アリンお嬢様 7歳編
誕生日パーティ編
第5話 たのしいパーティーですの!!
「キーノさん、おたんじょうびおめでとう! ですわ!」
素敵な黄色のドレスを召しているキーノさんは、私の目の前で花が開くようにぱぁっと笑顔になった。
「ありがとうアリンちゃん……うれしいな」
私は今、ご友人のキーノさんの7歳の誕生日パーティーにお呼ばれされてますの!
会場はキーノさんのお屋敷のダンスホール。小さい運動会が開けるのではというくらい広々としており、思わず走り回りたくなりますわ! と、いつもはここで走り出す私ですが、今日この日ばかりはキーノさんが主役なんですの!
「アリンちゃんもこの前誕生日、だったよね……」
「そうですの! これでわたくしとおないどしですわね!!」
「えへへ……」
照れた顔もかわいいですわ~~!! ピンと跳ねた紫の髪がとってもキュート!
キーノさんのお名前はキーノ・ハイローラ。ハイローラ家とクレディット家は私が生まれる前からのお付き合いですので、それもあって私とキーノさんはめっちゃ友達なんですわ。
それに、ハイローラ家は何かと理由をつけてこうした催しを開きますの。キーノさんのお父様が派手好きでパーティー好きなのもありますが、そのおかげでこうしてキーノさんと頻繁に会えて私も嬉しいですわ! お父様はあまり外出を許してくれませんので。
私はふわふわと笑っているキーノさんに、リボンのついた横長の木箱を渡す。笑ってるところ悪いですが、追撃ですわ!
「これ、プレゼントですの!」
「え……いいの!?」
「いいんですの! さあ、あけてごらんなさい!」
街で手に入れた逸品ですわ!
木箱を手に持って一層笑顔が華やぐ姿を見て、少し心配に思うこともある。
それは、彼女が『エーデルワイズのお姫様』に出てきているということ。
名前は出ていないんですが、紫髪の少女が主人公の同級生として登場しますの。それだけだと断定できませんが、その紫髪の少女が私の取り巻きAでしたので、十中八九同一人物でしょう。
まあ、あんまセリフありませんでしたし、そんな影響はないと思いますわ!誕生日プレゼントは去年も一昨年も渡しておりましたし。
キーノは中を見ると、目をキラキラ輝かせた。
「わ! かわいいお花の髪飾り……」
「お~ほっほ! よろこぶといいわ!」
ビシィッと決めポーズをして宣言する。私が選んだ白のお花の髪飾りは、キーノさんの美しい紫の髪の毛に絶対に合いますの!!
これを付けた姿を想像するだけでかわいさで爆発してしまいますわ!!
「大切にするね……私、去年もらった栞も、その前の花の指輪も、大切に大切に保管してるから……」
「それはすばらしいですわね!」
『この女やべーんじゃねえか?』
ふいに、私の首にかけた懐中時計から声が聞こえる。
「おだまりなさいカイチュー!」
「え、カイチュー?」
「あ、いえ、なんでもありませんわ!」
「確かに、アリンちゃん今日首に懐中時計下げてる……?」
「こ、これは、さいきんおきにのおもちゃですの! お~ほっほ!」
『誰がおもちゃだガキンチョ』
このおしゃべり懐中時計、カイチューは屋敷に置いておきたかったのだけれど、行き帰りの馬車の中が寂しいので仕方なく持ってきている。
カイチューとここ数日過ごして気づいたことがある。それは、何かにつけて私とギャンブルしようとする(いちいち魂を賭けさせる)こと、体の乗っ取りは意識すれば意外と防げること、そして、カイチューの声は私にしか聞こえないということですわ。軽薄でギャンブル狂いなところを除けば、いい話し相手になってくれますの。
まあでも花の指輪はさすがに処分した方がいいと思いますわ。虫とか沸きそうですし。
キーノさんは箱から髪飾りを取り出し、さっそく髪に装着している。
「ど、どうかな。アリンちゃん……」
「まあ! とってもかわいらしいですわ~! わたくしのみたてどおり、そのすてきなおぐしにすごくあってますわ!!」
「えへ、えへへ……私の髪、褒めてくれるのアリンちゃんだけだよ」
「そんなことありませんわ! もっとほこりなさい! お~ほっほっほ!!」
私は最近ようやく様になった高笑いをする。パーティー会場はハイローラ家の人脈のおかげで大勢の高貴な方々で溢れかえっている。ちょっと大きい声を出しすぎた気もするけど、私が騒いだところで大人たちは談笑の合間に気品のある目線をちらりと向け、次の話題が子供の成長についての話になるのがせいぜいだ。
人は話の合う集団に集まるように、こういうったパーティーの際に子供たちは子供たち同士で集まる。現に、子供同士で何やら話したり遊んだりしているグループが近くに何個かある。私は友達が少なく、キーノさんはどちらかと言えば内向的でお淑やかな性格ですので、厄介な最初の挨拶が終わればこうして二人だけで話すことがほとんどですの。
「そうだキーノさん。わたくし、さいきんすごいわざをおぼえたんですの!」
「え、そうなんだ。見たいなあ。どんな技なの?」
「ふっふっふ……なづけて、スーパーくるくるコイントスですわ!」フンス!
「わぁ、かっこいい……!」
『お前まだそんなに成功率高くないだろ』
「ちょ……! うるさいですわ……!」
「……? アリンちゃん?」
「お、おほほ~ほ~。なんでもないですの~↑」
「そう……」
なんだか変に怪しまれているような気がするが、ごまかすように金貨を取り出す。
……ようやく、ようやくこの技をキーノさんにおみ出来る日が来ましたの。
「このきんかをですわね、てではじいてキャッチするんですの!」フンスフンス!
「へぇ~!」
「いきますわよ~~~「うわああああああん!!」って、なにごと?」
その時、近くの子供グループの一つから、のっぴきならない声が聞こえる。
「ううううう、ひっぐ……やめてよぉ」
それは例える必要もない、小さな子供が泣く声だった。
「うう……返して、返してよぉ……」
「はっはっは! 泣いてるぜこいつ! 汚い顔だなおい!!」
「あっはは! もっと男らしく泣けって! なあ!」
見ると、向こうのテーブルで、少し年上の男の子二人が私と同じくらいの子から何かを取り上げていた。片方の男の子が取り上げた物をその子の頭上でひらひらとさせており、その子は必死になってぴょんぴょんと取り返そうとするが、何度跳ねても届かない。
この騒動に、周りの大人たちは自分たちの話に夢中になって気づいていない。
……いや、気づいていないなんてありえるの?この貴族社会、影響力が何より物を言う。つまり、真っ先に考えるのは、影響力のある家の子の機嫌を損ねた時、どう自分たちに返ってくるか。
周りの子どもたちはその二人の男の子を見て、目立たないように離れていっている。
ならば大人はどうだ。もう一度静かに周りを見る。ワイングラスを片手に、談笑に励む大人たちから感じるのは、冷たい視線だった。
きっとみんなは天秤にかけた。助けることと、放置することを。その上で、気づかない方が賢明だと、判断したのかもしれない。
「うわああああああん!」
「おいおいそんな大きな声だすなって。そんなんじゃ馬鹿になるよ?」
「これはもう馬鹿になってるんじゃねえの? ハハハハ!」
この状況こそが答えなのだ。
私は、どの貴族が影響力があるだとか、そういった事情は父から教えていただいてないからわからない。
「アリンちゃん……」
キーノさんが、私のドレスの裾をきゅっと握る。その手はぷるぷると震えている。
それでも、私は知っている。ここでは弱い方が罪なのだ。この光景は仕方ないことだと飲み込んで、悪くなった気分を晴らすように楽しくキーノさんとの談笑に戻るのが正しいことなのだ。
たったそれだけ。
だからこそ、
「あなたたち! なにをしてらっしゃるの!」
私の足は自然に動いていた。
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