第6話 苦行のレベリングをさせるぞ!

 あれから圧政を敷こうといろいろな村に行って武力を見せつける方法を試していったが、ことごとく感謝され、逆に食べきれないほどの食事を振る舞われてしまった。それで反省した俺は、村人どもに新たな恐怖を与える方法を思いつき、それを実践しようと再び村を訪れていた。


「くくくっ……今度こそは失敗しないぞ!」


 俺はそう意気込んで、早速村に足を踏み入れる。すると村人たちがそれに気がつき、意気揚々と寄ってきた。


「ルーク様! 来てくださったんですね!」

「おおっ、我らが救世主様だ!」

「この間はありがとうございました!」


 みな感謝の言葉を伝えてくる。しかしそんな悠長にしていていいのか? 俺はおまえらに苦行を与え、心を疲弊させた挙げ句、圧政を敷こうとしているんだぞ? そんな感謝できるのなんて今のうちだぞ? 俺は頭の中でそうほくそ笑みながら、表ではにこやかな笑みを浮かべて近づいて言った。


「君たち。君たちも強くはなりたくないか?」


 唐突にそう聞くと、みな一斉に目を輝かせた。そして村人の中でも一番ガタイのいい男が代表して聞いてくる。


「それってもしかして……ルーク様が直々に俺たちを強くしてくれるってことですか!?」


 みな期待の視線をこちらに向けてくる。これがすぐに苦痛に歪み非難の視線に変わると思うと心躍る。しかしそんなゲスな考えは心の内に仕舞い、ニッと口の端を持ち上げると、俺はただ頷いた。


「「「うぉおおおおおおぉおおお!」」」


 大歓声が起こった。凄い熱量だ。


「ルーク様が直々に見てくださるとは!」

「これで《ブラッディ・オーガ》が来ても怖くない!」

「村人の俺たちだって強くなれるかもしれない!」


 一様に心躍らせているが、このやる気がいつまで続くか見物だな。今から行うレベリングは、ゲーム時代でさえもキツすぎて、廃人しか使わないとまで言われたチャートなのだからな。こいつらはすぐに根を上げることだろう。


「レベリングしたい人たちは、まずはこの《スキルの書》を使ってくれ」


 そう言って俺は、背負っていた布袋から地面に大量の古びた書物を取り出し、放り投げる。この世界ではスキルを手に入れるには《スキルの書》を読む必要がある。俺が床に放り投げた《スキルの書》は二つ。《防御除去》と《ファイア・フラワー》だ。レベリングではこの二つのスキルを使う。


「わざわざ俺たちのためにルーク様が用意してくださったんですか!?」


 その大量の《スキルの書》を見た村人たちは驚きの声を上げた。俺が用意したのは間違いないが、別にそこまで難しいものじゃない。その二つのスキルは所詮中級スキルだからな。いくらでも手に入れられる。そう思っていたのだが——。


「……っ!? これ、中級の《スキルの書》じゃないですか!?」

「中級だって!?」

「本当だ! 凄い、中級の《スキルの書》なんて初めて見た!」


 ……あれ? 中級でその反応? そんな馬鹿な。中級の《スキルの書》なんてレベル三桁で卒業するレベルだぞ。村人たちの反応に若干の違和感を覚えたが、俺は考えるのが面倒くさくなってすぐに違和感を放棄した。


「さて、その二つのスキルを入手したら、《地下迷宮》に向かうぞ」


 俺がそう言うと、村人たちはみなスキルを入手し始めて、準備を整えるのだった。



   ***



 やってきたのは《地下迷宮》のさらに奥の方にある《モンスターハウス》だ。ここのモンスターハウスには《クリーチャー・ワーム》が大量に湧き、こいつらを狩り続けるのが廃人用最速レベリングチャートだ。ここの弱点はなんと言ったって《クリーチャー・ワーム》がキモすぎることだ。白いブヨブヨした肉体に、顔のない顔。ウヨウヨと蠢きながら近づいてくる様は、ゲームのグラフィックでもクルものがあった。


「さて、まずは俺がお手本を見せてやる」


 俺は村人たちを引き連れて《モンスターハウス》に入ると、そう言った。すぐに次々と湧いてくる《クリーチャー・ワーム》。ものすごい地響きを立ててそいつらは俺らに迫ってきた。それを一旦 《防御除去》で硬すぎる外骨格の防御力を下げ、すぐさま《ファイア・フラワー》を打ち込んだ。バチバチと花火が花開き、迫ってきていた十数匹の《クリーチャー・ワーム》は息絶えた。


 この《クリーチャー・ワーム》はレベル543の魔物である。外骨格の高すぎる防御力と、次から次へと大量に湧いてくる物量が危険な魔物だった。しかし《防御除去》という中級スキルを使えば、3秒間だけその外骨格の防御力をゼロにできる。そうすれば低レベル帯の人間でもワーム系の弱点である炎系の魔法スキルで一掃できるようになる、って寸棒だ。


 苦行と呼ばれる所以は、絶え間なく迫ってくるワームたち、そして三秒で切れる《防御除去》と、気持ち悪い外見などだ。おそらく村人たちも今頃その大変さに気がつき、慄いているだろう。


「こうやってやるんだぞ。みな、やってみろ」


 俺はほくそ笑みながらそう言って振り返った。さぞ苦しそうな、今すぐにでも逃げ出したいような表情をしているに違いない。まあ逃げ出したかったら逃げ出せばいい。そうしたら晒し者にしてそいつだけ税を上げてやる。そう思っていたのに——。



 なぜかみなのその顔はやる気満々なのだった。

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