【1】酒と星と縁側と

 「春だねぇ」


 月下、桜の花弁が庭に舞う。


 酒器に注いだ焼酎が、一口グイッと喉を越す。じんわり焼ける喉元。火照る身体の肩を寄せ合って同じ夜空を見上げていた。


 「あ、流れ星! えーと、願い事何にしよ、願い事何にしよ、願い事何にしよ」


 妻が感嘆の言葉を漏らしている間に、流れ星は消えていた。


 「!?…おい待てゴラァ!」


 気性が荒い妻である。


 「大丈夫、俺が代わりに願っておいた」

 「マジで! じゃあいっか」


 再び酒器に口を付ける。火照った身体を冷ますような夜風が優しく吹き抜け、妻の長髪を撫でる。


 「……眠いかも」


 妻がふと口にする。


 時計の針は十一時を回っており、確かに俺も眠気を感じてきた頃合だ。


 「じゃあ部屋に戻るか」

 「んーん。ここで寝る」

 「ここって、縁側でか? 風邪ひくぞ」

 「焼酎であったかいから大丈夫〜」


 そういうと妻は縁側に身体を寝かせ、俺の膝にゴロンと頭を乗っけた。


 「おやすみ…」

 「あ、おい…」


 それ以上は互いに何も言わなかった。


 しばらくすると、妻は眠りに入ったようで、すーすーと静かに寝息をたてている。


 綺麗で可愛らしい寝顔につい笑みが零れる。気づけば俺も座ったまま寝ていた。


    〇


 ……あ。


 いつの間にか寝ていたらしい。

 

 いっけね、真澄に流れ星を見つける約束したのに。


 幸いまだ夜は更けておらず、星は変わらず夜空を明るく照らしていた。


 欠伸をして目を擦って、再びぼんやりと星空を眺めていた。


 一分、二分、三分、四分、五分。

 ……欠伸。

 六分、七分、八分、九分。

 ……欠伸。

 十分、十一分、十二分。

 ……欠伸。


 口を大きく開けていた時だった。


 流れ星だっ!


 開いた口を無理矢理閉じ、両手を力強く組む。そして心の中で三回願い事を唱えた。その願い事は真澄に託された願い事でもあり、元より俺の願い事でもある。


 妻が良くなりますように

 妻が良くなりますように

 妻が良くなりますように

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宇宙人、星になる マネキ・猫二郎 @ave_gokigenyo

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