第33話 決闘と勝負内容ですわ!

 貴族間の決闘、それは『エーデルワイズのお姫様』でも起こるビッグイベントの一つ。不平不満を持った貴族と貴族が、その威信を賭けて戦う。


「学のない君に教えてあげるよ。貴族に勝負を申し込むときはこうするのがマナーなんだ。さあ拾え、アリン・クレディット」


 そして、決闘を相手に申し込む時は白い手袋を投げつける……本編ではランスくんがロッテを傷つけた相手に対し決闘を挑むシーンがあって、9年後にそれを見るのを楽しみにしていたんですけれど、まさか先に自分が体験するとは思ってもいませんでしたわ!


 私は胸にかけた懐中時計を二回撫でる。


「……お願いですわ、カイチュー」

『わかったよ。アリンはそこで見とけ』


 昨日決めた入れ替わりの合図だ。私の意識が懐中時計に吸い込まれていく。それに抗うことをせず、身を任せる。

 すとんと落ちるように魂が入れ替わる。カイチューが私の中に入った。


「ふう……拾う、でいいのかな? フィッツ様」


 私になったカイチューはまず目の前の白い手袋を拾う。


「うわっ、めちゃくちゃ湿ってるじゃん。ポケットの中で握りしめすぎですよフィッツ様。あなたがガタガタ震えながらさっきの用意したセリフを喋ってたと思うと泣けてきますの」

「はは、よくもまあそんな品のないことをペラペラと並べ立てれるものだ。やはり君は貴族失格だね」

「そんなわたくしに勝負したくてわざわざ来たフィッツ様はとても素晴らしい貴族ですわ」

『さっそくバチバチですわー!』


 まずはジャブの打ち合いみたいな感じで煽りあう二人。両者ともにわかりやすいペラペラな笑顔を張り付け、相手を傷つけるためだけに用意した言葉をぶつけ合う。


 ただ一つ前回と違うのは、フィッツには余裕はあっても慢心を感じられないところだ。こちらを見据える目はペラペラの笑顔に似合わないほど鋭く、真っすぐに捉えている。


 カイチューは、はぁ……とため息を吐く。


「で? 勝負内容はなんだ、ですわ? わたくしと剣術比べでもする? シュッシュッ」

「まさか、腕っぷしで君に勝ったところで何の意味がある。勝負はこれだ」

『……トランプ?』


 フィッツが懐から取り出したのは、トランプが入ったケース。フィッツはケースを開けてトランプを取り出し、目の前でシャッフルする。


「勝負内容は、ハイカードだ」


 ピッと二枚カードを引き、こちらに見せつける。二枚のカードは、どちらとも大鎌を持った死神が描かれたジョーカーのカード。フィッツはそれを床に捨てる。


「お互いチップ40枚を最初の手持ちとして、それを賭けて奪い合う。10ゲーム終わった段階で多い方が勝ちだ。詳細なルールはあとで説明するよ」

「ふーん」

「重要なのはこっち。この勝負は俺と君の一対一じゃない、二対二のタッグで行う」


 フィッツはそう言って後ろに立っていたぽっちゃり黒髪……エンデッド・バースの肩をポンと叩く。


「俺はエンディ、エンデッド・バースをパートナーにする。君のパートナーはもちろんそいつだ」

『ランスくん……』


 フィッツに私のパートナーとして指名されたのはランスくんだ。ランスくんはあの誕生日パーティーの時と同じように顔を下に向けて、ただじっと床を見ていた。


「勝負は一時間後。場所は……アリン、君が決めていいよ」

「まあここでいいでしょ。特別な場所が必要ってわけじゃないし」

「いいのかい? もしかしたら先に来てた俺がここに何か仕込んでるかもよ?」

「いいよ。だって、それでもわたくしが勝つから」


 カイチューの強気な発言にも、フィッツは顔色一つ変えない。やっぱり、フィッツには何かある。それがどういった類のイカサマなのかは私にはさっぱりだけど、”確実に勝つ”以上のなにかを仕込んでいる、そんな感じがする。



「オッケー。じゃあルールを説明する――」


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