第4話 悪役、権力を手に入れる
転生してから二年が経った。母親が解雇しすぎたせいで屋敷には全くメイドがいなくなり、エレナが自分の父親にチクったせいで元々ギリギリだったらしい豪商との関係性にもヒビが入り、領地にやってくる商人もかなり減った。
転がり落ちるように領地が不景気になっていった我が家は毎日ピリピリしている。しかしこれこそが俺の求めていた悪役家の雰囲気だ。常に気を抜けない状況。少し疲れるが、最高に生きてるって感じがする。善人ぶっていた前世とは大違いだった。
そんな時、朝食中に突然両親に呼び出された。
俺は食べ終えると、早速父の執務室に向かう。
そこでは父と母が真剣な表情で待ち構えていた。
「ルークよ。お前はもう12歳だな?」
「はい、そうですけど……」
唐突な話題に俺は困惑する。去年と今年は一切誕生日とか祝われなかったのに、どういう風の吹き回しだろう? 俺が首を傾げていると、父は俺に一枚の書類を差し出した。
「ルーク。そこにサインするんだ」
見てみると、爵位の譲渡書だった。そんな馬鹿なと思って見直しても、やっぱり爵位の譲渡書だった。俺のこの身体はまだ12歳だぞ? 確かに精神年齢はアラサーだが、側から見れば成長期すら来てない子供だぞ?
だが、逆にこれは自分にとって好都合な展開かもしれない、と思い直す。やはり悪役たるもの、分不相応な権力が必要だからな。12歳で男爵家当主。圧政を敷き、領民どもからは税を搾取し、反抗するものには武力で屈させる。うん、まさに悪徳!
俺は内心ほくそ笑みながら、その契約書を手に取り、よく分からない風を装ってサインをした。
「これで良いですか、父様?」
「ああ、大丈夫だ。それと、俺たちは明日から遠くに出かけるから、当分帰って来ないかもしれない」
え!?
マジかよ、好き放題して良いってこと!?
父の実質的なもう帰ってこない発言に思わず狂喜乱舞しそうになる。だがすぐに冷静になり、俺は無垢なフリをして頷いた。
「分かりました、父様。その間、うちのことは僕に任せてください」
ここで帰ってこないことを喜ぶと、不審に思われるかもしれないからな。迂闊に不審に思われて襲爵出来なかったら意味ないし。
「頼んだからな。それではもう出ていいぞ」
父に言われ、俺は執務室を出た。ちなみに、最近ヒステリックで物に当たり散らかしまくっていた母も、どこか晴れやかな表情をしていた。そりゃあ、こんな地雷みたいな領地を抱えたままなのはかなりのストレスだったのだろう。
しかし、転生してから俺の都合のいい感じに進んでいくな。こうも簡単に悪役に必要であろう権力と立場を手に入れられるとは。もう少し時間と手間が掛かるかと思っていたぞ。
さて、両親がいなくなる明日から早速動き出すとするか。とりあえず己の武力をちらつかせて圧政を敷き、領民どもからの搾取を始めようじゃないか!
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