1176 救世主と、どこまでも利己的な人間

 そんな権利がない筈の警備員なのに、職権乱用をかまし、好き勝手な事をする桜井さん。

そのあまりの態度に眞子は完全なまでに呆れ返るのだが、このままじゃあ施設内に入れないのも事実。

そう思っていたら、奈緒さんの知り合いである鮫島さんが現れて……


***


「あぁ、隊長。良い所に来てくれたッス。この奈緒グリのしつこいファンが『中に入れろ。中に入れろ』って、さっきからうっさいんッスよ。なんとかして下さいよぉ」

「あぁ……ドイツだよ?奈緒ちゃんの害になる様なファンなら、俺が追っ払ってやるよ」

「あぁ、そうッスか。マジ、助かります。……因みに、そこの女がそうッス。その女が、何度注意しても一向に帰ろうとしないし、奈緒グリのメンバーに呼ばれたとか嘘八百を並び立てる、かなり悪質なファンなんッスよ」


……腹立つなぁ。


いやまぁ、しつこいファンって言われるのは、まだ100歩譲ってしょうがないんだろうけど。

それを言い終わった後、なにを鮫ちゃんの後ろに隠れて、鮫ちゃんには見えない様にしながら『アカンベー』してるのよ。


ホント、この人だけは腹が立つ人だなぁ。


子供かアンタは!!



「おい、アンタ。悪いけどなぁ。此処は……」

「あの、失礼ですが。もしかして、鮫島さんではありませんか?」

「うん?あぁ、俺は鮫島だが……なんで、俺の名前を知ってる?」

「あぁ、はい。いつもウチの姉から、鮫島さんの事は、よくお聞きしてますから。姉が、いつも、お世話になっております」

「姉?……あぁ!!アンタ!!よく見たら、奈緒ちゃんの妹の鞍馬ちゃんじゃないか!!なに?どうしたの、こんな所でなにやってるんだ?HELPで来たんなら、さっさと中に入れば良いじゃないか」

「ゲッ!!マジかよ!!……ヤベェ~~~」


だから、最初から言ってるのに……人の話を聞かないからだよ。


こう言うのを自業自得って言うんですよ、このオッパイ好き好き魔神。



「あぁ、はい。実はですね。奈緒ネェにHELPを頼まれまして演奏をしに来たんですが。そちらの方が、私の話を聞いて頂けなくて、此処で、誰か来るのを待ってた次第なんですよ」

「なに?……オイ、コラ、桜井!!テメェは、もぉクビだ帰れ!!奈緒ちゃんの大切な妹を、こんな所で待たせるなんて、どう言う了見だよ!!ブッ殺すぞ、テメェ!!」


おぉ……相変わらずの熱い血潮が滾る熱血マンですね。


中々、暑苦しいですよ。



「いや、鮫島さん、違うんッスよ。俺、知らなかったんッスよ。それに、そんな話は聞いてないッスよ。なんッスか、それ?」

「テメェ、業務命令も聞いてねぇのか?さっき「奈緒グリのHELPが来る」って無線で連絡入れただろうが!!そんでオマエは『はい、解りました~~~』とか言ってたじゃねぇか!!なに聞いてんだテメェわ!!」


あぁ、なんだろうね?

この国見さんの甥っ子さんが、その返事をした時の光景が、綺麗なまでに目に浮かぶのは何故だろうね?


きっと、タバコを吹かしながら。

更に馬鹿みたいに大きな口で開けて欠伸をして、適当に『はい~~ッス』とか言ってる姿が、今、鮮明に浮かんだんだけど。


これって、気のせいなのかな?



「あぁ、あれって、そう言う意味だったんッスか?HELPの意味がわかんなかったから、適当に返事したんッスよ。すんませんねぇ」

「オマエ、マジで殺すぞ!!真面目にヤル気がねぇなら、給料無しで、マジで帰れ!!テメェが、金がねぇって縋ってきやがったから、無理矢理、この現場に捻じ込んでやったって言うのによぉ。恩を仇で返す様な真似しやがって。ふざけんじゃねぇぞ!!」

「ちょ!!ちょっと待って下さいよぉ。俺、これでも真面目にやってたッスよ。給料無しとか、マジで有り得ないんッスけど」

「嘗めやがって……オマエの、どこが真面目だ!!なにが給料無しが有り得ねぇだ!!人を嘗めんのも、大概にしろよ!!」

「いやいや、嘗めてねぇッスよ。ただ単に、正当な報酬を要求してるだけじゃないッスかぁ」


正当な報酬?


女子にオッパイ揉む事を要求するのが、此処での仕事なの?

そりゃあまた変わった仕事だね。


警備員の仕事は、AV関連の仕事じゃないと思うんだけど。



「あぁ、そうかよ。んじゃあ、もぉ良い。そこまで反省しねぇってんなら、もう国見さんに連絡ッスから」

「ちょ……隊長!!それだけは勘弁して下さいよ!!こんな事が叔父貴に知られたら、俺、マジでブッ殺されちまうッスよ!!良くて半殺しッスよ!!」

「知るかボケ。いい加減なぁ。テメェの尻ぐらいテメェで拭けな。21にも成って、いつまでも社会を嘗めてんじゃねぇぞ!!」

「いや、じゃあ謝りますよ。だから、叔父貴に連絡するのだけは勘弁して下さいよぉ。マジであの人はヤバイんッスよ」

「ダメだ。テメェは、一回、国見さんに締められて来い」


あの……

お話中、非常に申し訳ないんですが……国見さんって、そんなに怖い人なんですか?


まぁ言えば、真琴ちゃんのお父さんも、遠藤さんのお父さんも両方を知ってる様な人だから、マトモな人じゃないとは思ってましたけど。


そんなに怖いんですかね?



「あの、鮫島さん。もぉ良いですよ。終わった事は許してあげて下さい。この方も、これから頑張るって言われてるんですから、そこを信じてあげましょうよ」

「へっ?鞍馬ちゃん、この馬鹿を許すの?」

「あぁ、いや、許すもなにも。業務命令が解らなかったのは大きな問題だとしてもですね。この方が、此処に私を留めたのは、ある意味、業務に忠実だったからこそ止めたんだと思うんですね。だから決して、不真面目では無いと思うんですが。……そう言う見解なんですけど、如何なものでしょうか?」

「そうッスよ、そうッスよ。その子の言う通りッスよ。俺、ホント、真面目にやってましたよ、隊長。だから、叔父貴と、給料なしは勘弁して下さいよぉ」


ちょっと可哀想かなぁって思ってフォローしてみたんだけど、こりゃあ、フォローをする人間の人選を誤ったかな?

この人って、フォローするに値しない、なんて利己的な人なんだろう。


此処まで酷い人間は見た事がないよ。

大体にして、今の段階で、普通、自分の給料の話なんかする?


そりゃあ、お金に困ってるのは解るんだけど、今、その話をしちゃあダメでしょう。

まずは、なにもかにもを捨ててでも、今は誠心誠意、謝罪すべき時なんじゃないの?


それを差し置いて、そんな話が平然と口から出て来るなんて、この人……ヤクザ以下のクズだよ。


それとも、私が良い人に出会い過ぎて、感覚が麻痺してるのかなぁ?


普通は、こんなもんなのかなぁ?


もしそうだったら、本格的に嫌な世の中になっちゃったもんだね。



「チッ……まぁ良い。鞍馬ちゃんを、いつまでも、こんな所に留めて置く訳にはイカネェからな。テメェの処遇は後回しだ」

「あぁ、そうッスか。じゃあ、それで」

「チッ……コイツ、マジで反省もしてやがらねぇ。……あぁ、鞍馬ちゃん、こんな馬鹿は放って置いて良いから、中に入って良いぞ」

「あぁ、はい。ありがとうございます。……ですが。この方は、今から、どうされるんですか?」


心配は、なにもしてないよ。


だって、さっきの、この人の言葉で、もぉそんな心配をする気力すら、全部、綺麗に無くなっちゃったからね。


寧ろ、もぉする気もない。

出来れば、こんなダメ人間には、これからも一生関わりたくないからね。


でも、もしもだよ。

この人の様な人間がが、今の若者の基準なんだったら、今後の為にも色々知って置かないといけない事もある様な気がしてならない。


だから、こう言う質問をさせて貰ったんだけど、どう言う解答が返って来るんだろうね。



「コイツか?まぁ、コイツは、鞍馬ちゃんを、奈緒ちゃんの元に行かせた後でタップリと説教だな。それで、その後は、此処も人手が足りないから、業務に戻らせるつもりだが」

「えっ?あっ、あの……差し出がましい様なのですが。そんなので大丈夫なんですか?またこの人が同じ様な事を繰り返したら、どうなさるんですか?」

「なんだ急に?どうして、そんな質問を?」

「あぁ、いえ。今の若い人って、皆さん、こう言う方バカリなのかなぁって疑問に思いましたので、こう言う、不躾な質問をさせて頂きました」

「そうか。けどまぁ、今時の若い奴ってのは、大概こんな奴ばっかりだな。ヤル気が無くて、保身的で、利己的。その上、自分の都合の悪い事は全部後回し。こう言う奴は、そんなに珍しくはないな」


そう……なんだ。

こう言う劣悪な人種が、意外にも、今の世の中ではデフォルトなんだ。


でも、なんて情けない話なんだろうか。

敢えて言えば、そんなものカスじゃないですか。



「あぁ、そうなんですか。なんか残念ですね」

「まぁ、それが時代の流れって奴なんだろうな。……実際の話で言っても、奈緒ちゃんの周りに居る様な出来た人間の方が、最近じゃ非常に稀なタイプだからな」

「そうですか。なんか、それも悲しい話ですね」

「まぁ、しょうがねぇさ。甘やかされて育った人間なんて、所詮は、他人の痛みを全く知らねぇからなぁ。こんな風にしか育たない。……ってか、こんなツマラナイ話は終わりだ。早く奈緒ちゃんの所に行きな」

「あぁ、はい……じゃあ、失礼しますね」

「おぅ、頑張ってこいな」


なんか納得出来無いなぁ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


見事なまでの屑っぷり。

ですが世の中には、本当に自分の事しか考えれない人種と言うのが存在しますので、こういう人が居てもおかしくはないのかもしれませんね(笑)


まぁでも、そんな屑も、鮫島さんによって撃退され……た、までは良かったのですが。

矢張り、あまり反省している様子はなく。

眞子を呆れさせるどころか、哀れみさえ感じさせてしまいましたね。


さてさて、そんな感じでありながらも、これで漸く、関係者専用の入り口付近でも攻防は終幕。

漸く、奈緒さんの元に駆け付ける事が出来る様になったのですすが。


眞子、こんなテンションで大丈夫なんですかね?


次回は、その辺のメンタル面を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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