1177 乗らない気分

 鮫島さんのお陰で、利己的な桜井さんを撃退し、漸く東京ドーム内へ。

されど、あまりにも酷い桜井さんの態度に、これが現代の若者のデフォルトだと思うと、自然と気落ちしてしまう眞子であった。


***


 ……先程の出入り口での諍いのせいで、凄く不愉快な気分になっていた。

勿論、理由は、あんな人が社会に蔓延してるなんて夢にも思わなかったからだ。


確かに、なぁ~~んとなくは『そうじゃないのかなぁ』って思ってた節は有ったんだけど、あそこまで酷い愚劣な人を目の当たりにしたのは、産まれて初めてだったからね。


……って言うのもね。

私の周りに居て下さる方達は、確かに1癖も2癖も有る困った人達ばかりだけど、誰1人として、あんな馬鹿で利己的な人は居ない。

それに付け加えて、真琴ちゃんの実家に居る下っ端に人達でも、上下関係がシッカリしている分、アソコまで酷いボンクラな人は矢張り居なかったからね。

ヤクザとは言え、最低限度の人としてのモラルは守られていたと思う。

だから、そんな落胆する気持ちが抑えられなくて、この様な不愉快な気分に成っているものだと思われる。


けど、それと同時に私は、自分が『如何に世間知らず』なのかを、今更ながら思い知らされた気分にもなっていた。

非常に情けない話なんだけど、私はどうやら、自分の中の小さな世界にのみに眼を向けていたらしい。


なんだか、これから奈緒ネェ達と楽しい筈の演奏をする筈なのに、今じゃ気乗りすらしない。


嫌な感じだ。



……そうやってトボトボと廊下を歩いていると。

向こうの方から、休憩していた奈緒ネェが私を見付けてくれて、コチラに向かって来てくれた。


そんな奈緒ネェの顔を見て、少し安心する。



「お疲れ眞子。忙しいのに、無理言って、ごめんね」


そうだよね。

普通は、こう言う風に挨拶や、人を労わってから話をするもんだよね。


イキナリ自分の事を話したりはしないよね。



「あぁ、とんでもないです。奈緒ネェこそ、お疲れ様です。それと、遅くなって、すみませんでした」

「ふふっ、なに言ってんのよ、アンタは?全然遅くないし。電車で来たら、時間的にもこんなもんでしょ。だから今、入り口まで迎えに行こうと思ってた所なんだから」


そうなんですか?


……けど、今って、一体、何時なんですかね?

崇秀さんの店を出てから、怖くて一度も時計を見てなかったから、全然、時間感覚がなかったりするんですけど……


これが、もし、今の段階で、通常通りの時間って言うなら、一体、あの単車は、どんなスピードで公道を走り抜けてたたんだろうね?

あれだけ出入り口でイザコザを起こしてたのに、普通通りの時間帯だなんて、明らかにおかしいもんね。


もぉ考えたくもないや。



「あぁ、いえ。電車じゃなくてですね。崇秀さんに、バイクで、此処まで送って貰いました」

「あら、それはまた、ラブラブな事で」

「あぁ、はい。そうですね。でも、此処に入るまで、出入り口で1悶着があったので、これでも、結構、時間が掛かってるんですよ」

「そうなの。……けど、これ以上、時間の事は詮索しないで置くね」

「賢明だと思います」


はぁ……折角、奈緒ネェとお喋りしてるのに、なんだか、まだテンションが上手く上がらないや。


さっきの件が、私の中で、かなり引っ掛ってるみたい。


ダメだなぁ、もぉ。



「あぁ、それはそうと眞子。なんか、仲居間さんに送って貰ったにしてはテンション低いけど、途中で喧嘩でもしたの?」


また気を遣わせてしまってる。

奈緒ネェ、こういう関係には、矢鱈滅多ら鋭いからね。


だったら、これ以上、奈緒ネェに心配を掛けない様に、自らテンションを上げなきゃね。


本当にこのままじゃあダメだ、ダメだ。



「あぁ、いえ。崇秀さんは、いつも優しいですから、喧嘩なんてしませんよ」

「あぁっそ。それはよござんしたね。……けど。じゃあなんで、そんなにテンションが低いのよ?ひょっとして、本当に疲れてるの?」

「いえいえ、左程、疲れても居ませんよ。寧ろ、全然大丈夫です。頑丈ですから」

「あぁそぉ。じゃあアンタが、さっき言ってた『出入り口での一悶着』が原因だね。入り口で、なにがあったの?」


うぅ……ダメでした。


隠し切れずに、アッサリ全部バレちゃいました。



「あぁ、いえ、そんな大した話じゃないんですよ。だから、気にしなくても良いですよ」

「ハイハイ、大した話じゃないならサッサと言っちゃいなよ。そんなテンションで演奏なんかしても楽しくないでしょ」

「うぅ……すみません」


奈緒ネェは、いつも優しいね。

こうやって言葉を上手く回して、いつも私の話し易い環境を作ってくれる。


ホント……いつもいつも不甲斐無い妹で、すみません。



「……っで、なにがあったの?」

「あぁ、はい。実はですね」


私は、隠す事が時間の無駄だと知り。

先程の事の顛末を、洗い浚い、全て奈緒ネェに話した。


***


「……っと言う事があったんですよ。それでなんか、無意味にショックを受けちゃって」

「なぁ~~~んだ。なにかと思えば。そんな事で凹んでたのかぁ。そんなの『自分が、そうならない様にすれば良い』だけじゃない。それで話は、全部終わりなんじゃないの」

「あぁ、そう言っちゃえば、そうなんですけど。……それも、何か違う様な気がして」

「どういう事?『他人の振り見て、我が振り直せ』なんて、人としては基本中の基本じゃない。じゃあ、なにが違うって言うのよ?」

「いや、根本的な部分では、奈緒ネェの言う通りなんですけどね。なんか、それじゃあ、本当の意味で他人を見てない様な気がするんですよね。……まぁ、なんて言いますか。それって、ある意味『臭い物には蓋をしろ』の理論の様に感じるんですけど」


今、奈緒ネェが言った様にね。

私も根本的な部分では『他人の振り見て、我が振り直せ』でOKだと思うのね。


人って言うのは、他人の嫌な所を見て『絶対に、あぁは成りたくないなぁ』って思って、自己を修正するもんだからね。


だからこれは、決して間違った意見ではないと思う。


……でもね。

逆に言っちゃえば、これって、その人を見下してるだけって事にもなるんだよね。


勿論、私も、今さっきまで、これで正解だと思ってたんだけど。

奈緒ネェと話してる内に『ある事』に気付いて『臭い物には蓋をしろ』の理論に至っちゃった訳なのよね。


その『ある事』って言うのがね。


どういう経過であれ、さっきの利己的な人とも、私が知り合った事には違いない……って話。


だったら、私の理屈から言えば『この人も幸せに成って欲しい』って思うのが筋だと思うの。

鬱陶しいからって『必要ない人間』だと判断してる時点で、自分こそが最低な人間なんじゃないかとも思える。


そう言う『間違った特別扱い』は必要ないんじゃないのかな?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


漸く奈緒さんと合流出来た眞子なのですが、テンションはダダ下がり状態。

当然、そんな眞子を見た奈緒さんは『これはまた、なんかあったな』っと勘づき。

そうなった眞子の経緯を聞いてくれたようですね。


奈緒さんは、いつも優しいです♪


さてさて、そんな中。

今回の一件で眞子が辿り着いてしまった『臭い物には蓋をしろ理論』

これを奈緒さんは、どんな風に相談に乗ってくれるんでしょうね?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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