めている。なんで苦しまないんだよ。なんで積極的にあの苦行をしようとするんだよ。俺はおまえらが怖いよ。ドMなの? 苦しいことをして楽しめるタイプの人間なの?
そんなこんなで、みなからさらに感謝されしまい、税を上げようとしても逆にそんなんでいいんですかと聞かれる始末。いやいや、それ以上貰ったってこの領地じゃ使い切れないから。こんな田舎で金銭いっぱいあっても身に余るから。それならもっと領地が発展して、たくさん人が集まるようになってから搾取するから。
そんなことを思いつつ、どうあがいても悪としての改善がしようがないので、この方法は諦めて次なる支配方法を考えていると、うちの屋敷に客人が来た。どうやら隣の領地のダン伯爵の執事さんみたいだ。どうしてこんな田舎の見捨てられたような領地に来たのか、ちょっとよく分からないが、とりあえず執事さんを客間に案内して話をする。
「すいません、メイドもいないもので、紅茶も淹れられないんですが」
「いえいえ、それは構いませんよ。そちらの事情はそれなりに把握させて貰ってますから」
ほお、流石は貴族。すでに俺が当主になったことやメイドなどを追放しまくったことは全て筒抜けなのだろう。なら話は早い。俺はこれから領民に対してあくどいことをするつもりだからな。協力者になれそうなら引き入れるし、善性の貴族なら協力は諦めてお引き取り願おう。様子見のジャブを打つために、俺は彼の顔色をうかがいながら慎重に言葉を紡いだ。
「こちらの事情を把握しているのなら、どうしてこんな何もないところまで来たのでしょう?」
「それは貴方様の事情を鑑みたダン伯爵様がですね、是非協力させていただければと申しておりまして。ともに領地の発展を目指していきたいと思っております」
それを聞いた俺は思わず感動していた。ダン伯爵はおそらく貴族だし悪い奴だろう。それにこちらの事情を把握しているなら、俺が領民から搾取しようとしていることも知っているに違いない。貴族の情報網は凄いとよく聞くからな。その上で協力を申し出てくれるということは、やはりともに悪として悪逆非道の数々を行っていきたいという意思の表れなのだろう。なんて素晴らしい人なんだ、ダン伯爵! 俺は感激して思わず立ち上がり、執事さんの手を握っていた。
「それは素晴らしいですね! 是非一緒に領地を発展していきたいです!」
そして発展した領地から好きなだけ税を搾取し、豪遊の限りを尽くすのだ。そのときにはダン伯爵も一緒に豪遊して貰おう。やはり発展できれば恩があるということだからな。いくら悪役だとしても、悪としての矜持を忘れてはならない。
俺の言葉を聞いた執事さんはあくどい笑みを浮かべ、右手を差し出してきた。やはりこの人も俺と同じ悪の人間なのだろう。この表情は普通の人間には絶対にできない。
「ええ。よろしくお願いいたしますね、ルーク様。すぐに我が領地に帰って、準備を整えてから、有用な人間を幾人か送らせていただくので、是非採用していただければと思います」
そして俺たちは互いにあくどい笑みを浮かべて握手を交わし、契約が成立した。くくくっ、やはり悪役たるもの、一人ではなく同志も必要だよな。悪役仲間……ああ、最近失敗ばかりで落ち込んでいたが、ようやく俺にも運が向いてきたみたいだ。
+++++
それからすぐにダン伯爵の手下が送られてきた。伯爵の家紋が入った馬車から降りてきたのは、これまたメチャクチャ悪そうな厳ついスキンヘッドの男だ。ぱっと見、山賊か何かだって言われても違和感がないような人相をしている。
「よお、ルーク様。ダン伯爵から仕事を受けてきたぜ」
まさしくな粗野な言葉遣い! 俺はこのザ・悪党みたいな人選にただひたすら感動していた。流石はダン伯爵だ。よく分かっている。やはり悪役はこうじゃなきゃな。
「おお、助かる! すぐに領地発達の仕事をして貰いたいんだが!」
俺が言うと、男は指を鳴らした。すると馬車からゾロゾロと数人同じく悪そうな人相の男が降りてくる。
「こいつらは?」
俺が尋ねるとスキンヘッドの男はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「こいつらは俺の部下だ。馬鹿だがかなり使えるぞ」
「そうか! それは心強いな!」
「だろう? というわけで早速、この領民たちの様子を確認したいんだがいいか?」
男は企むような笑みでそう言う。ふむふむ、現地調査は大事よな。なんか男の部下が小声で男に『親父。このガキに悟られないように領民どもに武力を見せつけ、仲介料をたんまり奪えばいいんですよね?』とか聞いていたが、やはりダン伯爵も俺と同じ考えをしていたみたいだな。気が合うじゃないか。だがその方法は俺にはまだ無理だったから、ダン伯爵の悪としての手腕を見せて貰うとしよう。そこまで考えて、俺は男の問いに頷いて答えた。
「ああ、もちろんだとも。それじゃあすぐに案内しようか」
そして俺はその馬車に乗り込み、屋敷から一番近くの村に行く。——あっ、そういえばここ最近村に行ってないけど、大丈夫か? 前にレベリングを教えてから、みんなかなりハマっていたみたいで、レベル上げをしすぎていないといいけど……。
だが俺の杞憂は現実となる。
「グォオオオオオオオオオオオォオオ!」
「はははっ! ルーク様のおかげでブラッディ・オーガなんてイチコロだぜ!」
村人たちがブラッディ・オーガに対して
「なっ、なっ、なっ! なんだ、あれは……!」
「親父、ただの村人がブラッディ・オーガ相手に無双してますよ……!」
「どうなってるんですか、この村は!」
ええと、どう説明したものか。俺は彼らが驚きすぎて、思わず困って頬をかいてしまうのだった。
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