第34話 ハイカード ルール
「――でルールは以上だ。特に質問がないなら、開始まで俺たちは失礼するね」
そう言い残すとフィッツはエンデッドを連れて部屋を出ていった。それを見届けると、カイチューは懐中時計を二回撫でる。
『え、もう戻るんですの?』
「勝負は一時間後だ。勝負前に気絶したら意味ないだろ」
『確かに、そうですわね』
誕生日パーティーの時に気絶した原因は、おそらく長時間入れ替わったから。だから、勝負の時以外は私のままでいた方がいいですわね。
私は意識を体に向け力を籠める。するりと意識が自分の体に戻るのがわかる。
目を開けると部屋は先ほどまでの言い合いが嘘のように静まり返っている。中央のテーブルの近くにいるランスくんは、椅子にも座らず立ち尽くしている。
『あいつの対応はお前がしろよ』
「……わかってますわよ」
カイチューに言われるまでもなく私はランスくんに近づく。けれど、かける言葉がわからなかった。彼を心配する言葉をかければいいのか、大声で笑い飛ばせばいいのか。
「ランスくん……」
「アリンお姉さん……ごめんなさい」
彼はまず謝罪をした。とても自然に頭を下げたものだから、私は一瞬反応が遅れた。
「ど、どうしてランスくんが謝るんですの!」
「だって、ぼくのせいでまたこんなことに巻き込んでしまって……」
「違いますわ! 悪いのは全部フィッツの方ですの!」
そうだ、この状況はおそらく全てフィッツが仕組んだもの。それに巻き込まれた私たちは被害者であり、ランスくんが謝る必要なんてどこにもない。
それでも彼は頭を下げ続ける。それはきっと、ランスくんが背負っているものの重さのせいなのかもしれない。
代々優秀な騎士を輩出してきたレイ家の血の重み、先代フィガロット・レイを父に持つ重み、幼くして家の当主となった責任の重み……しかし、私は知っている。ゲーム本編でのランスくんはそんな重さを背負ったうえで乗り越えている。苦難にあったって最後まで立ち続ける強い人なんですわ。
「それに今はこのことを喜ぶべきですわ! だって解決策が向こうからやってきたんですのよ? これで勝って告発文を手に入れたら、それが偽造されたものだって公表できますわ! それで、レイ家の騒動も収まりますわ!」
「もし……告発文が偽造されたものじゃなかったら?」
「そんなこと絶対ありえませんわ!」
今は騒動の大きさゆえに弱い心が大きくなっているだけで、騒動が収まればきっと街に行った時みたいに元気なランスくんに戻りますわ。
「そうだ! ルールをもう一回おさらいしておきましょう! フィッツってば結構いっぱい言ってましたからね。たしか……」
~"2 VS 2 ハイカード" ルール~
アリン&ランスロット VS フィッツ&エンデッド
※概要
プレイヤーは引いたカードで勝てるかどうかをチップで賭ける。勝った場合賭けられているチップを全て手に入れ、負けたら失う。これを10回行い、最終的に合計チップ数が多いタッグが勝利する。
1.はじめにプレイヤーは一枚山札からカードを引く。全員が引き終わるとそれを公開する。その時、公開されたカードの中で最も強いプレイヤーが勝者となる。これを1ターンとする
2.勝負は全10ターン行う
3.1人40チップを初期の手持ちとする
4.1ターンはベッドフェイズとオープンフェイズに分かれる
5.ベッドフェイズの初め、プレイヤーは固定額の場代を支払う。場代は1ターン目がチップ1枚であり、以降奇数ターン目で1枚ずつ金額が上がっていく。(3.4ターン目は2枚、5.6ターン目は3枚)
6.プレイヤーの手番は時計回りに進行する
7.そのターンに置いて手番が最後のプレイヤー(ラストプレイヤー:LP)は、手番が最初のプレイヤー(ファーストプレイヤー:FP)が宣言を行う前に場代と同額のチップを場代とは別にベットしなくてはならない
8.プレイヤーは手番が来た際にアクションを行う。行うことができるアクションは、コール・レイズ・フォールド・チェックの四種類である
コール…場に出ている最高金額と同額になるようチップを支払う行為
レイズ…場に出ている最高金額以上になるようチップを支払う行為
フォールド…そのゲームの勝負から降りたことを宣言する行為
チェック…場に出ている最高金額と同額を既に支払っている場合可能。自分の手番をパスする
9.ベットフェイズは全プレイヤーがコール、チェック、もしくはフォールドを宣言するまで行われる。この時、他プレイヤーのフォールドの宣言で残りプレイヤーが1名になった場合、そのプレイヤーがターンの勝者となり、場に支払われているチップを全て獲得する
10.コール、またはチェックを宣言したプレイヤーが2名以上残っている場合、オープンフェイズに移行する
11.オープンフェイズでは、プレイヤーは自身が引いたカードを公開する。この時、最も強いカードの所持者が勝者となり、場に支払われているチップを全て獲得する
12.カードの強さは、2<3<~<Q<K<A とする。ジョーカーは使用しない
13.公開されたカードの一番強い値が同じだった場合、引き分けとして場に支払われているチップを引き分けたプレイヤーで等分する
14.プレイヤーが引いたカードはターン終了時に捨て札として一か所に集めて置き、以降のゲームでは使用しない。また、フォールドしたプレイヤーの所持カードは公開せずに捨て札にしてもよい
15.ターン終了時にチップ枚数が0になったプレイヤーは、以降のゲームに参加することはできない
※禁止事項
ゲーム中、ターン終了時の精算以外でのチップの受け渡し
他プレイヤーへ故意の妨害行為
他プレイヤーが引いたカードへの接触行為
故意に自身、もしくは他者が引いたカードを手や物で隠す行為
引いたカードを他のカードにすり替える行為
明らかな遅延行為
他者への暴力行為
※勝利条件:10ターン終了時に味方プレイヤー二人の合計チップ数が相手プレイヤー二人の合計チップ数を上回る。もしくは、相手プレイヤー両方のチップが0枚になった時。
~~~~~
「色々ありますけど、要は強いカードの時にたくさんベットして、弱いカードの時は降りたらいいって話ですの」
「そう、ですね」
「大丈夫ですわ! 私が必ず勝ちますわ! ランスくんは……そうですわね、強いカードを引いた時に勝負してくれればそれでいいですわ! あ、私たちだけに伝わる合図とか決めておきます? この指をしたときはフォールド、みたいな」
「……ごめん、アリンお姉さん。風に当たってくる」
そう言ってランスくんは部屋を出ていってしまった。
話している時、ランスくんは一度も私の方を向いてくれなかった。その表情は暗く、固い。何か別のものに心を囚われてしまっているみたいだった。
一人部屋に取り残されてしまった私。その部屋は使っていない部屋の一つだとキーノさんは言っていたが、確かに部屋の中は生活感が少ない。全体的に部屋が綺麗なのは毎日の掃除が徹底しているのもあるのだろうけど、ランスくんが部屋の物に極力触れないようにしているからだ。彼の所作を見ていればなんとなくわかってしまう。
ここで、ランスくんはいったいどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
「うわーんなんて言えばよかったんですのー!」
『まあ模範解答レベルだな。そんな気を落とすなって、今は状況が悪すぎる。それに、勝負は俺一人で勝てる』
まあ、そうですわね。人生を大きく左右する騒動のさなかにいながら、いきなりこんなことに巻き込まれて心が乱れないわけがないですもの。
「もう……こうなったのも二対二とか言い出したフィッツのせいですわ! ……でもどうして二対二にしたんでしょう。このルールなら私とフィッツの一騎打ちでも問題ないと思うんですの」
『二対二の方が、フィッツに有利だからだろうな』
「なんでですの? 人数的には同じですけれど……あっ! 今のランスくんは戦力にならないから実質二対一にできるってことですの!?」
『まあほとんど正解だな』
「最低最悪ですわ~~!!」
そんな卑怯な作戦のためだけにランスくんまで巻き込んだなんて、許せませんわ!
……でも、現状のランスくんがまともにゲームできるかというと、怪しいのは事実ですの。もちろん私はランスくんが力になると信じていますけれど。
それでもやはり、ランスくんが正式に騎士になり本編通り学園に入学するという正しい運命のためにも、私が頑張らなければならない。
この勝負、絶対に勝ちますわ! ……といってもやるのはカイチューですけど。
「本当に、本当に勝ってくださいまし!」
『わかってる。けど、その前に一つやって欲しい事がある』
そう言ったカイチューの口調は、状況とは裏腹にどこか楽しそうだった。
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