第36話 どういうことですの…?

 フィッツとの勝負が始まる前、カイチューは私に向かってこんなことを言った


『フィッツはイカサマを仕掛けてくる』


「それは……絶対ですの?」

『ああ、絶対だ』


 ランスくんが出ていった部屋の中、目の前にはフィッツが置いていったトランプの束があった。

 フィッツが「イカサマの仕込みがないかいくらでも確認してていいよ」と言って置いていった物だ。


「でもこのトランプ、1枚ずつしっかり見たけどなんにもおかしいところありませんわよ?」

『俺も見たが、特に何もなかった。質感も匂いも普通だ。少しの傷も入っていない真っ新な新品だな』

「カイチューがわからないなら私にもわかりませんわ。じゃあなんのイカサマをするっていうんですの?」

『現状はわからない』


 わからないって……それじゃあどうすることもできませんわ!


『ただ、わかることもある。フィッツがなぜハイカードを選んだかということと、どうして二対二にしたのかってところ』

「そうですの……ん? なんで二対二かって、さっき私が言ったランスくんは戦力にならないってのが答えじゃありませんの?」


『ほぼほぼ正解ってだけで、完全な正解じゃない』

「じゃあ正解はなんなんですの」

『……今のお前に伝えたくない』


 なんですのそれ! 意味が分かりませんわ! もうもう!


『まあつまりだな、勝負が始まる前にやって欲しいことってのは、ある場所に行ってほしいってことなんだが……』



**********



☆4ターン目 所持チップ(アリン:34 ランスロット:35 フィッツ:55 エンデッド:36)

FP:フィッツ LP:エンデッド


「ハッハッハッハッハ! 見たかアリン・クレディット!」


 3ターン目の勝利にフィッツはまだ酔いしれている。晴れ晴れとした高笑いを抑える気はないみたいですわ。


 カイチューはそんなフィッツの様子に動じることはなく、あくまで平然としている。


「何言ってるんですわ。まだ後7ターンもある。十分巻き返せる差だ、ですわ」

「いいねその強気な感じ! そうでなきゃここに来た意味がない! 惨めに頑張ってくれよ、俺のためにさあ!」


 だが、そんなカイチューの反応はフィッツを喜ばせる材料にしかなっていない。


 ターンが始まり、それぞれがカードを引く。


「なんとでも言えばいい。このゲームの勝者は、最後までわからない」

「確かにそうだ。勝者は最終ゲーム終了時の獲得チップ数で決まる。でも残念、お前は初めから負けてるんだ」


 ファーストプレイヤーのフィッツは、先ほど増えたチップの山を無造作に掴む。


「レイズ」


 そして、それを乱雑にテーブルに落とす。チップはガランガランと音を立ててテーブルに散らばる。それでも飽き足らず、フィッツは追加で何枚かチップを放り投げる。


「これで17枚……いや、18枚か。まあ十分だな」

「へえ~そんなに強いんだ」

「まあね、どうやら幸運の風は俺に吹いてくれているようだ」


 フィッツが言ったことはあながち嘘ではないのかもしれない。カイチューが引いたカードは3。勝負する意味のないカードですわ。


 それに、ここで勝負する意味もありませんわ。降りたとして場代のチップ2枚失うだけですし。


『ランスくんもここは降りた方がよさそうですわね……カイチュー、合図を送って』

「……」


 カイチューは私の言葉に従ってランスくんに手で合図を送る。これでランスくんも降りてくれるはずですわ。




「……コール」




『……え?』


 ランスくんのその言葉に、私は耳を疑った。でも、聞いた言葉は間違っていなかったようで、ランスくんはチップを前に出す。

 

 今、コールって言いましたの? あっ、そうか。強いカードを引いたんですのね。


 それならばと私は安心した。ランスくんが一度もこちらを見ていなかったような気がしたが、きっと気のせいだ。


「フォールド」


 当然カイチューは降りる選択。続けてエンデッドもフォールド。フィッツの手番が来る。


「チェック。オープン、Kを引いた俺の勝ちだ」


 あまりに簡単にフィッツは結果を告げる。結果を見る前からこうなることがわかっていたかのように。


 フィッツのカードはK。対して、ランスくんが引いたカードは……


『え……6!?』


 どういうことですの……? この場面で勝負したから、QとかKみたいなもっと強いカードを引いていたんじゃありませんの?


 こんなの、まるでランスくんが……裏切ってるみたいじゃ……


 ランスくんの顔は、下を見て俯いている。


「……へえ」

「ハハ、ハッハッハッハッハ! ようやくこの場の状況に気付いた?」


 一層うるさい高笑いを上げ、フィッツは立ち上がった。それはまさしく勝者、圧倒的強者の振る舞いそのものだった。


「運? 駆け引き? そんなものこのゲームではもう関係ない。それよりも重大な法則が支配する」


 フィッツが放つその言葉、その喋り方で理解してしまう。どうしようもない一つの事実を。


 みたい、ではなくて、そうなのだ。


「それが数の暴力! ランスロットがお前を裏切った今、チップの合計は三人で128枚! 対してお前はたった32枚」



 ランスロット・レイはフィッツの側についた。裏切ったのだ、彼は。



「三対一だ、少しは絶望してくれたかな?」




 4ターン目終了時 所持チップ

(アリン:32 ランスロット:18 フィッツ:78 エンデッド:32)

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